13話 失ったもの【Side:奏斗】

49 途絶えた連絡

 奏斗はメッセージアプリの画面を見つめていた。

 花穂から連絡が途絶えて一週間、返信には既読すらつかない。


 奏斗は彼女が自分を捨てたのかとも思ったが、どんな理由にせよキッチリと言葉にするタイプの人なのだ。こんな終わり方はありえないと思った。

 一応電話は通じるようなのだが、相手は出ない。既読がつかづ、電話口にでないなら出られないのかもしれない。

 となると、拉致された可能性を考えはじめるが花穂は社長令嬢。すぐに問題になっていてもおかしくはない。

 自らいなくなったと言うなら、行き先を訪ねて奏斗に声がかからないのも変だ。


 つまり、彼女は連絡が取れない状況にはあるものの、それは家族が承知していると考えるのが自然。家に監禁され、連絡手段を奪われていると想像するのが妥当だが、大学はどうしているのだろうか。

 いろんな可能性を考え、コールは一度きり。手元にあってかけられないとしても、頻繁にかかってきては電源を切られる恐れもある。それが奪われているというならばなおさら。


 どちらにしても花穂の気持ちを信じたかった奏斗は、彼女が既読を付けられない状況にいるのだと判断した。

 最後に会った日、彼女は何と言っていただろうか?

『和馬と話をしようと思うの』

 花穂は確かそう言っていた。


 奏斗にとってトラウマの相手、楠和馬。花穂の義弟。彼に確認することが手っ取り早いが、和馬が”美月愛美”側についていないとは言い切れない。

 彼が向こう側についていたなら、ここで直接訪ねる行為は危険。完全に詰みである。


──よく考えるんだ。

 そして一番安全な方法を取らなければならない。


 学生課では確か学籍異動の申請や管理をしている。学籍異動とは休学や留学等、大学の在籍状態を変更することを言う。個人情報だから簡単に教えて貰えはしないだろうが、要は聞き方次第だとも思う。

 それでも確認に行かないのは自分の行動が愛美に筒抜けだと判断したからだ。必死に探せば探すほど、花穂は自分から引き離されるだろう。


──愛美側についているのは、恐らく学長の息子。

 学生課に確認したことなどすぐに知れる。

 和馬に確認することが罠という可能性は拭いきれない。


 だが、花穂は連絡を取れなくなる可能性を予め考慮していた。

 だからこそ和馬に会いに行ったのだから。


 となると和馬が向こう側に引き込まれる可能性だって考えていたはずだ。何せ和馬も奏斗たちと同じ大学に通っているのだから。コンタクトを取ろうと思えばできたはず。

 奏斗はスマホの電話帳を眺める。そこに並んでいるのは自分と関わりの深い面子メンツばかり。

 その中で花穂が信頼していたのは奏斗の妹、元カノ大川結菜おおかわゆな。そして花穂にとって先輩である大里愛花おおさとまなかだ。


 和馬の恋人であり花穂にとっては大学のOB、奏斗にとっては高等部時代の教師だった岸倉のことも考えたが、彼に確認するのは得策とは言えない。   

 そもそも彼が何か知っているなら向こうから連絡してくるだろう。

 岸倉とはそういう人物だ。


 消去法で考えてみる。妹もそうだ。きっと連絡が来るはず。

 結菜に関しては、講義があれば必然的に会い行動を共にするのだ。何も言わないわけがないし、愛美の監視対象である結菜に何かを託すだろうか?


──となると選択肢は一つしかない。


 だがそこで再び疑問が起きる。大里愛花が何か託されていたとして、奏斗に連絡を取ってこない理由だ。

 愛花はK学園では二大セレブの片割れと言われており、奏斗の高等部時代からの友人である大崎圭一おおさきけいいちの幼馴染み。何度か彼女の屋敷には招かれたことがある。

 頻繁に会うことはないが、何度か食事にも行った仲。そこにはもちろん大崎が含まれるが。


──つまり、彼女も監視対象には変わらないということなのか?


 自分が監視対象だと気づいた時、賢い人はどう行動するだろう?

 恐らく普段と変わらない生活を心がけることだろう。

 結論から言えば、彼女が自ら奏斗に連絡を取ることは異常事態。ならば自分がすることは一つ。

 ダメ元ではあるが自然に愛花に会うことである。

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