第2話 用心棒


 俺は『幽体』となって(これも俺の特殊能力の一つで、姿を消して壁抜けができる)、高校の剣道場に忍び込み、木刀を1本拝借した(自分が手にしたものは、同じように『幽体』にして壁をすり抜けられる)。


 そしてさきほどの現場・・・正確には、さきほどから1分前の現場に戻ると、刺そうとした男の姿を確認し、横から近づいた。そしてドスを抜いて向かって行った刹那、木刀でそのドスを上から叩き落とした。


「痛えっ!」


 ドスを落とした男は叫び、慌ててドスを拾い上げようとした。俺はドスを踏みつけてそれを阻止した。

 するとこのチンピラヤクザは、俺の顔を殴ろうとした。


 俺は一瞬で『半幽体』になった。この状態だと、姿は見えるが誰も触れることができない。

 チンピラヤクザのパンチは、俺の顔を通り抜けた。驚いたそいつはもう一発パンチを放つが、何度やっても同じことだ。


「・・・バケモノ・・・!」


 チンピラは真っ青になって逃げて行った。


「おう、あんちゃんよう」ドスで刺されるはずだった男が、俺に近づいてきて言った。「お前さん、もしかして俺を助けてくれたのか?」


 もしかしても糞もあるか。いい気なもんだ。

「頼まれたからな」

「誰に?」

あんたにだよ、と言ってやりたかったが、俺はその言葉を飲み込んだ。


「組長だな?お前さん、雇われ用心棒か?」


 江戸時代かよっ!だが、良い返答が思いつかなかった俺は、それに乗った。


「まあ、そんなところだ」


「そうか・・・あんちゃん、名は何ていうんだ?」

「沢木憂士(さわきゆうし)だ」

「俺は野村竜平だ。ちょっとおれん家に付き合ってくれ。すぐそこだから」


 気が進まなかったが、俺は野村の後をついていった。


 野村の家は、大きな一軒家だった。ということは、この男、ヤクザの中でも結構な地位にあるのかも知れない。


「おーい、今帰ったぞー」

 玄関先で野村が叫ぶと、

「お帰りなさーい」

「あなた、お疲れ様です」

小学生らしい娘と妻らしき女性が出迎えた。


「今日はな、こいつにも飯を食わせてやってくれ」

えっ?何言い出すんだこのおっさん?


「いらっしゃいませ。それでしたら、今日はすき焼きですので、どうぞご一緒に」

おいおい、この時代にしたら大層なごちそうじゃねえか。家族団らんに、何付き合わそうとしてんだよ。


 俺は辞退しようとしたが、野村がどうしても食っていけといって聞かない。結局押し切られた俺は、居心地の悪い晩飯に付き合わされた。


 すき焼きは美味かった。この親子が仲が良いこともよくわかった。


 俺は大変なことをしてしまったのだということも。


 野村はどうでもいいが、この母子を悲しませて路頭に迷わせるわけにはいかないじゃないか。


 俺はこの後、何回野村を助けなきゃならないんだ?

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