相棒はDEM

アキラ

プロローグ

 様々な科学技術と種族が無数に広がり、それと同時に数限り無い問題も溢れる銀河の中、地方都市的な星の真ん中から少し下辺りの治安を誇る歓楽街に俺は居た。

 街の上空はどんよりと暗い雲が覆い、その身に溜めた軽度の汚染物質と共に雨を降らしている。そんな気が滅入る様な天気の下、多くのそして様々な人が行き交っていた。


 薄汚れた都会の雑踏の中を一人寂しく歩いていると、つい元居た世界を思い出してしまいそうだった。あの時から随分と身形が変わった物だと、自嘲的な笑みが汚れた空気と様々なから守ってくれるフルフェイスヘルメットの中で生まれる。

 元の世界だと、雨からは只の傘で身を守っていたのに今では特殊繊維で編まれたポンチョと多目的ヘルメットなのだから、仕方が無いだろう。


 辺りに乱立するビルには欲望が噴き出す様なネオン風のホロ看板が掛けられており、入口辺りには従業員らしき人物が露出の多い服装で立っている。壁には落書きに隠れた違法な拡張現実投射機ARプロジェクターが無数に埋まり、ちゃちなブロッカーしか載せて無い様な視覚補助デバイスには、それらが様々な広告をこれでもかと表示させているだろう。

 一度、それらを味わった事が有る。鬱陶しい事この上ない経験と共に、自身が身に着けるヘルメットと接続しているデバイスの優秀さに感謝の念を抱いた。

 

 辺りの人々は様々な容姿の生物が混在しており、この街の多様性を表している様に見えるが、その本質は違う。この街には基本的に三種類の人間しか居ない。負け犬達とそいつ等を食う畜生以下のクズと、そんな二者を嘲笑う神気取りの下種だ。

 正直、仕事が有るからこんな街に長居しているが、そうで無ければ直ぐにでも自分の船に飛び乗り、カラッと乾いて暖かい元の街に帰りたい。


 仕事、そうだ。こんな、湿気て人が多くて目に毒なネーチャンが多い街に根っからのインドア派であり、所謂コミュ障の俺が最も苦手な場所を彷徨っているのは、引き受けている仕事の所為だ。

 それも嫌な仕事だ、なんせ場所も悪ければ内容も悪いと来た。こんな人の多い街で一人の悪党を見つけ、その上で身柄を押さえて生きたままクライアントの下へ連れて行かなければならない。


『ボス、標的が餌に喰い付きました。コチラの照準で捉えています。』

『分かった。エヴァとアンフェラはハゲタカ共の巣へ侵入準備。サノクタァはそのまま獲物をスコープに捉え続けろ。ミックとフェルススは罠の口を閉めてくれ。ザロノックは船に火を入れて直ぐに飛び立てる様にするんだ。今日でこの出張を終わらせよう。』


 本当に優秀な部下や機械仕掛けの神デウスエクスマキナの様な相棒が居なければ、倍の報酬額でも受けなかっただろう内容だ。

 そんな優秀な部下達が獲物がのこのこと罠に掛かったと知らせてくれたので、予定のポイントへ憂鬱な気分で街を彷徨っている足を向けた。

 

 通信相手は俺の多機能ヘルメットに搭載されたヘッドアップディスプレイ(HUD)へライブ映像を送って来ったので、それを視界の隅へ表示する。

 歩きつつも視線を映像へ向けると、丸く縁取れられたそれの中心には十字線レティクルが描かれていた。この映像がスナイパーライフル等に搭載された複合センサー搭載の多機能スコープから送られている物だと示す証拠だ。

 アングルは高所から通りを見下ろした状態の物で、映像の外れには自分の身体が正面から映っており、俺の進行方向に建っているビルの上層から撮られている様だ。


 広角だったそれがズームして行くと、十字線は俺の背後を付いて来る三名の不審者の内、中心に立つ男の頭部を捉えた。そいつは軽度とは言え汚染雨が降るにも関わらず、雨具を使わずに歩いてくれているお陰で人相のスキャンが簡単に出来る。

 スキャン結果は見事にターゲットを示しており、自分自身を餌にして苦手な人込みを歩き続けた甲斐が有ると言える物だった。


「ガス、予定地点までのルートとターゲットをメットに表示してくれ。」

「了解しました。」


 所持している携帯端末に搭載された相棒の支援AIへ追加の指示を出す。彼ならこの内容で、追跡者が怪しまないルートとそいつ等の位置や補足情報を表示してくれる。

 再度、映像へ目を向けると自分達が獲物を甚振る側だと信じて止まない追い剥ぎ共が、下卑た視線を俺の背中に投げかけて来る所だった。その活動が終点へと向かっている事を考えもして無いのだろう。


『ボス、配置に着きました。作戦行動可能です。』

『コッチも侵入準備を完了したわ。そっちが行動を始めたら中のお掃除を始めるわね。』


 目標地点である裏路地に入って直ぐに仲間達から通信と二つのライブ映像が届いた。近場の仲間からは、ターゲット達を上から見下ろす視点の映像で、遠くの仲間からはビルの入り口が映る物だ。どうやら、報告どおり彼等の行動準備が整ったらしい。

 

『よし、好きに初めてくれ。さっさと終わらせよう。』


 仲間に通信を送った直後、ターゲットが仲間と共にが俺に襲い掛かろうと武器を取り出した。まだ、表通りから視線が通ると言うのにせっかちな奴等だ。

 そんな奴等の行動が次の段階に移る前に頭上で待機していた大小二つの人影が現れた。


 金属で構成されたその人型達は着地点をチンピラ共の真後ろに定めており、一方は盛大に音を立てもう一方はほぼ無音で小汚い路地に舞い降りる。

 俺を襲う予定だった男達は背後の音にビビッて立ち尽くしてしまい対応が遅れ、先制行動を許す結果と成った。


 人影たちはターゲットである男の襟を掴んで引き倒し、自分達の動作に巻き込まれて死なない様に退避させる。男は急激な視界情報の変化と背中から肺や横隔膜への衝撃で、身動ぎも出来ずに目を白黒させて固まってしまう。

 天を仰ぐ様に倒れた男に小型の人影が更なる追い打ちをかける。男の胸部へ流れる様な動作で脚を乗せ、地面に固定したのだ。厳つい金属製の脚は見た目通りの重さを発揮し完全に動きを封じていた。

 

 他の二人がそれらに気付いて行動に移した時点で、彼等の命運は尽きていたと言っても過言では無いだろう。背後の脅威へ対処する為に振り向くと言う動作は、それよりも早く実行された鉄拳による殴打とナイフによる刺突によって妨げられる。

 奴等が手にした武器は一切の活躍を奪われ、地に落ち、その身を持ち主の体液で汚す。傍の薄汚れた壁には新しい汚れが飛び散り、濁った水で濡れた通りに二つのゴミが転がった。


「二人共、良くやった。ターゲットを回収して船に向かってくれ。エヴァ、そっちはどうだ?』

『制圧は終了したわ。今アンフェラが情報を漁ってる所よ。直ぐに終わりそうだから、先に船へ戻ってて良いわよ。』


 頭上から襲撃を掛けた二人は俺の部下であり、その姿も人型だが人間では無い。ロボットだ。それも戦闘用のロボットだとこの世界の大多数が分かる様な厳つい外見をしている。

 その外見に見合った強化を施しているので、いくらガタイが良いとはいえ只のオッサン一人分の重量など運搬する上で何の障害にも成ら無い。


 命令を聞いた二人はターゲットを大型な方のロボットがターゲットを担ぎ上げ、小型の方が先行して裏路地の奥に広がる闇へ姿を消して行った。

 

 別行動していた仲間の方も無事に戦闘を終えた様だ。彼女が言う様に残りの作業も俺が船へ着く前に終わってるだろう。

 今から向かってもする事が無い様なので、船を止めてある宇宙港へ帰る為に街を繋ぐメトロへ移動する。


『ザロノック、二人の援護と送り迎えを頼む。俺はゆっくりと船へ帰るよ。』

『了解。』 


 表通りの監視作業をしていた狙撃手に別行動中のメンバーを迎えに行くよう伝える。俺は作戦の都合で徒歩移動をしていたが、彼と先に戻る様に伝えた二人は空中を飛べるリパルサービークルを使用している。

 一つはターゲットのオッサンを運んでいるので、席の空いている方を迎えに寄こす事にしたのだ。まあ、ボスの俺が交通機関を使用する羽目に成ったが。


「ガス、帰りにハンバーガーを買って帰ろう。仕事終りはファストフードが食べたい。」

「最適なルートを検索します。人混みを避ける場合は、遠回りの必要が有りますが宜しいですか?」


「そっちの方が良いな。」

 

 仕事を終えた充足感を感じながら、降り止まない雨の存在を全身で感じながら薄暗い裏通りへ身体を向かわせた。

 何時もの一日が終わろうとしている。

 

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