第37話 夜戦2
背中から氷柱に貫かれた吸血鬼カサンドラは大量の血を吐き、橋の路面に倒れこむ。彼女の腹の穴から大量の血が溢れ出す。
「再生を……」
血だまりに倒れこんだカサンドラは腹に開いた穴に手を当て、再生を試みる。
「ルークスジャベリン!」
再生を試みつつ、立ち上がろうとしたカサンドラの身体にハイディの放った光の槍が突き刺さる。
「まだ、やる気?這いつくばりなさい 黒の衝撃!」
ルーネの淵術によりカサンドラの身体が橋の路面に押さえつけられた。
「首を切り落とす!」
ルーネはポールアックスを吸血鬼カサンドラの首に向けて振り下ろした。そこにサニアが間に入りルーネの一撃を黒剣で防ぐ。更にサニアは結界を構成し、再び放たれたハイディの光の槍を受け止める。
「カサンドラ君、頃合いだ撤退しよう……そろそろ憲兵がやって来る頃だ」
サニアはルーネの足元を狙って蹴りを入れ転倒させ、更にポールアックスをルーネの手の届かぬ場所へ蹴り飛ばしたのち、倒れこんだカサンドラに手を差し伸べた。
「……逃がすわけにはいかないわ」
転倒したルーネの手から放たれた黒い雷撃が赤髪の女サニアを捉えるが、魔力を消耗していた為か、サニアはほとんど効いていないようだった。
「サニアさん申し訳ありません……少々油断しましたわ」
吸血鬼カサンドラは差し伸べられた手を掴み立ち上がると、サニアに身を預けた。
「気にすることはない何事も経験だよカサンドラ君、大丈夫だ、君には伸びしろがある、あたしが保障する」
サニアは優しく語りかける。
「はい……サニアさん」
「……今夜はこのへんにしておこうか」
赤髪の女サニアは橋の路面に倒れたルーネの身体をブーツで踏みつけながら、吸血鬼カサンドラを抱きかかえる。
「ヴィットーリオ殿に良い報せができそうだ」
……撤退しようとするサニア達に運河から這い上がってきたアンリが氷弾を蹴り飛ばす。氷弾が炸裂し氷の刺が飛び散る。
「逃げられたか?」
「アンリ……こちらも限界だ……これ以上の戦闘は無理だ、魔力も体力的にもな」
……ハイディは橋の欄干を背もたれに座り込んだルーネの治療をしているが、ハイディ自身も手と唇が震えており消耗がかなり激しいようだった。
アンリは周囲を警戒しながら、蹴り飛ばされたルーネのポールアックスを拾いルーネに手渡す。
「ありがとう」
ルーネはポールアックスを受け取るとゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫なのか?」
「歩ける程度には……何とかね」
「いやいや、あたしはだいぶ堪えたよ……身体を鍛え直さねば」
ハイディは腰が抜けたように路面に座り込んだ。
・・・・・・・・・
マリエスブールの郊外
「サニアさん……傷が」
カサンドラはサニアに刺さった氷の刺に目をやった。
「この程度どうということはない」
サニアは身体に刺さった氷の刺を抜きながら答えた。彼女の指先が血で赤く汚れる。
……二人を蒼い外套に纏った眼鏡をかけた男が待っていた。その男の傍らに仮面で顔を隠した金髪の女が影のように立っている。
「ヴィットーリオ殿」
「お疲れ、サニア」
ヴィットーリオと呼ばれた眼鏡をかけた男は衣服がボロボロになったカサンドラに自身の外套をかけた。
「ヴィットーリオ殿、貴殿の見立てどおり彼女はとても素晴らしい資質の持ち主です」
「それは良かった、サニア、貴女がそう言うのなら間違いないのでしょう」
「ヴィットーリオ様、このような美しい肉体をわたしに与えてくださりありがとうございます」
「いえいえ、カサンドラさん、礼には及びませんよ……貴女は共に主に仕える大切な仲間なのですから」
ヴィットーリオは笑顔で応える。
「……我が夫も私の中で喜んでおります」
吸血鬼カサンドラは下腹部を触りながら微笑んだ。
「そろそろ夜明けが近いですね、拠点に帰還することにしましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます