50 頼るべき相手を探して

 その夜、奏斗のところに『花穂さんと連絡が取れない』と大川結菜からメッセージが来た。どうやら自分だけではないようだ。

 このメッセージにより、奏斗が花穂から無視されている可能性は消去された。


 結菜には、その件については現在調査中だから待って欲しいと告げる。

 彼女は異常事態と察したのだろう、『わかった』と一言。


「これで結菜が何か事情を知っていると言う線はなくなったな」

 スマホの画面を見つめ、奏斗は呟くように零す。

 やはり大里愛花おおさとまなかが何か知っていると考えていいだろう。


 ならば事情を知っている側はどう動くだろうか?

 やはり奏斗のように危険を回避したいと思うに違いない。自分がこれだけもどかしく思っているのだから、カードを持っている方はチャンスがあれば必ず飛びついてくるだろう。


──俺がよく食事に誘われていたのは、二限上がりの日で大崎たちと講義が被る時。

 

 大学は一コマ九十分。その為二時限で昼となる。午後の講義がない時に食事に誘われていたことを思い出し、壁に貼られていたコマ割りに目をやる。

 チャンスという意味なら何度も来るだろうが、今は早急に状況を知りたいと思った。となれば、今日がそのチャンスの日だ。

 いつも通り。それにすべてはかかっている。


「よお、色男」

 大学にもよるだろうが、わが校は内履きに履き替えるシステム。とはいえ、快適さを重視してK学園オリジナルの履物となっている。

古川こがわ、その呼び方はやめろって」

 靴箱で履物を変え、顔をあげると呆れたように壁に寄りかかり古川を眺める大崎圭一おおさきけいいちと目が合う。

「最近、ツインテールの子とばかり一緒にいるという噂を聞くよ?」

 ”別れたんじゃなかったけ?”と言葉を添える古川。

「別れたけど、結菜は親友」

「へえええええええ」

 口を歪め、首を斜めにし数度強く頷く古川に”どこの外国人だよ”とツッコみを入れたくなった。再び圭一の方を見やれば、軽く両手を広げ呆れ顔だ。


「次の講義、同じだろ。一緒に行こうぜ」

 古川は特に気にしていないようだ。彼のこういうところは非常に楽である。

「ああ」

 同意をし歩き出せば、圭一も近づいてくる。相変わらず葬儀屋のようなファッションだなと思いながら圭一の方を振り返れば、前を見ろと言うジェスチャー。

「相変わらずモテるね、白石」

「いや、あれは妹」

 廊下の先で金髪の女子学生がこちらに向かってブンブンと手を振っている。見た目は可愛いが、トチ狂った妹である。

「なんだ、風花ちゃんか」

 二つ年下の妹は今年K学園大学部に入学した。二人とはよく見知った仲。

 

「そういや風花ちゃん、なんで大学部には風紀委員会がないんだって学生会に抗議に来てたね」

 ”そうだな”と圭一。

「俺は、大学部に入っても学生会に所属している二人の事の方が不思議でならないよ。めんどくさくないのか?」

「メンドクサイだなんて。特権階級の集まりでしょ? 楽しいよ」

 圭一は、古川の言葉に”何言ってんだ、お前”と言う視線を向ける。

 面白い二人だなと思いつつ歩いていると、いつの間にか風花のいる場所までたどり着いていた。


「お兄ちゃん!」

「なんだ、妹」

 まとわりつく風花の頭を撫でようとしたら手を掴まれる。

「結菜ちゃんと遊びに行くから、後で迎えに来て」

「結菜と?」

 不思議そうに問い返せば、

「珈琲ネコのイベントがあるの!」

と掴んだ手に力を入れた。

「風花、痛いよ」

 あの黒猫のことだろう。

「わかった。迎えに行くから気を付けて行けよ」

 ”やった!”と飛び上がり、駆けだす風花。いつまでも子供だなと思いながら風花を見送る。


「相変わらず仲いいね」

 古川の一言。

 それをかき消すように、

「相変わらずの下僕っぷりだな」

と圭一が苦笑いしながらポツリと言葉を発した。

「懐かれているだけ、大崎のところよりマシだな」

「古川、今なんつった?」

 どうやら古川は地雷を踏んだらしい。

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