第24話 ささやかな日常

 料理教室に通うようになって日々が色々忙しくなった。

 畑しごと、キヨさんとのお茶、料理教室。

 たった、それだけのことなのに、一日が二十四時間じゃ全然足りないくらいに感じる。

 畑の植物はあっという間に育ち実るので毎日、収穫をしなければいけない。

 自分の家で食べる分だけでは消費しきれないので、キヨさんに教わりながらいろいろな常備菜や保存食を作っておすそ分けをする。

 でも、田舎の恐ろしいことでたった一瓶ジャムを作っておすそ分けをしたところ、漬物とかピクルスのような瓶詰とかとか別な生の野菜や果物で何倍もの量になって帰ってくる。

 毎日とても忙しいけれど、充実している。

 そのため、村のルールである夜一人で歩かないを破る心配はない。

 夜になれば、眠くてすぐに布団にもぐりこんでしまう。

 コンビニもないこの村で、夜中に起きて一人でどこかに行こうなんてことはよほどのことがない限り起きえない。

 村のルールを破るのは難しいくらいだ。


「そろそろ、祭りの準備が本格化してくるよ」


 ある日、ユキトさんは言った。

 そうだ、この村のルールで祭りの準備も手伝わなければいかないのだ。そもそも、この村のお祭りがどんなものかもしらないけど。いつやるか知らされていないお祭りはそんなに準備が大変なのだろうか。


「ねえ、そういえばお祭りって何をするの?」

「何をするって、普通のお祭りだよ。この土地を豊かにしてくださっている方に感謝をささげるんだ」

「まるで、収穫祭みたいね」


 お祭りというと、おみこしに屋台に花火のイメージしかないわたしにはピンとこない説明だった。

 お祭りというと出店がでて、おみこしを担いだりパレードがあるそんな街や商店街が主導してやるにぎやかなもののイメージしかない。

 だから、村に住む自分たちで準備する祭りというのがいまいちわからない。

 寄付金をあつめるとか、当日おみこしを担ぐ男性たちのために料理やお酒を用意するのではなく、前々からしっかり準備をしなきゃいけないことって一体なにがあるのだろうか。


 謎と言えば、料理教室で作っているものも謎ばかりだ。

 毎回料理を作っては食べられない。

 特に食べたいとは思わないような見た目のものが多いけれど。

 真っ黒で細長い麺は人の髪と見間違えそうになる。天使の髪の毛なんてパスタ料理があるが、それとは比べ物にならないくらいリアルでさすがにあの黒い麺を食べたいと思う日はこない。

 薄い牛皮につつまれたよくわからない肉の詰め物。こんなもの本当に美味しいんだろうかと不思議に思う内容ばかりだ。

 わたしはキヨさんのように家でおさらいとして、習った料理を作ることはしなかった。

 だけれど、奇妙だ。

 いくら食欲をそそらない見た目だからというだけで、試食もなしに先生に提出して終わりだなんて。

 あんなに大量の料理はどうしているのだろうか。

 全部捨ててしまっているのだろうか。

 蜂神さんみたいな女性が料理を家に持ち帰る姿は想像できない。

 でも、捨てる手間を考えるとその場でみんなで食べてしまったほうが後片付けも楽だと思うのに。

 一体あの料理はあの後どこにいくのだろう。



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