勇者とラスボス戦寸前で入れ替わった俺は異世界ライフを満喫出来ない!

三段腹トビウオ

第1話 気弱な勇者は異世界に逃げるの巻

「とうとう…ここまで来たな…」

どデカい斧を担ぎながら唸るような声で言ったのは戦士のギヴァンだった。

「とうとう魔王城まで来ましたね、私は覚悟出来てます!」

少し緊張しているのか、魔法書を胸に押し付けている賢者のサーヤはチラチラ俺の方をみて言った。

「ホッホッホッ、実に老人に優しくない城じゃのう…、ここからでも感じる魔王の邪気が鳥肌を生むわい。」

左手で白く長い髭を撫でながら、ロビット爺は杖を右手で強く握った。

「ところで、あの妖精はまだ着いてきてんのか」ギヴァンがそう俺に尋ねてきたので少し間を開けて「いや、もういないみたいだな」と言った。

「そうか、トリバ村で出会ってからやたら付きまとうもんだから俺たちと一緒に戦うもんだと思ってたぜ」

赤い色をした髪の毛を掻き上げながら、少し残念そうに言った。

「魔王城を前にして怖気付いたのであろう、無理もないわい」とロビット爺は目を細めながら言う。

「さて、入りましょうか出迎えに来たデーモン達は全て倒しましたので」

一同は頷き、最後の敵が潜む城へ足を運ぶかに見えたが…。

「ちょっと待ってくれ、少し用を足しに行ってくる」

俺はそう言い放ち懐疑的な目で見る三人を魔王城の前に立たせたまま、城の横にある悪魔象の森へと姿を消した。


「聞こえるか妖精、着いてきてるんだろ?」

俺は用を足しながら小声でそう呟いた、すると近くで金色の煌めきが渦を巻き小さな妖精が姿を現した。

「なによ!せっかく魔王城に入った後に出てきて驚かせようとしたのに!!」

妖精は俺が気付いていたことに不満げな様子だった。

「頼みがあるんだ、それもここだけの秘密だ」

ここだけの秘密と言われ、先程から一転目を光らせながら俺の顔の前に近寄ってきた。

「なになに、私にしか話せないことがあるんでしょ、早く言いなよ!」

俺はとっくに小便を終わらせていたが、その場から立ち去る様子を見せないままだった、それにもう魔王城に戻るつもりも無かった。

「俺と全く顔も声も背丈も同じような奴をここに連れてきてくれ」そう俺は妖精に言った。

「えっ、影武者かなにかにするつもりなの?」

俺は妖精に正直な事を話した。

「えっ、魔王城まで来て怖気付いたわけ?この世界を救えるのはあなたしか居ないはずよ」

そう俺に叱りはしたが、妖精はその後に続けてこう言った。

「まあでも出来ないことは無いわね、ちょっと待ってて」

そう言って妖精はパッと光を放って消えた。


このままだとあの三人が怪しむぞ、俺の計画は失敗に終わる、そう思った俺はこの森の主、悪魔象に襲われた事にしようと考え、森をさまよい始めた。

紫色をした木の葉には魔王の邪気がまとわりついている、俺は誰も近くにいない事を確認して…

「うわあああ、怖いよ帰りたいよ、そもそもなんで俺なんかが勇者をやらなきゃいかんのだ!」元々気弱だった俺は魔王城を前にして内心パニック状態なのだ。

そうやって地団駄していると、カサカサッと木の葉が揺れた、その後みるみる内に枯れていくのが分かった。

ドンッドンッと大地が揺れる、悪魔象だ。

俺は悪魔象の元へと近づいた。

真っ黒な目、魔力がみなぎっている鼻息、それに魔王の部下の印であるデビルマークが額についている。

「おい、象よ俺は魔王を倒しにきた勇者だ!」

俺は不思議なことに、この悪魔象の禍々しい目の中に少しだけ優しさが見えた。

「…… …… ……」

攻撃をしてこない、もう寿命なのだろうかそれとも様子を伺っているだけなのか。

すると悪魔象は俺の脳内に語りかけてきた。

「貴様が勇者か、何故私の前に現れた」

俺は困惑した、これほどまでに邪悪な魔力を秘めているのに何故落ち着いているのだろう。

しかし俺は察していたのだ、この悪魔象の中にいる優しさの正体を

「俺はお前を倒さねばならない、その魔力は自然を破壊する」

「面白い奴だ、ここに来て魔王様を狙うのでは無く私を倒すのか」

「魔王は……怖いからな」

「ハッハッハ、お前は実に魔王様に似ているな、このまま生かしてもいいが死にたくは無い」

そう語りかけた後、響き渡る鳴き声と共に強大な魔力を吹きかけてきた。

「アネモス!」こちらも聖なる風を生みだして相殺を試みた。

近くにあった森の木は吹き飛び枯れた。

象は風を切って俺の方に突進してきた、追い込まれた俺は「ギバラギオラ」と唱えた。

みるみる象の魔力が弱くなる、そして風が止んだ。

この技は相手の魔力を弱めるが自分の聖なる力も同じように弱ってしまう奥義だった。

悪魔象はまるで腰が抜けたように倒れ込んでしまった。

俺は息を切らしながら勇者の剣を引き抜いた。

悪魔象は早すぎる決着に驚いた様子でまだ目を見開いている。

ゆっくりと近くに行き、俺は話した。

「お前はあの伝説の象なんだろ、本で読んだことがある、昔このアルバフ王国を救った伝説の勇者が乗っていた象、それがお前だ」

象は優しい目をしてこう脳内に語りかけた。

「お前は勇者では無い…ただの勇敢な青年だ」

そう言い残した後、小さな光になって消えていった。


疲れ果てた俺は腰を落とし、ウトウトとしていしまっている、吹き飛んだり枯れしまった木々を眺めているとまた金色の煌めきが渦を巻き始めた。

「ちょっとなによこれ!探すの大変だったのよ、あなたも相手もね!」また不満げな妖精が近寄ってきた。

「相手って、見つかったのかい?俺と瓜二つな奴が」すると妖精がまた先程と様子を変えて神妙な面持ちで話し出した。

「見つかりはしたわ、でもこの世界にはいないの」俺は少し息を飲んだ。

「この世界にいないって、もしかしてもう亡くなってたのかい?」

「違うわよ、異世界にいたってことよ」

異世界の存在は知ってはいるが、連れてくるのはほぼ不可能に近いはずだ。

「異世界って、、そいつをなんとかして連れてくる方法は無いのか?」

「それがね、なんとあるのよ……」

何故か不満そうに言った。

「本当か!それでどうやって連れてくるんだ」

俺は嬉々として妖精が教えてくれるのを待った。

「実は私もあなたも異世界に行かなきゃならないの、本来異世界との繋がりを扱う役目は天使達がやるのよ、でも私は妖精でしょ」

俺はこの時異世界に行くという選択肢も悪くは無いと思ったが、どんな場所か分からなかったのですぐさま思い直した。

「なんで俺たちが異世界に行かなきゃならないんだ、連れてくればいいだけじゃないか、そもそもなんで天使でも無いのに君は異世界に行けるんだ」しかし話せば話すほど異世界の魅力を俺は感じていた。

「それが普通の妖精なら異世界を扱うことは出来ないんだけど、私は特別な妖精なのよ、ただし異世界に行くと石になっちゃうわ」

「俺が行く理由は?」

「彼をここに連れてくる条件よ」

少し思い悩んだ後、俺は妖精にこう頼んだ。

「異世界に行かせてください!!」









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