第21話 食べられない料理

「さあ、できあがったみたいですね。こちらはどれも村のお祭りに欠かせない料理です。みなさん、最初に教えたときよりも手際もとってもよくなっていてすばらしいですね。では、みなさんのおかげで時間もあることですし、こちらの料理と村のお祭りのお話をしましょう」


 この場の女王である蜂神さんはほほ笑みながら話をする。

 片付けまで終えて、料理教室の先生である彼女の前に料理は並べられる。

 先生の前に持って行って品評してもらう方式らしい。

 料理を作るだけでなく、その背景まで身に着ける料理教室はいいなとおもった。

 だけれど、彼女の口から聞くことができたのはありきたりな村の昔話だった。


「昔、むかし、この村はいまから考えられないほどまずしく人が住めるような状況にはありませんでした。神様が住んでいる美しい湖があるだけ普通の村が、度重なる飢饉のせいで村人は減り。そして、新な子供が生まれることがなくなりました。このままでは村が滅びてしまうと慌てた村長が神様い鳴きながらお願いをしたのです。生贄をささげる代わりに、再び村に活気を戻してくださいと。村長は本当に叶うとは思ってはいませんでした。ですが、立場上なにもしないわけにはいかなかったのです。ですが、願いをは叶ってしまいました。種を蒔けばすぐに食べ物が実り多くの人々の命が救われました。村人は大喜びです。ですが、村長はこれだけの幸福の対価に何を生贄にすればいいか頭を抱えました……」


 おっとりとした口調で話されるそれは聞いているだけで眠くなりそうだった。要点でだけかいつまむと、この村の土壌が特別なのはある神様に生贄を毎年捧げていたからという単純なものだった。

 とてもありきたりな昔話であると感じた。因習がある村って感じで。

 だけれど、同時にこの村の土壌が特別だというのは実際に体験している。

 植物が通常とは違う速度で育つ。

 植物を枯らす赤い指の持ち主であるわたしをもってしても、この村なら簡単に種から芽になり成長していく。


 もしかしたら、このただの昔話とおもったものは本物かもしれないと思わせるなにかがあった。


 並べられた料理は郷土料理とは思えない多彩だった。

 細くて長い真っ黒な麺、本物の桜の花びらと見紛うような小さなピンク色のお餅を薄く伸ばしたもの、真っ赤な果実を煮詰めてつくったソースに、あのスープに入っていたような真っ黒球体を白いゼリーで包んだ球体、赤や茶色の餡をを牛皮で何層にも包んだものは何種類も餡や形のパターンがあって大きさもまちまちだったが必ず同じ形大きさのものが二つずつあった。


 女王蜂が話し終えて、やっと試食の時間だと思ったら解散だった。

 料理を作ったのに一口も味見しないなんて。

 労働だけして損した気分だ。

 もちろん、ほかの女性が作業をした部分もたくさんあるので自分だけ持ち帰りたいなんて言えず、わたしはキヨさんと一緒のテーブルで作業したひとたちと一緒に部屋をでた。後ろ髪をひかれるおもいだったがしかたがない。


「おなかすいたな~」


 思わず本音がこぼれると、みんなでカフェによってなにか食べていこうということになった。

 こんな田舎なのにカフェがあるのかということに驚くが、すぐに合点がいく。

 このコミュニティーセンターに併設されているカフェにいくということだった。

 こんな村にカフェを作っても住民しかこなくてもうからないとおもったが、住民のためのカフェならば納得がいく。

 きっと、コーヒーと簡単な軽食くらいは取れるのだろう。

 おなかはぺこぺこなので心配はない。

 きっとなんでもそこそこ食べられるだろう。

 今なら煮詰まったコーヒーとぱさぱさのサンドイッチだって美味しく食べられる自信がある。

 それくらい料理というのは体と頭を使うのだ。

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