4話 理解できない彼【Side:花穂】
13 距離感がオカシイ彼
「どう思う?」
「あれは続くな」
”わたしもそう思うわ”と相づちをつくと、花穂は奏斗の腕に手を添えた。
”手を繋ごうよ”と言うようにじっとこちらを見つめる彼の視線が痛い。
「嫌なの?」
言葉で問われては、返事をしないわけにはいかないではないか。
「嫌じゃないの。でも、誤解されたら面倒になるでしょ?」
”いいよ、別に”と言うように差し出される手。眉を寄せ、彼と彼の手を交互に見つめ、諦めたようにその手を掴んだ。
──何よ。こっちは気を遣っているのに。
「奏斗。わたしたちは友達なの」
泣きたい気持ちでハッキリと言葉にすれば、自分の言葉に挫けそうになる。
「わかってる。友達だって手ぐらい繋ぐだろ?」
少し怒気を含んだ声音。
ここで怯むわけにはいかない。
「奏斗は他の友達とも手を繋ぐの?」
「は?」
明らかに不機嫌な態度。
勘違いしてしまいそうになる。
友達になろうと言ったのは自分。好きと言わなかったのも、言えないのも自分。だから彼女たちと同じ土俵には、あがれない。
「なんて言えば満足?」
つき合っていた時でさえ、そんなことは言わなかった。こんなに不機嫌な彼を見たことがない。
土俵にあがることを選ばなかったのは自分。そうするべきだと思ったから。
「悪い」
なんと返せば良いのか分からず立ち尽くす花穂に、表情を和らげる彼。
「俺は花穂と手を繋ぎたい。ただ、それだけだよ」
「うん」
理由を聞きたいが言葉にならない。
スッと視線をそらされ、居心地が悪かった。
気まずいまま自宅へ戻ると、ワインを開ける。
お酒が入れば大胆にもなれた。
「3部作かなって思うの。米映画って3部作多いじゃない?」
ソファに腰掛けている奏斗。花穂は絨毯に腰掛け、彼の膝に腕を置きワイングラスを傾ける。
「あの感じだと、次回作が出るなら主人公は変わりそうだな」
時々髪を撫でてくれる彼の手が気持ちいい。
「次回作出たら観に行く?」
と問えば、
「一緒にか? 何年も先だろ」
と肩をすくめる奏斗。
「いいじゃない」
「いいけど……さ」
それまで友達でいられるかな、と彼。
「何、どういう意味?」
「そのままの意味」
花穂は立ち上がるとローテーブルにワイングラスを置き、奏斗の隣に身を沈める。そんな花穂の様子を見ていた彼は花穂が隣に収まると、髪をサラリと撫で首筋に指を滑らせた。
火照った身体を滑るその滑らかな感触が心地いい。
「奏斗」
彼の腕に手をかければ、口づけされる。花穂は目を閉じた。
「今日はしないよ。酔ってるし」
「ん……」
そういえば飲んだら立たないって言っていたわねとぼんやり思いながら、彼の太ももに手を伸ばす。
際どいところを撫でれば、
「いたずらはダメ」
と耳元で優しく咎められる。
「うふふ」
耳に息がかかるのがくすぐったくて、声が漏れた。
「酔ってる時の花穂は素直で可愛い」
と彼。
優しい視線を向けられ、その胸に額を寄せる。
「わたしはいつも素直よ」
「そ?」
素直と正直はきっとイコールにはならない。
酔っていることに甘えて言えることもきっとある。
「こういうのも聴くんだな」
部屋に流れる甘く優しい旋律。
「メタルばかりじゃないわ、聴くのは」
「ふうん?」
一緒にいた時は確かにメタルばかりだった気もする。
「夜にテンションアゲアゲの曲を聴いていたら眠れないでしょう?」
「まあ、そうだな」
こんなにベタベタしていても自分の気持ちに気づいてくれない彼。こんなことはよくあることなのかと思うと、少し辛くなる。
一時期遊び歩いていたというような話は聞く。その時も女性たちとこんな風に過ごしたのだろうか?
「ねえ、奏斗」
お酒の入っている今なら聞ける気がする。
「ん?」
「高校の時、元カノと別れてから”遊んでいた”って言っていたじゃない?」
「あー、うん」
何を今更、という声音。
「やっぱり、女友達とかいたの?」
花穂の言葉にすごく驚いた表情をしたのち、意地悪そうに笑みを浮かべる奏斗。
何を言われるのかと思い怪訝そうに首を傾げれば、
「ヤキモチ?」
と彼。
「うん。そうよ」
花穂は大胆にも肯定して見せる。
「え? はあ?!」
予想していなかったのだろう。花穂の返答に真っ赤になる奏斗。
花穂は”何だ、この人”というように眉を寄せた。
──聞いておいてその反応は何?!
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