響け!

大和滝

かき鳴らせ!私の音を

響けよ! say!

壊せよ! hey!

それがあなたの生きる道だから♪

届けよ! voice!

この歌が! yeah!

空へ届くまで、歌い続けよーーーー…

ジャジャジャジャジャジャジャジャ ジャン!

「フォーーーー!」

「最高だぜーーーーー!」

「みんなありがとー!今日も楽しく歌えたよ!また次のライブでね!Riversのみんなも楽しかったよ!ワタル、ドラムめっちゃ熱いね!またやろう!じゃあね!」

 先ほどまで自分の歌と演奏で会場の熱気を作り出していたこの女性は全く息を切らすことなく、マイクに言葉をスラスラと流し込み、サッとステージからはけた。


 控え室に戻った彼女はすぐにバックから水のペットボトルを取り出してグビグビ飲みだした。すると、背のやや高く痩せていてちょび髭を生やした男がスタスタと近寄り話しかけた。

「お疲れ様だよMEI。今日もいい声だったねぇ」

「店長、ありがとうございます。今何時ですか?」

「今は9時10分だよ。もう帰るのかい?」

 店長と呼ばれた男は腕時計を見ながら問いかけた。彼女はバッグを肩にかけて、空のペットボトルを捨てるなどの身支度をしたがら答えた。

「はい。もう遅いので帰らせてもらいます。あ、Riversの皆さんに伝言良いですか?」

「もちろん」

「今日は楽しかったです。また是非一緒に演奏させてください。ってお願いします。お先に失礼します」

 彼女はそう言い残してライブハウスの裏口から出ていった。

 ライブハウスを後にした彼女は夜のはずなのにギラギラとしている道を堂々と歩く。後ろに背負ったギターケースが重いのか度々止まって肩を回しながら歩いていた。

 いつのまにかギラギラとした街を抜けて普通の街灯が立つ道に抜けていた。

「ただいまー」

「お帰りなさい。めい、今日はどことコラボしてきたの?」

「今日はRiversってインストバンドとやってきたよ」

 命はギターケースをソファの上に置きその隣に座った。彼女の母親はキッチンから紅茶の入ったマグカップを2つ持ってきて、片方をそっと命の前に置いた。

「で?どうだったの?」

 命は湯気の立つ黄金色の紅茶を一口飲んで落ち着いてから話した。

「別に悪くはなかったんだけどね、ただドラムが飛び抜けて上手って感じ。ギターとベースとの熱量の差が問題ってところかな。まあ、ドラムが上手くてテンポは安定していたから歌いやすかったってのは良いことね」

「あら、ベースは微妙だったのにドラムとは合っていたの?」

「なんていうか、あのベースは主張弱すぎているのかもわかんなかったからちょっと…なんとも思わなかった」

 微笑しながら紅茶をすする命に対して向かいに座っている母親は声を出して笑っていた。

「そんな酷いベースだったの?私が現役だった頃はベースが弱いなんてことなかったもの」

「あの人はだって上手すぎだもん。あの人と比べられるなんてかわいそー」

「それもそうね」と笑う母親に同調して笑いながら命は紅茶の飲み終えたマグカップをキッチンに置いてから2階の自分の部屋に向かった。

 部屋に入った命はバッグは壁にかけて、ギターケースは床に置いてからベッドに横になった。そしてスマホをポケットから取り出して新着メッセージを確認した。

「あ、聖良せいらからだ」

『今日は確かRiversとだよね!ギターの人カッコいいよね。感想待ってるね』

 命は微笑とため息を漏らしながら画面を打って返信した。

『聖良はいっつもソレだね笑。私のタイプとはかけ離れてるから。演奏もまあまあって感じ』

 スマホを充電器に繋げてテーブルの上に置いて、天井を見上げた。

「面白くないな〜。私のギター、響かない。なんで〜?」

 ぽろっと口に出してしまったのを恥ずかしく思い命は枕に顔を埋めた。するとテーブルを通じて振動音が聴こえてきた。命は腕を伸ばしてスマホをとった。

 聖良からのメッセージだった。

『それってさ、Riversがまあまあなんじゃなくって、命のレベルが高すぎるだけじゃないの?だって命、ギター上手いし歌もヤバいし、それにあの街で音楽やり始めてもうそろそろ4年でしょ?そりゃRiversなんて1年生なんてレベル差がありすぎるでしょ』

 命は険しい表情で唸りながら返信した。

『確かにそれも一理あるかもしれないけど、それはどうしようもないじゃん。レベルを合わせろっていうわけ?ただでさえ最近なんだか物足りないのに、自分のレベルをさげるなんてことしたら熱が冷めちゃうよ』

『なるほどね。絶賛倦怠期中ってか。だったら尚更新しい刺激を求めないとね』

 自分にとってタイムリーな話題になったため寝転がっていた命はガバッと起き上がって食い気味に文字を打ち始める。

『そうなんだけど、その新しい刺激って一体なんなのさ!』

『いいね乗り気じゃん。まあロック的な刺激と言えばズバリ、すっごいイベントに出るとか見ることだね』

『すっごいイベントねぇ…最近そんな突飛したイベント開催されないんだよね。無理そう』

『なら、やったことのないことをやってみるんだよ。例えば、ソロとか』

『ソロ!?私やったことないよ』

『だから言ってんじゃん笑。やったことないことをやってみなって。多分だけどそれが良いよ。あ、曲はもちろん自作ね。親友の私も手伝うからさ〜。おやすみー』

 半ば強引に事を進める聖良からおやすみのスタンプが送られてきて、命は呆気にとられた。

「急すぎでしょ…」

 命は言葉を漏らして目を静かにとざした。


 翌日、命は授業が終わった後ギターケースを背負って音楽スタジオに足を運んだ。部屋の扉を開けるとPCやら五線譜を散らばしてキーボードを弾いているツインテールの女性が命の方をジッとみた。

「聖良久しぶり〜」

 軽く言葉をかけてから本題を言おうとすると、聖良は右手で待てと指示した。

 命はそれに従ってケースからギターを出して、慣れた手つきでアンプに繋いだ。

「うん。オッケー!ごめんごめんいい感じのメロ思いついたから集中してたんだ。で、ここにきたってことはやるんだね?ソロ、自作」

 微笑んでいる口もとに対して真剣な眼差しは命の決意をより固くして命の言葉に実現性を込めた。

「うん。やるよ」

「よーし、そうと決まったら神曲作っちゃお!命の事だからどんな曲がいいとか、歌詞とか割と固めてきたんでしょ?聞かせてみなよ私に〜。音楽理論とか勉強してる私に任せなさい!」

「え、歌詞?なんも考えてないよ?」

 ドシンと構えていた聖良はコメディのように崩れ落ちた。

「まあ…いいわ。想定内よ。作詞は難しいものね。じゃあどんな曲がいいのか教えてくれる?歌詞はこれから考えていこう」

「そりゃ、ブチテンション上がるカッケェ曲!」

「おぉアバウト…」

 聖良は左右の眉を近づけて困った顔をした。と思ったらクワッと目を見開いた。

「ガキか!素人しろうとか!どんな曲聴かせてもどうせしっかり聞かないで感想は決まって凄かったっていうクソ野郎くらい厄介だぞ!」

「いや…ごめん。でも本当に私そういうテンションがブチ上がって、私もみんなも心が震える曲をやりたいんだ。聖良、お願い。手伝って」

「はぁーー。もーー命は…仕方がないな!」

 そう言い吹っ切れたように聖良はカバンをゴソゴソ漁って、ルーズリーフを2枚とシャープペンシルを出して命にわたした。

「今からこれに使いたい歌詞とかリズムとか書いて。全部じゃなくて、単語とかフレーズだけでいいから。で、リズムは書くときに絶対口ずさみながら書いて!私それ拾いながら作業するから」

「あ、うん。ありがとう」

 聖良はパソコンをいじり出したりキーボードを鳴らし始める。

 命も渡されたルーズリーフに思いつく限りの歌詞を書き殴っていった。

 両者楽器を鳴らしたり、独り言を言ったりと自分の世界に入って作業を進めていると、ふと聖良が声をあげた。

「そういや、ソロって言ってるけどさ、演奏の方はどうすんの?」

「え?」

「あーいや、ほら、マジでギター1本で弾き語りするのか、バックで他の音は流すのかって話。後者の場合ならこっちでベースにドラムに、効果音もつけれるけど…、どうする?」

 命はペンを止めて少し悩み始めたが、それは意外にも長くなく、すぐ決心がついた。

「前者の方でお願い」

「え、マジ?ギター1本は熱いっちゃ熱いけど、ハコ沸かすには結構大変だよ?」

「わかってるよ。だけどそれを乗り越えるのがってもんでしょ」

 何食わぬ顔で放ったセリフに聖良は感心を込めた笑いを見せた。

「さすがだね。私もその決意にピッタシな曲やんないとね。ちなみにいつ披露する予定さ」

「来月の3日の日。Meteoで」

「あ〜、確かにあそこなら結構人も集まるし、ノリ良いの多いから新曲にはもってこいだね。しっかしあと3週間か…。しばし寝れそうにはないね。エフェクター何持ってる?」

「色々あるよ、ひずませるやつはもうほぼコンプしてるし、最近空間系も試しに買った。それにMeteoだったら結構揃ってる」

「だね。じゃあいい感じにいけそ。バンバンフレーズよろしく」

「オッケー」

 その後も2人は互いに案を出し合ったり、ギターでフレーズを弾いてみたりしていて、あっという間に外は暗くなっていた。

「あれ、もう9時じゃん。やば、電車無くなる。聖良!私帰るわ」

「りょーかい。じゃあまた明日ね」

「じゃあね!」

 バタバタとギターの片付けと、2枚のはずだったがいつの間にか6枚になっていた言葉や音符の書いた紙をまとめて部屋の扉を開けて出ていった。


 ギリギリ乗れた電車の中は疲れている男性2人組が座っているだけであとは誰もいなかった。ガタガタと揺れながら命は曲のことしか頭になく、自分の書いた歌詞に入れたい言葉を見返していた。

「燃えろ…響け…かき鳴らせ。なんでだろうな、さっきまでは熱い言葉だったのに、今見返すとすごく薄っぺらい。なんで?」

 命はただただ不思議だった。スタジオで書いていた時は命自信の心を震わせていたフレーズが、電車の中ではただの黒い文字にしか見えないのだから。

 命はそれについて家に帰ってもずっと考えていた。

 結局原因はわからないまま11時をすぎた。命は気分転換のために動画を見ることにした。

「え、このバンド新曲出したんだ。聴いてみよ」

 再生ボタンを押すと短調なピアノの音色が流れてきた。そしてギターをもった男が静かな声で歌い出した。

「この人、こんな歌も歌えるんだ。静かで寂しい曲…。あれ、なんでだろ。今まではこんな曲はつまらないって感じてたのに、今はすごく吸い込まれる。でも、こういう曲をライブハウスでやったって盛り上がりは弱い…。もしかして」

 何かを思いついた命は、慌ただしくギターを出して構え、ピックを取りコードを鳴らした。一回だけじゃなく何度も何度も、コードを変えたり、メロディをつけてみたりと1人で試行錯誤をした。

 そういうことか…と呟きながら命はギターをひたすら鳴らして、たまにノートにフレーズなどを書き留め続けて、気づけば時計は4時を指していた。ハッとした命はさすがに焦ってギターをしまってベッドに入る。普通ならコロリと眠るはずなのに、命はなかなか眠れない様子だった。命の頭の中では自分の曲がずっと流れていた。


 次の日、命は大急ぎで昨日と同じスタジオに入り聖良にノートを見せ、考えたフレーズも弾いて歌ってみせた。

「驚いた。命がこんな歌詞に曲調を書いてくるなんて。どした?なんかあった?」

 聖良が聞くと命は鼻を高くして、誇ったように言い出した。

「私気づいちゃったんだよ」

「何に?」

「私が普段ギターをかき鳴らしてライブをしているようなストリート街ではハイテンションなイケイケな曲が似合うけど、そこから一歩出た静かな夜の道ではそんな音楽は浮くんだ」

「うんうん」

「つまり、音楽ってのは時と場所によって似合う曲が変わるんだよ!」

 ドヤっと威張る命をみて聖良は何かを考えている。

「ちょっと待って?えっと…、それって割と当たり前のことじゃない?」

「あっれー?そうなの!?」

 ついさっきまでのドヤ顔がグシャっと潰れてポカーンとした顔に早変わりした。

「うん。そりゃ音楽にもストーリーとかがあるんだからなんでもかんでもガンガン系じゃ…ねえ?」

「私史上1番の発見だったんだけどなー」

「可哀想に。あのロックすぎる母親の教育のせいね。でも正直歌詞と音はいいと思うよ。あとはその静けさからさ、命のお得意のテンションに持っていけば、十分ハコは沸くよ」

「本当に!!?」

「うん。保証する」

 ここからの作業はとんとん拍子に進んだ。聖良によるギターの譜面起こし、歌詞の作成、展開の設定。命の初曲は1週間で出来上がった。

「よし。これでいい感じ。あとは命、あんたの腕の見せ所だよ。あと2週間で仕上げればガチでこの曲は熱狂を作り上げれる。頑張れ!」

「聖良、マジでありがとうね。私、やれるよ」

 命はその次の日から猛練習を始めた。ギターのみのソロ曲という訳で難易度はとても高く、今までライブでやってきていた曲で使っていた技術では到底及ばないようなものだった。

 しかし命は諦めずに90分の授業以外の時間はほとんど練習に注ぎ込む勢いでギターを鳴らし続けていた。

「クッソ…また間違えた」


「指が全然追いついてない!」


「高音掠れてる…。まだイケるよね私の喉!」


 命は何があっても自分を追い込み続けた。しかしそれを命は辛いとは思わなかった。

 むしろ『楽しい』と感じていた。

「よし、明日が本番。ここまで詰めてきた。絶対イケる!すっごい楽しい!」


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