6話 幻想だった世界に【Side:花穂】
21 行き過ぎた理想
──わたしは奏斗に出会うまで、恋をしたことがなかった。
それは単に理想の相手と出会えていないだけだと思いこんでいた。
だが実際は男という生き物に、幻想を抱いていただけに過ぎない。
世の中の大部分を占める男の求愛行為は『性行為に直結する』と感じている。そこに異性愛か同性愛は関係ないのかもしれない。
そう思い始めたのはいつだったか。
性行為自体には愛なんてものはない。それは、単なる繁殖行為。
愛は互いの中にあるものであり、性行為を求めることは愛と直結しないものだ。
花穂のお付き合いした相手は皆、良家の坊ちゃんというものだった。
K学園はお金持ちが集まるエスカレーター式マンモス校。
そういう相手に不自由したことはなかった。
──人間とは不思議な生き物。
繁殖を望みながらも、繁殖行為を穢れという。
ならば人類は穢れまみれでしょうね。
そして穢れなき女性には価値があっても、穢れなき男性にはこれといった価値はない。
そういう価値観が蔓延っているから性被害者はあとを絶たないとも言える。
花穂が自分自身を守るためには、良家の子息がとても都合の良い相手。
そして彼らにとって穢れなき女性が多大な価値のあるものだと知った。
こんな世の中であるにも関わらず。
いや、こんな世の中だからかもしれない。
『お付き合いするのは構わないわ。でもわたし、婚前の性交渉はする気がないの。それでもよろしくて?』
そう告げた時の相手の表情は恍惚としていた。
自分の近い未来、妻を自慢する
つまり、その言葉は効果絶大だった。
見目の良い良家の子息を連れまわすことに事欠かなかったが、相手にとってもそれは同じだったのかもしれない。
花穂は相手が女遊びをすることに目をつぶり、飽きればそれを逆手に取り離縁する。
相手が次から次へと変わる花穂は陰で、”魔性の女”などと呼ばれていたこともあった。
それにも関わらず、花穂は人に恨まれることはなかったのである。
理由は簡単、後輩の女子学生には人気があったから。
美人で気さく。それが後輩からの評価。
そして、K学園では二大セレブの片割れと称されている『大里姉妹』と懇意な関係であったことも大きいだろう。
特に一学年上の『大里愛花』には可愛がってもらっていた。
彼女のスマホの待ち受けは自撮りであり、『世界一美しい愛花様』と添えられている。確かに美女ではあるが若干厨二病であり、そのギャップのせいかK学園では絶大な人気を誇っていた。
そんな彼女は花穂とは真逆で浮いた話を一度も聞いたことがない。
以前、彼女に恋人はいないのかと聞いたところ、
『わたくしに釣り合う相手など、この世におりまして?!』
と言われた。
とても素敵な返しである。
美人とは得だ。
彼女の妹と言えばK学園二大セレブのもう一人、”大崎圭一”を異常にリスペクトしており『今日の圭一くん』という謎のブログを書いている。
一眼レフカメラを携え、隙あらばパパラッチのように撮影しまくるというクレイジーっぷりだ。
撮影されている当の本人は慣れっこなのか、まったく気にしていない。
『ミノリ、あんな非の打ちどころのない男なんてロクでもありませんわよ?』
『お姉様酷いですわ! 圭一くんの悪口を言うなんて』
とても仲の良い姉妹である。
そんな変わった価値観を持った愛花だが、白石奏斗に関して”やめたほうがいい”とは言うものの、悪く言うのを聞いたことがない。
最も圭一のことを妹に諦めさせようとするのは不毛な恋だから。彼には十年思い続けていた相手がいて、婚約しているという噂もある。
──少なくとも、愛花先輩から見ても『悪い人』ではないということ。
単に興味がないのかもしれないが。
悪い噂にまみれてなお、『悪い人』と評されることのない奏斗。
どんな人物なのか気になってしまったのは致し方ないだろう。
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