しずかとしょかん

夢水 四季

第1話 うるさい

うるさい、うるさい、五月蝿い。


 学校の教室の中。

「ねえ、知ってる? まっつんと二組の篠田が付き合ってるって噂」

「あ~、どっかで聞いたわ、それ。あのまっつんと地味な篠田が付き合うなんて、ホントびっくり~。あ、もしかしてただの繋ぎじゃね?」

「確かに~。まっつん、スポーツ出来る人がタイプって言ってたし」

「じゃあ、すぐ捨てられちゃうね、カワイソ、篠田」

「まっつん、前、真斗君がいいって言ってたもんね」

「真斗君とか、競争率高過ぎっ」

「でも、イケメンだよねっ」

「うんうんっ」

 同じクラスの女子達の会話が、聞きたくもないのに耳に入ってくる。

 心底どうでもいい話を聞かされるのは苦痛で仕方ない。

 授業と授業の間の十分休憩。

 その十分を、クラスメイトがどう使おうと彼らの勝手だ。実際、クラスの大半は友達とのお喋りに興じているようで、もし仮に十分休憩の時間に何をしていますか、というアンケートが実施されたとするならば、7割が友達との談笑、2割が仮眠、そして残り1割の少数派が読書という割合になるだろうと予測している。

 僕は、その少数派。読書をしているのだ。

「あっ、真斗君、帰って来た!」

「お~、噂をすれば、ですなっ」

「話し掛ける? ねえ、どうする? この前の試合のこと、聞いちゃう?」

「うんっ、行こ行こっ」

 ドンッ。

 勢いよく飛び出して行ったうちの誰かの肘が僕の机とぶつかり、その衝動で机がずれる。

 そんなことお構いなしにお目当ての男子生徒の元へ向かう女子達。

 僕なんか、眼中にないのだろう。注意する気も起きず、手元の本に視線を戻す。

「昨日の恋色さ~、まさか樹とキスするなんて、全然予想してなかった!」

 うるさい。

「おっ、レア引いたぜっ!」

 うるさい。

「なあ、今日の小テストどうする?」

 うるさい。

 うるさい、うるさい、五月蝿い。

 クラス中の話し声が耳にガンガンと響く。本に集中出来ない。

 何故、こうも僕の周りは騒がしいのだろう。

 五月蝿い、黙れ。

 この言葉が言えたらどんなに楽か。まあ、言った瞬間、このクラスに僕の居場所はなくなる訳だが。こんなことを学級委員でもない僕が出しゃばって言ったところで、総スカンを食らうのがオチだ。

 なるべく目立たないように、上手くやり過ごす。怒りは口に出さない。

 それが、僕の高校生活のスタンス。

 一人静かに読書をしているだけの、いわば空気みたいな存在。

 それで、いい。


 でも、一つ注文を付けるとしたら、静かで落ち着いて本が読める空間が欲しい。

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