第2話 スタジオ

 「こんにちは」

 スタジオに響く店長の声。どの芸能人より声がでかい。なんかとんとん拍子に話が進んでしまい、本当にテレビ出演することになったレイコさん。オファーを受けたのはレイコさんだけなのに、なぜか店長が自分をアピールしまくって、なんやかんやでバーターとして出演することに成功してしまった。で、私はなんでいるかというと、なんやかんでレイコさんのマネージャーということになってしまい、今日も同行しているというわけ。

 共演者には霊が見えることで有名な芸人さん、幽霊なんかいないと主張する科学者、スピリチュアル大好きなタレントさん。あの日来ていた関西弁の元モデルもいる。あと、霊を信じない派の毒舌系の古参芸人。

 毒舌なタレントというのはなぜか人気がある。こういう番組には絶対に必要だ。本来ヒール役のはずなのに、人々に指示されるのはなぜだろう。多分、いつも我慢していることを代わりに言ってくれているようで気持ちがいいのだろう。それに、強いものが生き残る理の世界で、毒舌は強い物のシンボルともなり、憧れる人も多いのかもしれない。


 番組の趣旨は、娘が引きこもりで不登校で悩んでいるという、一般募集で来た主婦と、去年亡くなった愛犬が今どうしているか知りたいというアイドル、そして霊も占いも信じないという古参の芸人をレイコさんが霊視するというもの。

 そしてまず、家で何も話してくれないという娘さんの心の中を霊視で探り出し、亡くなったご主人からの言葉で解決策を見出した。霊視の後、相談者の顔色が明るくなるのを見て、私も嬉しくなった。

 引きこもりって止まっているように見えて、内面はすごく活動しているんだ。引きこもること自体が行動なんだ、とレイコさんの霊視を聞きながら感じていた。

 愛犬が心配だというアイドルは、レイコさんが会ったことがないはずの愛犬の犬種や性格を言い当てたのに驚き、亡くなる前の行動に感謝していることと、今は幸せだから大丈夫、彼女自身が幸せになってほしいというメッセージをを受け取り、涙を流していた。

 そして、最後が曲者の霊も占いもスピリチュアルも大嫌いだという古参芸人だが、レイコさんは、彼が子どもの頃に母親が占いや宗教に盲信して家庭が崩壊したのが、彼が霊能者や占い師を大嫌いになった原因だということを指摘した。

 少しはっとした彼だったが、取材でも過去に喋ったことがあるし、調べればわかることだと反論した。

  確かに、レイコさんのような霊能者はいわれのない誹謗中傷に会うことがあるけど、確かめようのないことだけに、それを悪用する人も多く、それで甚大な被害を受けた人にとっては永遠の憎しみの対象となるのも合点がいく。


 かくいう私も、かつて母が新興宗教に洗脳しかかり、家の貯金をつぎ込んだり、怪しい占い師から当時小学生だった私にも分かるような安っぽい壺にパート代のほとんどをつぎ込んだり、病気が治せるという能力者に傾倒して、私がストーブの上のやかんのお湯を過ってかけてしまい、大泣きしている時によくわからない真言みたいのを唱えて病院に行こうとしなかったという経験がある。さすがに、その時は父が怒りまくって病院へ連れて行ってくれたけど。

 で、その時両親が離婚しかけたんだけど、直後に兄が交通事故に遭い、こんなに信心しているのにどういうことだと、入れ込んでいた“先生”たちに怒鳴りこんで、今まで出したお金を返せとまくしたてたり、書類を送りつけたりしてた。最初は皆、まだ信心が足りないとか、これが学びですとか言ったらしいけど、母の迫力に負けて今まで払ったお金は返ってきて、兄も無事回復。それで母のオカルトブームは終わった。

 そんな私が、今、こうして霊能者のレイコさんや占い師の里美先生たちと懇意にして占い師を目指しているのには、ある人との出会いがあったからなのだけど、それはまた後程。


 そこで、店長がしゃしゃり出てきて、守護霊様からのメッセージを伝えはじめた。

「貴方が今まで、霊能者や占いを信じなかったのは間違いじゃない。自分で自分の人生をしっかり創造しようという魂の修行だったんだよ。でも、これからは少し先祖や神に頼ってもいいんだよ」

それが、守護霊様から彼へのメッセージだった。

 ちょっと考え込むように首を傾げていた古参芸人が、最後にこうしめくくった。

「私は、霊能者や占いは信じません。信じませんけれど、今まで頼るってことをしてこなかった。これからは頼ってもいいなって思えた。感謝して頼るっていいかもしんないなって思いましたね」


 そう、占いも霊からのメッセージも、信じるよりそれを使って幸せになることが大切なんだと思う。盲信じゃなくて、信心、信心は自分の心の声を信じること。当たっているとか当たっていないとかより、何が自分にとって幸せかが大事なんだと、自分の中で確信した。


 番組の最後に、有名な科学者が、霊能力者の能力は否定しないが、霊が見える能力は実は想像力だという研究結果があるという、学術論文を織り込んだ解説をして締めくくった。


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