気づいてしまったこと
翌朝、私とアルはロンに改めて火を放たれるような心当たりがないかを聞こうとしていた。
「ロンは心当たりがないと言っているけど、ここまで来ると本人が自覚していないだけで何かあるのかもしれない」
アルは今回の件に関するわかる限りの情報を再度整理しながら私に言った。
「そうよね。だからこそ今からいろんなことを聞くんでしょ?」
「そうだとも」
少ししてから私はロンをこの部屋に入れた。私とアルはロンと向かいあうように座る。
「これから何をするのですか?」
椅子に腰掛けたロンが少し不安げに聞いてきた。
「ロン。これから色んなことを、事件とは関係のないことも含めて聞くけど良いかな?」
「もちろんです」
「じゃあ、始めるよ」
そこから私たちは彼に関するありとあらゆることを質問してみた。いつから科学を好きになったのか、家に揃えていた実験用具や本はどうやって揃えたのか、友達はいるのか、好きな人はいるのか、市場の人たちはどういう関係を築いているのか。事件解決の糸口になれば何でも聞こうというつもりで聞いた。すると、彼は素直にそれらの質問に答えてくれた。
ロンに色々なことを聞いてみて、やはり彼はいい人なのだと思った。近くに住んでいたお婆さんが腰を痛めた時は荷物を持ってあげたり腰に効く塗り薬を用意したというし、友達が困っている時は自分が持っている知識を使って解決してあげようとしたという。好きな相手もいるそうだった。
だけど、話を聞く中で彼は一回だけ悲しげな顔を浮かべた。
「実は仲違いした友達が一人いるんです」
「と、言うと」
「彼はケビンといって、科学が大好きでした。だから僕とは馬が合ったんです。だけど、だけど……」
彼はそこで拳を強く握り締めた。
「彼は悪い連中と連むようになってしまった。だから僕は彼を止めようと説得したんです。そしたら、うるせえ、お前なんか大嫌いだと言われちゃって」
彼は今にも泣きそうだった。それから何かに気づいたような顔をしていた。
「それきり、彼を見たことはありません。今、彼はどうしてるんだろう……」
私は彼が何かに気づいて、それを隠したように見えた。だからこそ、彼がどんなに嫌がろうと今ここで聞くべきだと思った。
「あのさ、今ケビンのことで何かに気づいたでしょ」
「そ、そんなことないですよ」
ロンがしどろもどろになる。ごめんロン。だけど、私が思いつく限りこの事件は……
「ロン、もしかしてだけど、ケビンという子は弓が得意なのではないか?」
アルが率直に聞いた。その途端、ロンは泣きながら頷いた。
「ケビン、ああ、何で、どうして……」
少しの間、私たちの間に沈黙が流れた。
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