彼女が少女だったころ

物部がたり

彼女が少女だったころ

 彼女が少女だったころ――。彼女は六人兄弟姉妹の長子で、共働きの両親のために毎日幼い弟妹ていまいの面倒を見ていた。喧嘩する弟たちをいさめ、ぐずる妹たちを慰める。

 それはそれはよいお姉ちゃんだった。

 そのために友達と遊ぶことや、我がままをいうこと、両親に甘えたいのも我慢して面倒を見ていた。だが、ある日、彼女の心の小さな器は溢れてしまい、彼女は初めて反抗を決意する。

「家出してやる!」

 突然だった。だが、行く当てのない彼女は、当時流行っていたキャラクターもののリュックを背負って、れいの家にやって来たわけである。

「家出してきたの。あたしがいなくてみんなみんな心配すればいいのよ!」


 彼女の家の事情を知っていたれいたちは、彼女を追い返すこともできず、しばらくの間面倒を見ることになった。当然、れいの母は彼女の家に連絡していたので、彼女が願っていたような心配を与えることはできなかっただろうけれど。

 そんなこんなで彼女は三日ほどれいの家で寝泊まりして、学校に通った。わずか三日ほどだが、彼女はすべてのしがらみから解放された自由な時間を過ごせただろう。

 だが、体は休まっても彼女の心は少なからず平穏ではなかった。彼女は日に何度も弟妹や両親のことをれいたちに訊いた。

「そんなに心配なら帰ればいいのに」

 れいはいった。

「心配じゃない!」

 と彼女はいう。


 そんな矢先、知らせが入った。

「帰ってきてください」と懇願するなら彼女は仕方ないから帰ろうと考えていたが、入った知らせは彼女のお母さんが病院に入院したというものであった。

「お母さん! お母さん!」

 彼女は教えられた病院に飛んで行った。

「あら、来てくれたの」

 と、少女の緊張感とは対照に母はのんびりと出迎えた。


「ごめんなさい……。ごめんなさい……。心配かけてごめんなさい……」

「気にしてないから」

 お母さんはベッドに寝ころんだまま涙ながらに謝る少女の頭をなでた。

「ほら、顔を上げて」

 お母さんは抱いてる赤ちゃんを見て「あなたの弟よ」と七人目の子供の名前を告げた。

「あたしちゃんと手伝うから、面倒見るから。もう困らせたりしないから」

「うん」

 お母さんは微笑んだ――。

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