第6話 傭兵アンリ4

 巡回聖女ガラテアの放った一撃でグールの女の衣服が破け、女の赤い血が豊かな胸の谷間を濡らしている……闇夜に輝く白い肌、黒いブラとショーツ、鍛錬された美しい肉体。


「おいまて、ガラテアこいつとやるのか!?暗い場所でグールと戦……」


 ……戸惑うアンリの声を銃声がかき消した。

 ジェリコ連隊に追われる男の放った弾丸がグールの女の頬をかすめる……暗く視界の悪い夜の山林では上手く標的に命中されることが出来なかったようだ。


 男が構えているのはこの大陸でドーター式拳銃とよばれているタイプの前装式拳銃である。

ドーター式拳銃は銃の内部に魔力を装填し、その魔力で紙製薬莢内の火薬に点火、鉛の弾丸を発射する。火薬が無くても弾丸を発射することが出来るがその場合貫通力は低い。撃鉄がついているものとついていないものがある。

 ドーター式の名前の由来は

ドーターという名の技術者が発明した

ドーター地方の傭兵が好んで使用したから

女性の護身用に使われた銃だから

など諸説があるが正確な由来は不明である。


 男は前装式拳銃の紙製薬莢を手に取り、銃口からカルカ(弾薬を押し込める為の棒)で弾を装填しようとする、がしかし、手が震えて上手く装填できない。この男はグールと戦ったことがないのだろう。

 男がもたついている間に、女はグールの驚異的な瞬発力で瞬時に男との間合いをつめ,銃を蹴り飛ばす。


「銃は怖いわ」


 更に強烈な蹴りを男の顔面に叩き込む。鋭い一撃をくらい地面に倒れこんだ男の手をグールの女が踏みつける。


「……装填や狙いを定める時間をあたえないようにしないとね」


 女は力をこめ、男の利き腕の骨を踏み砕く。男が悲鳴をあげる。


「生け捕りのほうがいいわね、足の骨もおりましょうか」


「……オレはアンタとはやりたくなったが仕方ない、その男から足どけてくれるか?」


 アンリは男を踏みつけるグールの女の腕を掴む、グールの女の手が凍る……がしかし、女はすぐにアンリの手を振りほどいた。


「……氷術、減速術式ね、でも私はそう簡単には凍らないわよ

ちゃんと魔術抵抗も体も鍛えてるからね」


 そう言うと、女は高そうな黒い下着に包まれた自身の豊かで形の良い胸に手をやる。


「それとこの下着のレース刺繍はただの飾りってだけじゃなくて、魔術耐性を高める術式でもあるの……このブラとショーツを剥ぎとれば貴方の減速術式も多少はききやすくなるんじゃない?フフ」


 女は片手でアンリの蹴りや拳をさばいていく。


「人間の男がグールの私と力比べするのは分が悪いんじゃないかしら」


 アンリは距離をとり、魔力で氷弾を形成し彼女に向けて放つが、グールの女は彼の攻撃を軽快なフットワークで躱していく。

 そして、彼女は瞬時に間合いをつめ、タックルでアンリの体勢を崩し、強烈な肘を彼の顔面にたたきつける、さらにグールの怪力でアンリを蹴り飛ばす。


「……ガラテアさん、さっきのは痛かったわよ」


 アンリを蹴り飛ばしたグールの女はガラテアのほうに顔を向けると、素早くガラテアの背後に回り彼女を羽交い絞めにする。そして彼女の黒い修道服の中に手をつこっみ彼女の腹部や胸部をさする。


「いい手触りね、すべすべしてるわ……控えめな胸も可愛らしくて好きよ」


「放せ、貴様!」


 ガラテアのへそ回りをまさぐり、そして彼女の肩に噛みつく。

 ガラテアは悲鳴をかみ殺す。

 グールの牙が柔らかな肌を貫き、黒い修道服を血で赤く染めていく……

 起き上がったアンリが女の行動を妨害するため氷弾を放つも、グールの女はそれを片腕ではじいた。


「この娘に当たるわよ」


 グールの女は巡回聖女ガラテアの修道服を破く、彼女の肌とガラテアの肌が触れあう。


「ガラテアさん、本当に綺麗な体してるわ……殺して食べてしまうのはもったいないわね……生きたまま私の体に取り込んであげる」


 彼女はガラテアと体を密着させ、指を絡める。


「くっ、は、はなせ!」


「嫌よ、放さないわ……相手に放せといわれて放すわけないでしょ」


 彼女は耳元でささやき、頬と頬を合わせる。二人の身体の境界線が曖昧になり、ガラテアの身体が徐々にグールの女の肉体に沈み込んでいく。


「ねえアンリ君、早くしないと彼女の吸収が完了してしまうわよ」


 グールの女は吸収を妨害しようとするアンリの蹴りをかわしながら、自身の足をガラテアの足に絡める……二人の身体が絡み合う……ガラテアの肉体が取り込まれていく……

……そして吸収が終わった。


「……フフ、ガラテアさん私の中の心地はどうかしら……意識あるでしょう?」


 彼女は自身のへその下をなでる……体内でガラテアが抵抗しているのか、彼女の胸部と腹部がびくびくと震えている。


「安心して……殺したりはしないわ……貴女の身体も記憶もすべて私のものになる……貴女の自我がゆっくりとけていく感覚……味わうといいわ」


 腹部の痙攣が収まりガラテアを取り込み膨らんでいた腹部が収縮し引き締まっていく……美しいバスト、くびれた腰、しなやかにのびた脚……引き締まった美しい肉体にガラテアの魔力が宿り、威圧的な美しさを周囲に見せつけている。


「フフ、胸の奥が熱いわぁ……聖女の魔力って本当に素晴らしいわ……

ねえ、ガラテアさん……聞こえる?貴女もグールのパワーを感じるでしょ

私の中にいることが心地よくなって……」


「……気持ちよくなってるとこ悪いが、まだ勝負は終わってないぞ」


「アンリ君、貴方も可愛がってあげるわ……」


 女は素早いフットワークでアンリの攻撃を躱していくが……

突然、グールの女の足が止まった。


「くっ、足が、まだ抵抗をっ」


……ガラテアが体内からグールの女の足の支配権を奪ったのだ。

 彼女の足は硬直し攻撃を回避できない、女の顎にアンリの蹴りが入った。

アンリの一撃でグールの女の意識が飛ぶと肉体の同化が解け、グールの女の腹が膨張していく。


「うっ、ああ」


 グールの女の背中がうごめき裂け、内部から女の手が飛び出してくる。


「神聖魔法ルークスジャベリン!」


 魔力で形成された光の槍がグールの女とガラテアの身体を深く突き刺す。


「貴女、自分の身体ごと!」


 ガラテアの神聖魔法の直撃をくらった女の全身から赤い血がふきだす。

肉体の同化が完全に解けたガラテアがグールの女の身体から這い出し、地面に倒れこむ。


「よくやったぜガラテア!止めはオレがやる!」


 アンリはドーター式拳銃を拾い、グールの女を撃つ。

 着弾した場所から幾本もの鋭い氷柱が生まれ、グールの女の身体を貫く、そして、その傷跡から女の身体が凍りついていく。


「わ、私が……」


「鉛玉にオレの魔力を込めたんだ、オレの一撃の味はどうだ!」


 ……グールの女が膝から崩れ彼女の身体は山の斜面を転がり落ちていった。


・・・・・・・


 巡回聖女ガラテアはグールの女に折られた男の腕に手をやり治癒魔法で再生をおこなっていた。そこへ周囲の探索を終えたアンリが戻ってきた。


「アンリ、どうだった」


「下を探したが奴の姿は見当たらない……」


「奴は死んだのか?」


「たぶん奴は死んでない……逃げられたな、グールは猫みたいに高いところから飛び降りても平気だからな……グールは夜目も効くし耳もいい、それに奴は土地勘もあるみたいだしな、この暗闇の中じゃあ奴を追うのはきつい」

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