第6話

*


「ってことがあってだな、今週の土曜日にそのお見合い相手と会うんだ」


「凄い展開だな……」


 木城さんに偽彼氏を頼まれた翌日、俺は学校の屋上で大崎に昨日の事を話していた。

 

「でもお前、それ大丈夫か? 偽でも彼氏になったなんて学校の奴に今のタイミングでバレたらヤバイだろ?」


「まぁ、そこは木城さんにも話してあるし、あくまで土曜日だけの彼氏ってことだから大丈夫だろ? それに彼氏役には慣れてるし」


 4年間も霞夜の彼氏役をしてきた俺は変に自信があった。

 絶対に彼氏として相手に認識させるという自信。

 まぁ、こんな自信絶対に役に立つことなんて無いけど……。


「だろうけど……お前、この話し美月にはしてないだろうな?」


「え? あぁ、彼氏役解消してからあいつと全然話せてないからまだ言ってないけど?」


「絶対に言うなよ? いろいろ面倒になるから」


「あぁ、確かにそうかもなぁ……」


 自分の彼氏役をやめて他の子の彼氏役になんてなっていたら、霞夜だって良い気はしない。

 このことは秘密にしておかないと、確かに面倒な事になりそうだ。

 

「てか、お前ら連絡とってねぇの? やっぱり穏便に済んでねぇのか?」


「いや、まぁ……俺は済ませたつもりだったんだけど……」


 なんか霞夜の奴昨日も別れることについて言ってきたし、怒ってるんだろうな……俺も結構強めの口調で言っちまったし。


「彼氏役やめてもお前ら幼馴染だろ? 仲良くしろよ。そんな感じだとマジで付き合って別れたカップルみたいだぞ」


「いやぁ、でも正直俺からメッセージを送るってことを最近してないから、あいつからメッセージが来ないと必然的に連絡とらなくなるっていうか……」


「彼氏役やめても友達だっていってやれよ。もしかしたら今日休んだのもお前のせいかもしれねぇぞ」


 大崎の言う通り、今日は霞夜は休んでいる。

 体調不良という事だが、昨日は元気だったので本当かどうかは分からない。

 もしかして、俺と顔を会わせづらくて休んでしまったのだろうか?


「見舞いにでも行ってやれよ、このまま喧嘩しっぱなしで良いのか?」


「それもそうだな……俺もあいつの態度にイライラして少し口調が強くなってたし。それに頼まれた事とはいえ、途中で俺は役割を投げ出したんだしな」


「その点に関しては美月が悪いと俺も思うが……家も隣同士なんだし、今後の関係がギクシャクするより、早めに解決した方が良いだろ?」


「それもそうだな」


 そう言う訳で俺は放課後に霞夜のお見舞いに行くことになった。

 霞夜の家は俺の家の隣だ。

 小学校一年の頃に霞夜が引っ越してきて、今まで家族ぐるみで仲良くしている。

 なので霞夜の家に行くと……。


「あらあら、久しぶりねぇ慶史郎君!」


「こんにちわ、霞夜が今日休んだみたいなんでおみまいに来たんですけど……」


 こんな感じに霞夜のお母さんが馴れた感じで出迎えてくれる。

 霞夜の家はご両親がどちらも美形で実際の年齢よりも10歳は本気で若く見える。

 最初に霞夜の母親と会ったときも母親ではなくお姉さんだと思ってしまった。


「ありがとうね。でも熱は無いのよ、なんだか今日は学校休みたいっていうからたまにはずる休みも良いかなと思って休ませたけど……あの子学校で何かあったの?」


「な、何かあったというか……」


 恐らく俺が元凶なんだよなぁ……。


「でも、慶史郎君が来てくれたら大丈夫ね! あの子慶史郎君に懐いてるし、なんたって幼馴染なんですもの」


「あはは……そ、そうですかね……」


 本当に俺が行って大丈夫なのだろうか?

 余計に拗れる気がしてきた……。

 俺はお見舞いの品を持ってそのまま二階の霞夜の部屋に向かった。

 二回ドアをノックして俺は中に居るであろう霞夜に声を掛ける。


「霞夜、大丈夫か? 見舞いにきたぞ?」


 返事はない。

 しかし、部屋の中からドタバタと音が聞こえる。

 どうやら中には居るみたいだ。

 そして少しすると……。


「なによ……」


 あからさまに不機嫌そうな霞夜がドアの隙間から顔を出した。


「あぁ……いや、見舞いに来たんだけど」


「帰って」


 そう言ってドアを閉める霞夜。

 やっぱりこうなった。

 なので俺は切り札を出す。


「お前の好きな店のシュークリーム買ってきたぞぉ~」


 このシュークリームは駅前で売っている一個400円の少しお高いシュークリームで霞夜の好物だ。

 これを眼の前にした霞夜は黙っていない。


「……何よ」


 再びドアの隙間から顔をのぞかせる霞夜。

 成功のようだ。


「話しを聞くならシュークリームをやる」


「……少しだけよ」


 そう言って霞夜はドアを開けて部屋の中に俺を入れた。

 部屋はまさに女子に部屋という感じの明るい内装だ。

 カーテンはピンク色で部屋にはぬいぐるみがあり、女子特有の良い匂いがする。

 掃除も行き届いており、整理整頓されていて清潔感がある。


「何よ、もう偽彼氏はしなくても良いのよ?」


 棘のある言い方。

 あぁ、絶対にこいつ怒ってるなぁ……。


「まぁ、そうだけど……俺達幼馴染なんだし、本当に別れたわけじゃないだろ? ただもう偽物の彼氏役をやめたいって言っただけだし」


「だから?」


「いや、普通に昔みたいに仲良くしようぜってことだよ。なんでわかんねぇかな」


「私の我がままにもう付き合いきれないんでしょ」


「あぁ、そうだよ。偽彼氏を初めてからそうなったから、幼馴染って関係に戻れば、多少マシになると思ったんだが……」


「……うるさいわよ」


「治りそうもねぇな。ま、お前がわがまま言うのなんて俺くらいだろうし、多少は我慢してやるよ」


「え? じゃ、じゃぁ……」


「あぁ、だからこれからも仲良くしようぜ幼馴染として!」


「……あぁ、そうね」


 あれ? 

 なんでだ?

 一瞬機嫌が治ったと思ったらまた氷点下までテンションが下がったぞ?

 あれ?

 仲直りしたんだよな?


「ほんっと! アンタって鈍感よね」


「いや、そんなことは無いと思うけど?」


「鈍感よ。鈍いし、馬鹿だし、なんでこんな奴を彼氏役なんかに選んだのかしら」


「うるせぇな! 頼んできたのはお前だろ!」


「まぁ、アンタとは中学のころ噂になってたし、丁度良いと思ったのよ。女子の中でも害のない安全な男子って評判だったし」


「そんな評判だったのか!?」


「そうよ、あんたは良くも悪くも優しすぎ」


「その優しさに付け込んだ性格の悪い女がお前か……」


「殴られたいの? それとも蹴られたいの?」


「すんません」


 やっぱりこいつはわがままだ。

 でも、一応仲直りは出来たのかな?

 一応いつも通りの感じに戻ったし……これがいつも通りで良いのか俺……。

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