科学っ子の来訪

 城に帰るとクロースさんをはじめとした使用人のみんなから心配されてしまった。

「どこに行っていたのですか!」

「ごめんなさい! 市場に行っていました! 楽しそうだったものでつい……」

「次に外に出るときは一言言ってください!」

 そう怒られてしまって私は少ししょんぼりしていると、アルが公務から帰ってきた。

「戻ったよ、みんな。あれ、なんか空気が……」

 クロースさんたちはアルに事の全容を説明した。

「なるほどね。次からは気をつけてください、エリ」

 アルからも少しきつめに言われてしまった。さらにしょんぼりしてしまう。まあ、自業自得なのだけど。

「わかった……」

 ここで私は急にロンのことを考えた。彼のあのなんとも言えない表情はなんだったのだろうか。

「ねえ、アル。後で聞いてほしいことがあるの」

「何かな?」


 アルと私は食堂に移動した。時間は既に夜だったので、夕食を食べる。この生活になって二ヶ月が経つが、基本的に夕食の時は二人きりだった。夕食を少しずつ食べながら私はアルにロンのことを説明することにした。

「実は、さっき市場に行った時にある男の子と会ったの」

「それはどんな男の子?」

「ロンっていう名前でね。科学的なことにとても詳しい子だった。それこそ、その場にある材料でお薬を作れるくらいの」

「なるほど。それは将来有望そうだね」

「それでさ、彼のことでちょっと気になることがあって」

「というと」

「困ったらお城まで来てね、ってなんとなく言っちゃったのだけど、そしたら本当に困り事を抱えていそうな表情しててさ。彼と別れた時にその表情がどうも気になってね。もしかしたら気のせいかもしれないけど、彼は何か困り事があるんじゃないかな。それが何かはわからないけど」


 すると、アルは食事をする手を止めた。どうやら彼のスイッチが入ったらしい。

「うん。それ、あなたの読みは正しいかも。僕だって同じ表情を見たら何かあるなって思うし」

「だよね」

「ただ、確証がないから聞けなかったんでしょ」

「そうそう。でも、あの顔を見たら放っては置けなくてね……」

「どうしたらいいのか難しそうだね……」

 あれこれ二人で考えていると、クロースさんが食堂に入ってきた。

「どうした、クロース」

「実は正門の前で、入れてくれと言っている十代くらいの少年がいまして。どういたしましょうか?」

 それを聞いて私とアルはピンと来た。

「正門前にいるのだな」

「はい」


 私とアルは急いで正門前に向かった。すると、やはりロンが立っていた。だが、昼間に見た時と違うのは彼の衣服がぼろぼろだということだ。

「ロン! どうしたの!」

「彼がロン?」

 私がアルに返事をしようとした時、

「僕の家が燃えてしまったんだ! 助けて!」

 とロンが叫んだ。

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