第十章 あの頃の自分は・・・

 もう一度、モトクロスをすると決めたジミーは、新たにプロライダーとしてレースをするのにあたり、生活が昼夜逆転している今の仕事を辞めざるを得ず、また新たにレース資金を調達しないといけない。


 ジミーは、まず現在働いているラウンジのオーナーに話をしに行く。


「オーナー、お話があります」

『おっ?どうした?』

「実は、僕は子供の頃からこの世界に入るまでモトクロスというモータースポーツをしていました」

「それで、一度引退したのですが、もう一度レースがしたくて復活しようと思います」

『それで?』

「はい、それでレースをするのにあたり、お店を辞めさせて頂きたいと思います」

『レースをするのに、仕事しながらでは無理なのか?』

「はい、プロの大会に出場するので県外遠征に行く事が増えてお店にご迷惑が掛かります」

『そっか』


 オーナーは気難しい顔をする。


『それで、仕事辞めるのは良いがレースの事は知らんけど、仕事辞めて日々の生活はどないするんな?』

「とりあえず退職後、お昼のアルバイトしながらスポンサーを探そうと思っております」


 沈黙が続く・・・


 すると、オーナーは笑いだし、


『てっきりよ、話があると言うから店辞めて独立でもするのか?と、思ったわ』


 と、言うとオーナーが語り出した。


『俺は、18歳でこの秋田町に出てきてホストを経験して、色々なお客様に恵まれて自分の店を開業する事ができた』

『更に、若い衆が沢山俺に付いて来てくれここまでやって来れた』

『だが、今不景気で街も暇だろ?しかも県外の人達は徳島って所が何処にあるのかも知らんやろ?』

『俺の夢は、俺が秋田町に出てきたあの頃のように人が溢れて活気のある街にする事が夢なんだよ』

『だからジミー、仕事辞めなくて良い』

「えっ!?」


 と、ジミーはオーナーの言葉にびっくりする。


『ジミー、お前に新たな仕事をやる』

「何でしょうか?」

『お前は、レースに集中できるように日々練習?とか頑張って夢叶えたら良い』

「いや、オーナーそれでは・・・」

『その代わり、条件がある』

「条件とは」

『それは、レースというのは全国であるんやろ?それならうちの店の看板と徳島を背負って走れ!』

『それで、徳島の知名度上げてこい』

『知名度を上げて、徳島に観光客がくれば、またあの頃のように活気が溢れる』

『レースは、お前の夢かも知れないが、そうする事が俺の夢でもあるんだ』


 そう言い、オーナーはジミーに握手した。


「ありがとうございます」

「必ず、レースに勝って徳島の知名度上げてきます」

『おう、頑張れよ』

『それでよ、レースってのは軍資金がいるんやろ?』

「はい」

『ならよ、お前は変わらずうちの従業員』

『軍資金、店の経費使え』

「えっ!?良いんですか?」

『あぁ』

『どうせ売上の一部は、税金払わないといけんからな』


 と、オーナーは笑う。


『どうせ国にお金払うなら経費で使ってくれ』


 オーナーの協力によりジミーは早速、軍資金を調達することができた。

 

 それから数日が経ち、ジミーの携帯に一件着信が入る。


 相手は、あの秋田町では知らないとモグリと言われている大企業の社長からの電話だった。


『よ、ジミー、今日飯食いに行かんか?』

「ありがとうございます」

「是非、お供させて頂きます」


 食事の約束をしたジミーは、料亭へ向かう。


『ま、とりあえず飯食おう、腹減った』

「はい、いただきます」


 食事をしながら世間話をし、食事が終わる頃


『ところで、噂で耳にしたけど、レースするんやって?』

「はい、復活してレースします」

『そっか』

『復活って事は、昔してたんだろ?』

『なんで辞めたん?』

「いやぁ、当時プロライダーになって世界チャンピオン目指していたのですが、スポンサーが付かずレースできなくなって引退しました」

『そんな事だと思ったよ』


 そう言い、飲んでたグラスを置く。


『実は・・・』


 と、なんやら社長は語り出した。


『俺、昔暴走族しててな、これでもまあまあ走らせたら無敵だったんだぜ』

『しかしな、暴走してる時に、親友が事故ってな・・・』

『死んだんだよ』

『それで、なんぼ公道で速くたって所詮、公道』

『仲間達に認めてもらえても、世間は認めてくれない』

『それで、モトクロスというレースを知り始めた』

「え?社長もモトクロスしてたんですか?」

『意外だろ?』

『実は、国際B級まで行って、全日本モトクロス選手権走ってたんよ』

「マジっすか!」


 ジミーは、社長の過去を知りびっくりすると共に、身近にモトクロスを知っている人がいたことが嬉しかった。


『自分で言うのも何だけど、俺も才能あったと思うよ』

『ただの暴走族が三年で全日本だから』

「三年って!それは、すごいですよ」

「でも、なんで辞めたんですか?」


 ジミーは、興味本位で聞く。


『ジミーと、同じよ』

「え?」

『俺も世界GP目指してた』

『けど、元々貧乏だった俺は、借金までしてレースしてたが、遂に底をついてしまってな』

『それで、引退して夢諦めた』

「そうだったんですね・・・」


 ジミーは、興味本位で聞いた事を後悔した。


『けど、モトクロスをした経験でお金が大事な事に気付き、そのお陰でビジネス始め借金返して、今ではこれだよ』

「流石、社長ですよ」

『ありがとう』

『それで、俺は夢や才能があるのに諸事情で諦めてしまう子達をほっとけなくて・・・』

『ジミー!』

「はい!」

『スポンサーするから俺の夢叶えてくれんか?』


 社長の話でいろんな思いが込み上がり、涙があふれる・・・


「はい!ありがとうございます」

「社長の気持ちが無駄にならないように走ります」


 二人は握手し、ジミーは新たにスポンサーがついた。


 “俺はあの時、間違えてた”

 “レースは、勝ってなんぼ”

 “速ければ勝手に、スポンサーがつく”

 “勝たなければ、スポンサーがつかない”

 “スポンサーしてくれる方は只々、宣伝のため”


 当時そう思っていたジミーは、何故あの時自分にスポンサーがつかなかったのか・・・


 思い知らされた。


 スポンサーする人たちにも、夢や希望があり、社長のように叶えられなかった夢を追い続けている人もいる。

 自分だけが夢を叶えたいわけではなかったんだ。

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