14 謎の学内ランキング

「なんでそんなに動揺するのよ」

「いつもそんなこと言わないから」

 花穂の言葉に深呼吸をする奏斗。

「で?」

「確かに遊びに行くときは女子も混ざっていたこともあるが、クラスメイトだよ」

 奏斗は単にクラスメイト達と放課後にカラオケや映画などへ行っていただけらしい。それに尾ひれがつき、悪い仲間と女遊びをしているように広まった。


「あなた、よっぽど恨まれてたのね」

「え?」

「一緒に遊んでいた人たちは噂を否定してはくれなかったの?」

 花穂は奏斗の髪に指先を伸ばす。

 派手な見た目、澄ました態度。

 学生のうちはちょい悪の大人っぽい子に惹かれるものだ。


──奏斗は見た目が派手なだけで、真面目だけれどね。


「聞かれれば否定くらいはしてくれただろうけれど、あっという間に広がったしな。一緒に遊んでたやつらにはなんら影響がなかったから、ハブられたりとかしなかったが」

 兄のせいで妹が何か言われるということもなかったようだ。

 最も、妹の風花はずっと風紀委員に所属している。悪い噂が立ちようもなかったのかもしれない。

「そうなのね」

 一対一で遊んでいたわけでないことを知ると、途端に優越感がこみ上げる。

 少しは特別な位置にいるのかもしれない、そんな風に思った。


「で、恨まれていたとは?」

「悪意がなければ、そこまで広がらないでしょ」

「まあ、ね」

 彼が羨望の眼差しを向けられた理由はいろいろあるのだろうと思う。

 K学園では染髪は多様性の一つとして認められている。なので奏斗のような明るい髪色をしていても校則違反にはならないが、やはり似合う似合わないというのはあるだろう。


 容姿というものは部分的で完成されるわけではない。

 人間というのは容姿のみで形成させるわけでもない。

 しかしながら、大部分の人間は容姿で人を判断するものなのである。

 人は嫉妬をする生き物。他人が墜落する様はさぞ気持ちの良いものだろう。


──もっとも。奏斗の悪い噂が広まりやすいのは、同時に注目されているからでもある。その上、本人が否定しないのだからおもしろおかしく噂する人もいるでしょうし。


 他人を悪く言ったところで、自分が注目されるわけでも人気者になるわけでもないのに、勘違いしている人が多くいるのだろうと思った。


「奏斗の噂を信じているのなんて、一部の人だけよ。大多数は面白がっているだけ」

「なんでそんなことが言えるんだ? 結菜だって信じていたのに」

 結菜は奏斗の恋人の名だ。可笑しそうに笑う奏斗にチラリと視線を送ると、花穂はローテーブルに置かれた自分のスマホに手を伸ばす。

「そんなの信じている人が大勢いるなら……」

 花穂はK学園の裏掲示板を開く。それはK学園の生徒会、学生会で運営されているホームページ。

「ランキングから名前が消えていてもおかしくないでしょ?」

 ここ何年も変わらない、K学モテ男ランキング上位者。

 彼の名が登録されてから、そこから削除されたことは一度もない。

 奏斗は花穂の手元に目をやり、軽く肩をすくめると、

「そういえば、そこに公開されている【イケメンランキング不動の一位】が何故モテランキングに一度も載ったことがないのか、いまだに不思議なんだが」

 奏斗の言葉に花穂が『本気で言ってる?』というように彼を二度見した。


「『大崎圭一』でしょう? わたしは詳しくは知らないけれど、彼に人気があるのは高等部二年の時に、生徒会副会長としていじめ問題に取り組んだのがきっかけだったって聞いているわ」

 K学園はマンモス校であり、何か所かに校舎がある。彼女が高等部時代に通っていたのは奏斗たちとは違う校舎であった。

「それに、大里姉妹がいつも一緒にいるなら恋愛対象にはなり辛いんじゃないのかしら? このランキングがどうやって集計されて決められているのかは知らないけれど」

 ”俺も知らないなあ”と呟く奏斗。

 そんな彼に、”あなたの友人は元生徒会長だったはずだけれど?”と花穂は首を傾げたのであった。

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