第51話 深部

 ヴィルジニーは右腕が完全に凍り付く前に緑剣をもう一対の腕に持ち替える。更に彼女は新たに蔓草から一振りの緑剣を作り出す。


「右腕、無力化したわ!」


 ヴィルジニーは三本の剣でルーネを攻め立てるが、受け太刀を恐れるあまりリズムが乱れる。

 

「次は左腕!」


 ポールアックスの一撃を躱しきれずに受け止めた緑剣から減速術式の魔力が伝わり、ヴィルジニーの左腕が凍り付く。ヴィルジニーは残った二本の剣でルーネを激しく連続で突き立てる。

 ルーネは連撃を防ぎ、後退しながら雷撃を放つ。ヴィルジニーは長期戦を恐れているのか、被弾覚悟で怯みながらも前進し、ルーネに激しい連撃をくわえる。


「黒の衝撃」


 ヴィルジニーはルーネが放った淵術の放流を後方に押されながらも二振りの緑剣で受け止める。


「くっ!」


 ルーネはヴィルジニーとの間合いが開いた隙に氷弾を形成し、ヴィルジニーの頭上に蹴り飛ばす。彼女の頭上で氷弾が炸裂し氷の刃が降り注ぐ。


「ああっ!しまっ……!」


 氷の刃を受けて怯んだヴィルジニーの膝下にルーネは鋭い蹴りを入れ転倒させる。


「蔓草を狙って、破壊出来れば……!」


 転倒させたヴィルジニーに馬乗りになるとヴィルジニーの口腔内に手を突っ込む。


「んっー!んっっー!」


 ヴィルジニーは激しく抵抗する。


「暴れないで!」


 ルーネはヴィルジニーの腔内から寄生していた蔓草を掴むと減速術式で凍結させ破壊する。そして、ヴィルジニーの体内に満ちていた魔女エシャールの魔力も減速術式で無力化する。


「痛いいっ!痛いっっ!力が抜けていく……」


 ヴィルジニーがまとっていた魔力で形成された白霊布のブラとショーツが霧散し、ヴィルジニーの身体が縮み、変異前の肉体に戻っていく。


「ルーネ、黒いドレスの女は!?」


「姿が見えないわ……魔力の反応はまだあるけれど」


 ……暗い坑道内に何処からともなく女の声が響いた。


「疲れちゃったからもう帰るわね……魔力もいっぱい使っちゃたし

今日はとっても楽しかったわ、貴女の相手はまた今度……楽しみにしてるわ」


 ルーネの膝が震えている。


「此方もかなり消耗したわ……後を追うのは無理そう……罠や奇襲やゾンビ化したゴブリンの残りに襲われるかもしれないし」


「あの女の魔力の反応が遠ざかっていく……撤退したのか」


 ルーネは気を失い倒れているコブリンの女に目をやった。


「寄生された蔓草は破壊したし、正気に戻ってる筈……」


「さて、このゴブリンの女を運び出すか」


「色々聞きたいことがあるし、マリエスブールへ師匠のところに連れて行くわ」

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