第232話 今回の記念公演は……

 衣装係の由香と一花いちかが生徒たちに声を掛ける。

「舞台が始まって最初にシュタールバウムさんの家に向かう家族を演じる出演者の方たちは集まってください」

 雪の降る中を歩いて行く四組の家族にコートを羽織らせる。子ども役の、ゆいと真由、小学生低学年の生徒には可愛らしいフード付きストールを羽織らせる。

 可愛らしい帽子の付いたストールを着せてもらったゆいと真由は嬉しそうに鏡の前に立って自分たちの姿を見る。フードの付いたストールを着せてもらった子たちが、皆あまりに嬉しそうにするので衣装係の由香が、

「みんな、このフードのストールは最初の場面だけね。シュタールバウムさんの家に向かう場面だけよ。クリスマスパーティーのところでは、このストールは取るからね」

 と言うと、唯や真由たちが元気に手をあげて、

「はーい」

 と返事をする。

 真理子と青葉あおばが見学席のお母さんたちに声を掛ける。

「すみません。この最初のシーンにお子様が出演されるお母さん、ちょっと集まってください」

 見学席のお母さんたちが稽古場に集まって来る。衣装係の由香と一花いちかがお母さんたちに説明する。

「この衣装は本番当日はお母さまたちに手伝って頂きますので、衣装の付け方を見ておいてください」

 フード付きストールの羽織らせ方を教える。

「当日は忙しくなると思いますので、お互いに他のお子様のお手伝いもしてあげてください」

 お母さんたちもスタッフの一員となる。普段の発表会でも舞台当日のみならず、舞台が近づいてきたら、小さな子どもたちの手伝いをしているお母さんたちだ。この公演でもお母さんたちは手伝いをする。今回は青山青葉あおやまあおばバレエ団のスタッフも手伝いに付く。

 自分の子どもだけでなく、困っている子がいたら、すぐに手伝ってあげられるように衣装や髪飾りのことを、由香や一花いちかたちスタッフが丁寧に教える。お母さんたちも真剣な表情で由香たちの説明を聞く。

 由香が言葉を添える様に言う、

「当日は舞台が始まったら、お母さんたちには客席で観て頂きます。一幕が始まる前と二幕が始まる前の休憩時間だけお手伝いお願いします。後はこちらのスタッフが付きますので……普段の練習の時と、舞台前と休憩時間だけお願いします」


 舞台の本番当日は青山青葉あおやまあおばバレエ団の衣装係、舞台美術スタッフのほぼ全員が舞台裏に付くという。

 舞台で演じられる『くるみ割り人形』の振り付け演出だけでなく、出演者もプリンシパルのダンサー美織みおり、すみれ、古都こと瑞希みずき、優一、恵人けいとの他、とおるげん、さらに寿恵としえのぞみしずか、今回、急遽決まった木島剣きじまけんというトップダンサーたちが出演する。

 それに加えて衣装係、舞台美術などスタッフも、いつも青山青葉あおやまあおばバレエ団の公演を仕切っているメンバーが全員で舞台を支える。

 そして、曲は新高輪フィルハーモニーのフルオーケストラの主要なメンバーが勢ぞろいしコーラスも付く。


 これはまるで青山青葉あおやまあおばバレエ団の公演、それも普段の通常公演ではなく、名門バレエ団の総力を挙げての大舞台に、花村バレエの生徒たちが全員参加させてもらう様な舞台になる。園香そのかはそんな風に思った。

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