第31話 タイトル


そして、数か月が過ぎて、文化祭当日。

「浅羽さーん、そろそろ出番だよー」

「は~い」

「頑張ってね、緊張してる? でも、絶対に大丈夫だから!」

「うん、ありがとう」


 舞台袖でこんな会話がされている頃、僕は体育館の上の照明の所にいた。

 客はほぼ満員だ。

 そりゃあ、主役が学校一のモテ男の大久保真斗だからな、当然か……。

 

 劇の配役を決める時、真斗君が宙斗役に立候補、満月さんを千歳役に推薦したのだ。

 二人とも演劇部顔負けの演技力で、クラスの皆も僕もびっくり。


 そんな僕達のクラスの劇のタイトルは……

『あの桜の咲く四月に』

 初恋がテーマのお話だ。




『ねえ、宙斗。来年もここで桜が見れるかな……』

『見れるさ。だって、千歳はもう元気になったんだから』

『……来年も再来年も、その先もずっと、毎年この桜を見に来ようね、約束だよ』

『ああ、約束だ』




「満月さん、真斗君、劇大成功だったね! 上から客席見てたけど、何人か泣いてたよ!」

「よかったね~」

「ああ、頑張ったかいがあったな!」




 満月さんと真斗君の物語は、千歳と宙斗の物語のようにハッピーエンドであった。

 では、僕の物語はどうか?

 失恋したのだから、バッドエンドだろうか。

 いや、僕の物語はまだ終わっていない。

 これは、僕の物語の中の一つの章なのだ。

 次の章で、満月さんに負けないくらい素敵な人と恋をするかもしれない。

 それに、恋愛で物語がハッピーエンドかバッドエンドかなんて決まらない。


 これからも、辛いことや悲しいことがたくさん待っているだろう。

 でも、僕はこの章でかけがえのない大切な友達と出会うことが出来た。

 彼らと一緒なら、きっとどんな困難だって乗り越えられる。


 きっと、僕はもう大丈夫だ。

 そろそろ、次の章へ進もう。

 今まで僕が通ってきた章のタイトルは……



   『大切な友達』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

しずかとしょかん 夢水 四季 @shiki-yumemizu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画