第12話 獣
夜の酒場
……ジュリアスが酒場の女に声をかけていた。
「ごめん、私はそういう気ないから」
酒場の女はジュリアスをあしらう。
「……駄目だったか」
とアンリ。
「小さな村であんな可愛い子を村の男達が放っておくわけないだろうぜ……男がいるだろうよ」
酒場では村の男たちが酒を酌み交わしている。
……この酒場に集まっているのは林業に関係する者たちが多いようだ。
「小さな村だから、よそ者が来たらすぐにわかると思ってたんだけどよ
王都へ材木を運ぶ仕事で他所から人が来ているみたいじゃねぇか
結構、人の出入りがあるみたいだな」
とジュリアス。
「……とりあえず、村の周辺を目撃情報のあった地点を探ってみたが……
オレの感覚ではこの辺の瘴気の濃度はそれほどではないな、持ってきた瘴気計もさほど反応してない
獣のエサになるドングリやキノコは豊富にあるみたいだ
草食獣を捕食する肉食の魔獣にとってはいい環境なんじゃないか」
「明日はもっと山奥も探ってみようぜ、火薬もだいぶ持ってきたからよ」
とディアスはバックパックを指さす。
「この辺の街道を外れた山の中の歩き方なら
オレやディアスよりも山賊やってたあんたの方がわかるんじゃないか?ジュリアス?……この辺の山は来たことあるか?」
「多少はな……ちょっとだけこの村に来たことあるけどよ」
「官憲の山狩りを逃れる為の山歩きの知識が役立つかもな」
とディアス。
……ジュリアスは苦しそうな顔をしながら、服の上からへそ周りをさする。
「ジュリアス、どうした?」
「……っくう……クソっ、ムラムラしてきた……へその下が熱い
……男だったときには感じたことのない疼きだ……
でも、男だった時の感覚もまだ残ってるんだ
むしろこの体になってから女の肌が恋しくしょうがねぇ
……そういう店に行っても女相手には駄目だって言われることも多くてさ
衝動を吐き出せなくて、もう存在しない筈の部分が疼くんだよ」
「……なあしかし、人間の男をサキュバスに変えるって可能なのか?
聞いたことないぜ、俺は薬や魔術のことはよくわからないが……
人間の女がインキュバスに変異することがあるってのは聞いたことあるがよ
リゾーム感応値の関係で人間の男は淫魔に変異しにくいんじゃなかったか?」
ディアスは小声で囁く。
「リゾーム感応値が高い方がリゾームや魔術の影響で肉体と精神が変容しやすいからな……男は強い獣性と魔性の両方をもっている奴は変異しやすい
人間の男はインキュバスに変異することがあるが、サキュバスにはなれない
オレも稀に人間の女がインキュバスに変異することがあるって話は聞いたことがあるが、人間の男がサキュバスに変異するのは今まで聞いたことがない」
・・・・・・
「……なあ、あの女……この村の人間じゃないよな?」
……酒場の隅で一人の赤髪の女騎士が酒を飲んでいる。
アンリはその女に目を向けた。
「あの女も俺たちと同じように魔獣退治に来たのか?」
とディアスが蜂蜜酒を飲みながらアンリに応える。
「……ちょっと、話してくる」
アンリは席を立つと、女に近づき声をかけた。
「失礼、アンタも魔獣の討伐にきたのか?」
「……ああ、そうだ」
赤髪の女騎士はアンリに顔を向け答えた。
「アンタ、この村に一人で来たのか?ああ……名前言ってなかったな、オレの名前はアンリだ、よろしく、向こうにいるのがオレの仲間だ」
アンリはディアスとジュリアスを指さした。
「……サニアだ、一緒に来た仲間は先に帰った……あたしもこれから帰るところさ」
「アンタ結構腕が立つんじゃないか?良かったらオレ達と組まないか?明日、山奥の調査に向かうんだ」
「いや、悪いがあたしは遠慮しておくよ、予定があるからね」
「そうか、失礼」
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