第59話
「さて、敵は何人位でお出迎えしてくれるのかね?俺はシャイだから、二、三人も居れば十分なんだがな。」
「どうやら、手厚い歓迎が待って居そうですよ。センサーモジュールが複数の生体反応を捉えました。先程の奇襲を受けた際は見落としましたが、今度こそ逃しません。」
ガスは突撃寸前に成って敵集団の反応を完全に捉える事に成功した様で、鼻高々と言った様子で話してだした。
メットにはブービートラップが仕掛けられている箇所と、敵の潜伏先が表示されていた。
敵は通路の各所にスマートボムを雑に仕掛けており、俺が妨害装置まで移動する事の妨害と、二階の本丸へ移動する様に仕向けているみたいだ。
「ジョン、どうやら彼等は貴方に話が有るようです。彼等の通信回線に貴方宛てのメッセージが投稿されました。内容は挑発的なので読まない方が賢明です。如何いたしますか?」
「招待してくれるなら、挨拶ぐらいはするべきだな。奴等に礼儀を持って接する必要が有るかは疑問だが。」
ガスからもたらされた敵からの招待状に、俺は此れまでの闘争が終息する可能性を感じた。
レベッカの短期的な安全はもう直ぐ確保出来るだろうが、相手の目的を探らない事には問題の抜本的な解決には成らない。
そこ等のチンピラに毛が生えた程度の傭兵なら耳を貸す必要も無いが、明らかに格上の奴等からなら情報が入手出来そうだ。
「ガス、土産も無しに相手の元まで行くのは気に食わない。小手先の技ばかりで恥ずかしいが、急なお誘いなんだから仕様が無いよな?」
「ジョン、サプライズは大事だと言いますので宜しいと思います。」
俺はお楽しみの道具を二つ取り出して組み合わせた後、それを建物内へ解き放った後で移動を開始した。
それまでの建物内と違って彼等が多少の掃除をしたらしく、血痕や弾痕は有っても死体は見当たら無い。
センサーモジュールとガスの分析を信じるなら、目的の部屋には敵が五人ほど待機している様だ。その内、四人は特殊部隊の様な重武装をしており、此れまでに倒した奴より厄介そうに感じる。
俺を刺した人物もショットガンタイプのブラスターを装備しており、先程の奇襲時は手加減していた事に愕然とした。
俺は募る不安に眼を背けて武器を納め、敵の集まる二階で一番大きな部屋の扉を開ける。
「ようこそ、新米傭兵君。やはり、我々の通信を傍受していたね。素直に来てくれて嬉しいよ。」
「招いてくれてどうも。そっちの人に刺されて重傷だから、さっさと要件を話してくれると有難いんだが。」
俺が部屋に入ると黒い素顔の分り難い衣装で揃えた五人組が視界に入る。真ん中に立つ一人だけ軽装な男が集団のリーダーらしく、話しかけて来たのでそれに応える。
話し出した男はスクラップヤードの監視映像に映っていた男が着ていた物と同じ物に見える高性能なスーツとアイウェアを身に纏って居た。
「それは申し訳無いな。なら、手短に話そうか。我々は雇い主が紛失した荷物を探している。彼女が入手した可能性が高い。それを回収出来れば彼女にそれ以上の用事は無い。」
「やっぱりか。彼女自身の身柄が目的だとしたら、随分と手を抜いた仕事振りだと思ったよ。」
奴の話の内容は此方の事前調査から予想出来た内容だった。
「欲しいのは、セリアンの男性が撮ったホロ入りのプロジェクターか?それとも一緒に入ってた有害なメモリか?どっちにしろ、彼女は持って無いぜ。」
「そう言うからには、何処に有るか君は知っているのかい?出来れば穏便に聞きたいのだが。」
俺がセリアンの名前を出した途端に、奴等の雰囲気が更に物騒な物に成った。
「ああ、勿論だ。それが有る所に案内する。そっちが望むなら今すぐにでも行っても良いが。その前に仲間と通信して情報の共有をしたい。それに、そろそろ痛み止めが切れそうだから、治療を受けたい。」
「分かった、治療は此方の衛生兵が行おう。それが済み次第、案内を頼めるかな?」
俺は男の問いに頷いて見せると、男は傍に控えて居た部下の一人に目配せをする。
それを受けた人物は直ぐに俺の側へ歩いて近寄り、携帯式生体スキャナーを取り出した。
俺は手近な椅子を引き寄せて座り込み患部が見える様に腕を上げると、同時に患部周辺のスーツが解除されて外部に晒され、傷口が目視で確認出来る様に成った。
傷口周辺は刺されたナイフよりも少し多きく肉が盛り上がり、急速に塞がれた事が見て取れる。
俺が身を捩って傷口を見ていると、スキャンの邪魔に思ったのか姿勢を無言で正された。
治療を始めた衛生兵の手際は非常に良く、気付いた時には幹部の麻酔を打たれており、直ぐに疼くような痛みや熱さが引いて行く。
麻酔の効き具合をスキャンで確認した後の手順は、彼がカッターナイフの様な機構をしたメスを取り出したので、見るのを止めて顔を正面へ向けた。
「直ぐに処置は済みそうかな?」
「ええ、この程度で有れば直ぐに治す事が出来ます。初期の処置が良かったので、後遺症も心配ありません。」
俺は治療に当たる人物が女性で有る事に声で気付き、少し驚きつつも視線の置き所を探す。何故なら、正面にはそれまで俺にブラスターやナイフを向けて来た相手が居るからだ。
「処置されてる間に仲間へ連絡したいのだが?」
「おっと、すまないね。直ぐにジャミングを解除するよ。」
視線を彷徨わせていた所、とおとおリーダー格の男と目が合ったので、通信の件を確認して自分が感じる気まずさを誤魔化した。
その後は治療を受ける事に集中し、ジャミングが解除されるまで眼を瞑り、同じ事態に陥らない様にする。
「ジャミングを解除したよ。これで好きに通信出来る筈だ。」
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