第237話 覚悟を決める
突然の話と複雑な心境で私が何も言葉を発せないでいると、ダスティンさんが静かに頭を下げてくれて、私はそんなダスティンさんに慌てて声をかけた。
「頭をあげてください! ダスティンさんのせいじゃありませんから。もちろん陛下に対しても、恨む気持ちなどは一切ありません。話を聞く限り、仕方のない流れだと思います」
大陸会議なんていう場所では、一国の王でさえ大きな流れに逆らうことはできないだろう。というよりも陛下だって、私が大聖堂に向かうのに賛成なのかもしれない。
今の状況を打破できる可能性があるなら、それを端から試すのが、国を預かる立場としては普通だよね。
私だって大聖堂に行くことでゲートの異常発生がなくなるのなら、行くべきだと思うから。
「ダスティンさんは、私が祈ることで何かが変わる可能性はあると思いますか?」
「……正直に述べると、可能性はあると思っている」
やっぱりそうだよね……今までに例のない創造神様の加護を持つ存在なんて、何かしらの力があると思われても仕方がない。
もしかしたら、私でもまだ気づいていない力があるのかもしれないし。
「――あの、大聖堂に行くとしたらいつになるのでしょうか。誰と一緒に行けて、どのぐらいの期間で、向こうでの活動予定や、結果が伴わなかった場合についてなど、詳細は決まっていますか?」
私は少しずつ大聖堂に向かう決意を固めながら、ダスティンさんに問いかけた。
多分もう、大聖堂に行くことは避けられないんだと思う。そうじゃなければ、わざわざダスティンさんが私を呼び出して話をしたりしないはずだ。
さらに私自身の気持ちとしても、可能性があるなら試してみるべきだと思っている。ゲートの異常発生がこれからも起き続けるのだとしたら、平和で穏やかな日常なんて夢のまた夢になってしまうから。
そうなれば、次に大切なのは行く場合の条件だ。
「大陸会議では、レーナがレーナ・オードランとして――すなわちラクサリア王国の貴族として、大聖堂があるシーヴォルディス聖国を訪問する形と決まった。したがって、同行者などは比較的自由に決められるだろう」
おおっ、そうなんだ。それならちょっとだけ安心できる。多分大陸会議でこの条件をもぎ取るの大変だったんだろうな……陛下、ありがとうございます。
「また期間や時期などについては、ラクサリア王国にいるティモテ大司教と決めることになった。大聖堂までは、ティモテ大司教も同行されるそうだ」
ティモテ大司教って……あの人だよね!?
貴族街にある教会にいる偉い人だ。私のことを神だと思ってるんじゃないかってほど、会うたび会うたびに崇めてきて、ちょっと怖いレベルの人。
「そ、それは、決定事項なのでしょうか……」
「ああ、我が国にいるシーヴォルディス聖国の要人の中で、一番地位が高いのがティモテ大司教だ。この決定が変更されることはないだろう」
ダスティンさんは私がティモテ大司教を苦手だと知っているからか、申し訳なさそうに眉を下げてくれた。しかし変更はないという言葉は、はっきりとしたものだ。
「そうですよね……分かりました。受け入れます」
よく考えたら、ティモテ大司教が私たち側にいてくれるのは良いことなのかもしれない。前に私を捕まえようとした人みたいに、教会側にはさまざまな思惑を持つ人がいるだろう。
その中で私の熱心な信者というのは、見方を変えれば信頼できる強い味方とも……言える。うん、そうだ、多分。
「ダスティンさん」
私の中で固まった決意を告げようと、ダスティンさんに声をかけた。するとダスティンさんは、無言で私の瞳をまっすぐに見つめてくれる。
「私、大聖堂に……シーヴォルディス聖国に行きます。ただ教会には入りたくないですし、聖国に長い間留まるつもりもありません。その願いは叶うでしょうか」
そう伝えると、ダスティンさんは眉を下げた後、ふっと口元を緩めた。
「正直に伝えると、実際に大聖堂に赴いてみなければ、どうなるのかは分からない。ただの訪問で終わるかもしれないし、もっと困難な事態に陥るかもしれない。しかし……レーナの願いを叶えるために全力を尽くそう。それだけは約束する」
ダスティンさんにそう言ってもらえると、なんだか本当に大丈夫な気がして頬が緩んだ。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
実際にこれからどうなるのかは、行ってみなければ分からないけど……過度に不安がらず、別の国を楽しむぐらいの心持ちでいたいな。
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