第3話
(作注:ここから虫系グロが苦手な方はご注意ください!)
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――放課後。
花蓮ちゃん家の黒塗り高級車に乗せられてやって来たのは、お城の様な大豪邸だった。
広大なお庭を通り過ぎ、石畳みのロータリーへと辿り着くと車は止まった。
ロータリーで待っていた黒服の男が高級車の扉を開けると、花蓮ちゃんは慣れた動作でスッと車から降り立った。
それにつられて俺もコソコソと降りれば、二十人ほどの使用人らしき人々が深く頭を下げ、
『花蓮お嬢様、お帰りなさいませ!』
と、挨拶するではないか。
すっげえ!!
こんなイベント毎日やってるの?!
車の扉を開けてくれたちょび髭を生やした中年オッサンは、俺の存在に気がつくと怪訝そうな顔つきでジロジロと上から下まで俺の事を睨みつけた。
「……お嬢様。この虫は……?」
「
「は……?」
「私のボーイフレンドです」
「ぼ、
「ええ! とても可愛らしいでしょ?!」
と、衝撃を隠しきれないオッサンと、満面の笑みの花蓮ちゃん。
……褒められるのは嬉しいけれど……かっこいいとか、頼もしいとか、セクシーじゃなくて、可愛いってどういう事なんだろうか。
――俺に可愛い要素は無いはずだが??
「さ、旭君。こちらへ。大切な方を紹介します♡」
と、花蓮ちゃんは俺の手を握った。
★
お屋敷の中は使用人や黒服SPは何人も居たが、花蓮ちゃんの家族は不在だった。
……家族が居ないのに大事な人って誰やねんと思いつつも、花蓮ちゃんの柔らかい手を堪能しながら彼女の部屋へと連れて行かれる。
花蓮ちゃんの部屋は予想通りのお姫様が住むような、すんばらしいお部屋だった。
白を主体としたフランス製の調度品に天井にはシャンデリア。
天蓋レースのかかるお姫様ベッドもある。
……ベッド……。
邪な想いにゴクン、と喉を鳴らすと「あら? 喉が乾きました?」と急に息が上がる俺を心配してくれる。
その俺に向けられた上目遣いの大きな瞳。
……可愛い。
可愛いすぎる!!
我慢なんて皆無な俺は本能に従い、そのまま全裸となって花蓮ちゃんと共にベッドへダイブしようと構えた瞬間、ちょび髭のオッサンが颯爽とお茶を持って登場した。
花蓮ちゃんにはロイヤルコペンハーゲンのティーカップに入ったロイヤルミルクティー。
俺にはひび割れたお椀に煮えたぎる熱湯を持ってきた。
そして再びジロジロと俺を舐めまわす様に見回し、
「あの、お嬢様……」
「なあに、山本山?」
山本山と呼ばれたオッサンが俺を指差し、
「説明を頂きたく思います」
「何をですか?」
「お嬢様には今まで100人ほどの婚約者候補が居ました。どの殿方もお育ちも人柄も素晴らしい御曹司でした」
「はい」
「しかし、どの殿方も嫌だと言い……そんで連れて来たのが、こんな……」
山本山の言い分の途中で花蓮ちゃんは立ちあがり、突然、俺の耳元の匂いをクンクンと嗅いだ。
「はへっ?!」
「お、お嬢様?!」
あまりの大胆さに俺の方がのぞけってしまう。
しかし、花蓮ちゃんは恍惚とした笑みを浮かべ、
「旭君は、私の好きな匂いがします♡」
「「な、な、なん
――相性の良い男女はお互いのフェロモンを「良い匂い」と感じるようだが、まさか俺と花蓮ちゃんが相性300%だったなんて!
よろける山本山。しかし、なんとか持ちこたえ、
「だ、旦那様に
と、ダッシュで去って行った。
「……そう、
「あ、ペットの?」
「ご存じなの?」
「あ、いや、風の噂で」
「そう、なら早いわ。旭君、ジョセフィーヌそっくりで匂いまで一緒なの」
なんてこった。
こんな事ってあり得るのか?
ペットと一緒ってちょっとどーなの? って思うけれど、彼女の好みを押さえた俺って神じゃん。
奇跡じゃん。
「ジョセフィーヌのお部屋はお隣なんです。ちょっとここで待っていてくださいね!」
ふわりと制服のスカートを翻し、隣の部屋へと駆けて行く花蓮ちゃん。
もちろんその間、俺はこの部屋を物色する。
クローゼットの中を上から順々に見回し物色し、お姫様ベッドに寝そべり枕の匂いを嗅いだり、シーツを
「お待たせ致しました! ジョセフィーヌです!」
と、ピンクリボンのついた小さなラタンバスケットをテーブルに置き、パカリと蓋を開けた。
――中から小型犬が飛び出してくると予想し身構えていた俺。
少し待っていたが……出てこない。
「あら? ジョセ? 恥ずかしがっているの?」
と、花蓮ちゃんはバスケットを覗き、それから手探りでジョセフィーヌを取り出そうとする。
手探り……という事は、ジョセフィーヌはハムスターか?
「あ、いたいた! こんにちは~! ジョセフィーヌです!」
花蓮ちゃんはバスケットから手を抜き出し、黒い小さな生き物を俺の手のひらに乗せた。
ジョセフィーヌ。
全長四センチ。
黒く光沢があり触角が二本、二対の羽根。
繊毛がついた六本の肢。
俺の手のひらで、カサコソカサコソと……。
「可愛いでしょ?」
「えっ……ご?? えっ……? ちょま、え……? ちょ、この、俺の手でカサコソっているのって……ごき??」
「ええ、クロゴキブリのジョセフィーヌよ♡」
「……うおおおおおおおおおおおっ!!」
……人は本気の悲鳴を上げると
俺はカサコソるジョセフィーヌを手を振って放り投げた。
「あっ! ジョセ!!」
弧を描くジョセフィーヌを見事にキャッチする花蓮ちゃん。
「ジョセは汚くありませんよ! 製薬会社を経営する叔父から頂いた温室育ちの子ですから!」
「温室でも養殖でも、ちょっとソイツは頂けませんよ!!」
右手をお椀の熱湯で消毒する。
「こんなに旭君とそっくりなのに?」
「俺とジョセフィーヌが?! ノーーッ!! アイ・アム・ヒューマン!! ユー! アー! ゴキブリ!!」
「学校で戦った時の予測不能の素早さ、頑丈さ、しぶとさ、そして匂い……全部ジョセフィーヌそっくりです!」
断言する花蓮ちゃんに、唖然とする俺。
そんな時、再び山本山が純金製の子機電話片手に、飛び込んで来た。
「旦那様からOK出ました! お付き合いOK! あだ名呼びOK! 手繋ぎOK! デート十回につき、一回は壁越しのチューもOK!」
「さっすがパパ! 私の一番の理解者ね!」
「大学卒業後の結婚式場も押さえました! グランドプリンスホテル○高輪の飛天の間!」
「まあ! 結婚式場まで。気が早いわ。でも最近は式場押さえるのも大変と聞きますから、今からでも遅くないですね、旭君!」
お、恐ろしや、白百合不動産グループ。
……外堀から埋められている……!!
「…………花蓮ちゃん」
「なあに?」
「一つ、聞いてもいい?」
「どうぞ♪」
「俺がジョセフィーヌなら、もうジョセフィーヌは母星に返しても良くない?」
「なぜ? 可愛い子はたくさん居たほうが良いでしょ? ジョセはこれからもずっと私の可愛いペットです。そうそう! これからは、一緒にジョセと遊んだり、お散歩したり、ジョセにお婿さんを迎えて、家族を増や…「それ以上は想像させないでーー!!」」
俺は頭を抱えた。
脳内には大きな大きな天秤がぽわんと浮かんだ。
片や美少女おっぱい揺れる花蓮ちゃんと札束が乗っている。
片やジョセフィーヌ一匹。
がくーん!!
……うわ! ジョセフィーヌへの傾き半端ねえ!
ジョセフィーヌの一本勝ちが過ぎる。
どんなに美少女で、お金持ちで、巨乳でも、ジョセフィーヌが勝ち。
結論が出ると、俺の行動は早い。
「……あっ! 「四時に夢中」の録画をし忘れた! 帰ります」
「ご心配なく。そんな事もあろうかと録画予約しました!」
無駄に仕事が出来る山本山。
「今は、私に夢中になってください……♡」
と、手のひらにジョセフィーヌを乗せた花蓮ちゃんがジリジリと近づいてくる。
ジョセフィーヌを意識しないよう、全意識を花蓮ちゃんに向けようとした。
しかし、ジョセフィーヌの存在感の素晴らしさよ。
もっとエッチな事を妄想してみたらイケるのかもしれない。
太ももみっちりのミニスカートの花蓮ちゃん……と、ジョセフィーヌ。
ビキニの水着姿の花蓮ちゃん……と、ジョセフィーヌ。
裸の花蓮ちゃん……と、ジョセフィーヌ。
余韻の全てがジョセフィーヌ……。
……やっぱり、ダメだーーーー!!
★
翌日。
昨日の出来事にヘロヘロクタクタになりながらも、学校へ向かう真面目な俺。
昨日の俺は花蓮ちゃんと付き合うのがムリだと判断した途端、山本山を始めとするSPに妨害されながらも、お屋敷から逃亡脱出した。
突然逃げ出した俺に、きっと花蓮ちゃんは呆れているだろう。
嫌悪も抱いたかもしれない。
それならそれで良いだろう。
花蓮ちゃんは、俺には荷が重すぎた。
しかし、高嶺乃華高校の校門にたどり着けば……なんと、花蓮ちゃんが俺を待っていたのだ。
「か、花蓮ちゃん……!」
「あ、旭君! おはよう!」
「花蓮ちゃん、俺を待って……?」
「もちろん! あのねあのね、昨日のめんぞー君が脱出した時の動き、すっごくすっごく素敵だった! ジョセが脱走した時みたいだったわ!……あ、これ。お弁当作ったの。……「彼氏」が出来たら作ってみたくて。きゃっ♡」
と、頬を赤らめ、わざわざ漆黒のランチクロスを剥がし、漆黒のお弁当箱を開けた。
――そこには、リアルジョセフィーヌのキャラ弁が!!!!
「お昼休み、一緒に食べましょ♪」
「……うわああああああ~ん!!」
「あっ、カサコソ逃げないで! 可愛い〜!」
「こんな高校生活、嫌だぁああああ……!!」
亜美「……ま、こんなオチだとは思ったよ。
でも(世の中の女の子にとっては)めでたし、めでたしだね☆」
ーおしま……
めんぞー「勝手に終わらせるな! くそう、所詮お嬢様なんて俺と価値観が合うわけがなかったんだ! この足で今すぐ転校してやるー!!」
ーおしまい……?ー
無類の女好きの俺。ライバルと戦っていたら学園一の美少女お嬢様に一目惚れされて告白されたんだが さくらみお @Yukimidaihuku
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