糸ちゃんの夢

@watakasann

 ミミミの治療

 私はパッと目が覚めた。それはそうしなければいけないと思っていたし、すぐ横で、なんとなく焦げ臭い匂いがしたからだった。

「ミミミ! 」

「糸ちゃん・・・あんまり・・・大きな声を出すと・・・」

ミミミの姿は、山で見たものと全く同じだった。耳は焦げていて、小さな声をやっと出しているような感じだった。

「ミミミ・・・・どうしたらいいの? 久重さんを呼んだらいいの? 」

「いや・・・久重はいろいろと忙しいから・・・きっとこれぐらいだったら、糸ちゃんに縫ってもらったら大丈夫だと思うんだ。多分藍の袋に補修用のフエルトがあるから・・・同じ色で・・・縫ってね、糸ちゃん・・・そうじゃないと・・・僕の力が弱くなるんだ」

「わかった! やってみる」

「じゃあ、おやすみ、糸ちゃん」

「おやすみなさい、ミミミ」


 元のマスコットに戻ったミミミを、私は抱きしめたい気持ちでいっぱいだったけれど、とにかくゆっくり眠らせてあげる方がいいだろうと、私も一応布団の中に入った。眠れる訳もなかったけれど。


「どうしたの糸? 怖い夢でも見たの? 元気がないけど」

「うん、ちょっとね・・・」

私は朝食も急いで食べて、自分の部屋に戻った。


朝の光が差し込んだと同時に、すぐにあの絣の袋を開けると、それまでなかったものがあった。

「あ! ミミミと同じ白のフエルトだ! 」

お店で売っているものより小さい大きさのものが何枚か入っている。糸はもちろんそのままだ。綿もまだあまりがある。


私はいろいろ考えた。このまま私がミミミの耳を元通りにすることが出来るのかどうか。でもそれほど上手ではないから、変になったら、ミミミが生き返らないんじゃないかと不安になった。ミミミのことはもちろん秘密だけれど、でもそれよりもキチンときれいに戻してあげたかった。

「お母さん、ちょっと出かけてくる」小さなバックにあの絣の袋を入れた。

「いいけど、お昼には帰っていらっしゃいね」

「はい」

私は自転車に乗らず、目的地までちょっとだけ走った。ミミミが揺れないように、でも急いで行きたかったからだ。その道でチラリと黄色い車を見た。礼のお姉さんの車だと知っていたけど、気付かないふりをした。




「糸ちゃん? 今日京子はいないけれど」


私は京子ちゃんの家にやって来ていた。私の知っている人で、ミミミをきれいに治療してくれるとしたら、京子ちゃんのお母さんしか浮かばなかった。

「いいんです、今日は・・・そのおばさんにお願いがあって」

「私に? 」

「はい・・・」

私はためらいながらも、ミミミを外に出した。

「ああ! 耳の所が焦げちゃったのね・・・タバコかしら? 」

その言葉にはさすがに答えられなかったけれど、おばさんはすぐに私を家に入れてくれた。


「今日はちょうど一人でね、良かったわ」

そう言いながら、おばさんはミミミを色々な方向から見ていた。


「この焦げた部分は、やっぱり臭いもするし、思い切って切った方がいいわね。そして新しい耳のフエルトを針で刺してつなげましょう」

「針で刺す? 」

「ほら、フエルトを刺して、動物を作ったりするでしょ? 私もフエルトの布同士はやったことがないからわからないけど、白い糸で縫うよりきれいに仕上がると思うの。完全にはつながって見えないかもしれないけれど、でもその方が強くもなるでしょうから」

「ありがとうございます!! 」


 おばさんは家の中をちょっと探して、色々な手芸の道具が入った箱を持ってきた。そして大丈夫な方の耳を鉛筆でなぞって、紙に型を取って、フエルトをそれに合わせて切った。


「さてさて、これからが手術本番」


おばさんはちょっと楽しそうだった。


「フエルトって繊維を熱や圧力で押しつけて作っているらしいのよ。だからちょっと重ねて二枚をこうやって刺してつなげたらいいんじゃないかしら、試しに私がちょっとだけやって見るわね」

発泡スチロールの小さな四角の台の上に、耳のフエルト同士をのせて長い針でプスプスと刺し始めた。

「あ、上手くいきそう、糸ちゃんやって見て」

おばさんはすぐに私と代わって

「気をつけてね、自分の指を指さないように」

「はい」私はおばさんがやった速度の半分くらいで刺し始めたけれど、

「あら、案外すぐにくっつくみたい。これって、本当の羊毛なのかしら? 」

その質問にも答えられなかった。

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