第3話

 そんな話をしていると霞夜が教室にやってきた。

 何か言われるかと思ったが、俺の方を睨んだだけで後はいつも通りだ。


「おい、ちゃんと穏便に別れたのか?」


「あぁ、あいつにも納得はしてもらった」


「睨んでたぞ?」


「俺から別れを切り出されてイライラしてんのかな?」


 しかし、いつも通り女子と楽しそうに会話をしている。

 まぁ俺とは本当に付き合ってた訳じゃないんだし、まぁイライラする気持ちも直ぐ治まるだろう。


「はぁ……美月の奴、素直になんねーから……」


「ん? なんか言ったか?」


「別になんでも、まぁ我がままお姫様から解放されて良かったじゃんか」


「でも、俺が霞夜と付き合ってことは学校の皆が知ってるからね……別れたって知ったら女子からは絶対俺が悪者にされるから、高校在学中に彼女は出来ないだろうなぁ……」


「まぁ、どんまい。その分男同士の青春を謳歌しようや」


「なんか汗臭そうな青春だな……」


 そんな話をしているうちに先生が教室にやってきた。

 二年三組の担任、山田怜土(やまだ れいと)先生は30代の比較的若い男性教師だ。

 しかし、いつもダルそうな感じで死んだ魚の目をしているためか、女の影はない。


「お前ら座れー。急ではあるが転校生がこのクラスに来たぞー」


「え? 新学期始まってまだ一週間ですよ?」


「まぁ家庭の事情ってやつだな、仲良くしてやってくれ。あ、それと男子、騒ぐなよ? 騒いだ瞬間ゴールデンウイーク明けの林間学校で男子だけ昼食抜きだからな」


「罰が遠い!!」


「そしてなんかリアル!」


「まぁ、黙ってろってことだ。そんじゃぁ入ってこーい」


 先生がそう言うと教室の前の扉が開き、一人の女子生徒が入って来た。

 長い黒髪のロングヘア―に色白で整った顔立ち。

 日本的な美人と言うのだろうか?

 その顔立ちは霞夜にも負けない。

 ってか……この子、なんか昨日見たような……。


「始めまして、木崎優愛と申します」


「じょ…じょしだむぐぅ……」


「黙れっていったよな? 床山?」


「す、すいません……」


 うちのクラスのムードメーカー兼馬鹿の床山が騒ぐのを先生はすかさず止めに入る。

 まぁ、騒ぎたくなる気持ちは分かる。

 だってメッチャ可愛いし、実際男子のほとんどは見とれてるし。


「よし、馬鹿以外は冷静で結構! 木崎はさっきも言った通り家庭の事情で中途半端な時期ではあるがこのクラスの仲間になる。お前らいじめるなよ? 優しくしろ。それから男子はあんまり言寄るな! 以上!」


 流石馬鹿な男子が多いと有名なこのクラスをまとめる担任、いろいろと先を呼んで注意を促してる。

 なんて事を考えていると、木崎さんと目があってしまった。

 木崎さんは俺を見つけると嬉しそうににっこりと微笑み頭を下げてこう言った。


「昨日はありがとうございました!」


「え?」


「「「「「え??」」」」」


「あ……いや……」


 木崎のその言葉でクラス中の視線が俺に集まる。

 やめて!

 ただでさえ俺は霞夜の彼氏ってことで目立ってるんだから、これ以上目立つようなイベントは要らないんだ!!

 まぁ、別れたけど……。


「まさか同じ学校の同じクラスになるなんて! 素敵な偶然ですね」


「は、はは……」


 俺は愛想笑いしか出来なかった。

 嬉しそうな木崎。

 疑いの眼差しを向けるクラスメイト達。

 そして、何やら良からぬことを思いついた様子の担任。

 すげー嫌な良かったがする……。


「なんだ、お前ら知り合いか? じゃぁ榎本、放課後に学校施設の案内してやってくれ。それと席も丁度お前の隣だから面倒みてやってくれ」


「え? いや、先生! そう言うのは同性の生徒の方が良いんじゃないですか?」


「木崎はどうだ? 同じ女子の方が良いか?」


「大丈夫です。あの方にお話したいこともありますので」


「だそうだ。よろしく頼むぞ」


「え、えぇ……」


 挨拶を終え、木崎さんは俺の隣に先生は用意した席に座り、俺の方を見てにっこりと微笑んだ。


「よろしくお願いしますね。榎本君」


「あ、あぁ……よろしく」


 なんて返事を返していると、今度は前の方から指すような鋭い視線を感じる。

 恐る恐る視線の先を見てみると霞夜の奴だった。

 なんか人一人殺しちゃいそうな視線を俺に向けている。

 なんで?



「改めて、昨日は助けていただき誠にありがとうございました」


「いや、全然良いって」


「まさかまた会えるなんて思ってもみませんでした。これでお礼が出来ます」


「いや、俺はそんな大したことしてないから。そ、それより他の奴らが何か聞きたい見たいだから……」


 ホームルームが終わり、木崎と俺が話し終わるのを他クラスメイトは今か今かと待っていたようだ。

 なので俺は話を切り上げ、他のクラスメイトに会話のチャンスを譲った。

 木崎さんも学校で友達を作らないとだしな。

 それに誰かと仲良くなれば放課後のイベントはそいつに押し付けられるかもしれん。


「ねぇ」


「ん? ひぇっ!!」


「ひえっ! って何よ? ちょっと来なさい」


「あ……はい」


 俺が一呼吸着くまもなく、俺は霞夜に教室の外に連れ出されてしまった。

 怖い。

 雰囲気が凄く怖い。

 やっぱり昨日のこと怒ってるのか?

 代役を見つけるまでは付き合ったフリをしろとか言われるのか?

 なんて事を考えながら、俺と霞夜は一番端の空き教室にやってきた。


「何? あの子が好きなの? だから私の彼氏役辞めるって言い出したの?」


「え? あぁ木崎さんのことか。彼女とは昨日偶然会っただけで、お前の彼氏役を辞めたいって話しとは関係ないよ」


「じゃぁなんで急にあんなことを言い出したのよ!」


「だから……疲れたんだよ……」


「はぁ!?」


「お前は俺の事を良いように使って感謝もしねーし、最近じゃ話をしてもお前はつまんなそうにスマホ弄ってるだけだろ? それに……わかってたことだけどお前と俺じゃ釣り合わない。もう周りからの目線にも耐えられねぇんだよ」


「そ、それは……も、文句があるなら言えば良かったじゃない!」


「言ったらお前は大人しく聞いたのか? お前に付き合ったおかげで俺は中学も高校も彼女が出来ないまま終わりそうだよ」


「私が居るんだから良いでしょ!」


「良くねぇよ! お前は恋愛に興味ないから良いかもしれねぇけど……正直俺だって彼女欲しいって思うだんよ……」


 俺がそう言うと霞夜は何も言わなくなってしまった。


「昨日言った通り、お前が俺に愛想付かしたことにして良いから。理由もお前が勝手に決めてくれて良い。だからも自由にしてくれ」


「………」


「じゃぁ、先に教室戻るから」

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