悪夢の魔法使い

下川科文

第1話 古の呪い

 人々は魔法の力を人類の生活文化発展など良い形で用いてきた。ただ初めからそうだったわけではない。

それは今から70年前のこと。諸国で猛威を振るう悪の魔法使いがいた。そのリーダーはデンホルム・グレンヴィルといい、その男は私怨によって人々を苦しめていたのだ。グレンヴィル家というのは魔法使いの名家であり、人々にとっては悪名高い魔法一族とされていた。この集団は"エンプーサ"と名乗り各地に勢力を広げていった。これに加わった者のうち幹部らは何らかの悪魔と契約しておりその力の絶大さを誇っていた。

このような恐ろしい行為を続ける彼らが結託した理由はただ一つ、復讐だ。その発端は彼らが現れた時期から13年前のこと。彼らの親世代は激しい魔女狩りに遭っていた。その頃、一神教の宗教が世界に生まれ、魔術の存在を危険視したのだ。神は全知全能であり何にも屈することのない唯一無二の存在でなくてはならず、それを覆す悪魔と魔法やそれを使う者の存在は矛盾を生むものでしかなくなり、邪悪な存在として扱われていくことになったのだ。とはいえ彼らがこの当時にさっそく悪事を働いていたかといえばそうではない。一般人を含めた全体の3〜4割程度の魔法使いたちは俗世に溶け込んで生活をしていたのだ。それぞれが自らの特徴を活かして教会魔術師、呪術師、占術師をしていた。中でも教会や王宮にあった魔法使いたちは特に強い権力を手にしていたのである。しかし、それが一部の魔法使いを闇の世界へと踏み外させるきっかけとなった。魔法使いの中には富や地位、名声といったあらゆる私欲を満たそうとした者たちがいた。彼らは教会と王宮に支えていた魔法使いでとりわけ高い職位を与えられたことでその力は増していった。実はこの裏には悪魔との契約が絡んでいたのだ。この2人は密かに悪夢の悪魔エンプーサを召喚し、望む権力を手にする代わりに魔術の女神ヘカテーに仕える契約をした。これにより俗世において彼らは望む権力を手にしたのだった。それからというもの王家や司教を騙して富を得たりした。遂には王の殺害を企てたことが判明し、世論も傾いたのだ。魔法使いは危険だ、と。

「親愛なる信徒に告ぐ。我らは神に誓って邪悪な魔法使いを排除する。」

そうして司教らの宣言により魔女狩りが始まったのである。そうして始まった魔女狩りはこれまで市民に溶け込んで暮らしてきた魔法使いたちにも及び始めたのだ。

「邪悪な魔法使いめ!火炙りにしろ!」

至る所で捕まっては火炙りや市中引き回しなどの公開処刑をされたのだ。そのとき魔法使いの子どもたちは難を逃れていた。魔法使いの噂で全寮制の学校が引き取ってくれているという。大人たちは皆、そこに未来(こども)たちを預けたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る