素敵な霊能者たち

一郎丸ゆう子

第1話 霊能者が集う喫茶店

うん!? レイコさんが私の頭の上のほうを見て、ストップモーションになってる。こ、これは。キタ、キタ、キター。レイコさんのアポなしリーディング。レイコさんはめっちゃ優秀な霊能者、ほんとにほんとに見えている。・・・なんだけど。

 普段は、予約のお客様の霊視リーディングをしているレイコさん。亡くなった方とコンタクトを取るのが得意です。なんだけど、時々なんか周波数が合ってしまう人がいるらしく、頼まれてもいないのに突然リーディングを始めることがある。

 こういう時のレイコさんは、魂がどこか遠くに行っているらしく、タイミングは霊次第、相手も選ばない。見えたら見えたまま相手に伝えてしまう。レイコさんは、自分では止められない、お互いの魂が求めてるからフィットしているんだって言うんだけど、それを直に受け止めてくれない方もたまにいるので、私がフォロー係になるわけで、これが来ると私の神経が振動するというわけ。


 ~レイコさん霊視中~


 あっ、店長登場。店長の紹介をすると、なぜレイコさんがこの店で働いているかが分かる。ということで、まず店長紹介。

「いらっしゃいませー」

 うっ、声量やばっ! 若い時俳優を目指したことがある彼はめちゃくちゃ声がでかい。よく通るその声がこの小さな喫茶店ではちょっとした騒音である。とはいえ、彼のこの声が聞きたくて来店する客も多い。そして、彼もレイコさん同様、見える人なのです。彼の得意技は守護霊様を見ることとオーラを見ること。

「アキちゃん、今日はオーラが澄んでるね」

 これがいつもの彼の挨拶。私の名前は明子、明るい子と書いてアキコ。


 今日は月曜日、九星気学の里美先生がいらっしゃる日。実はこの喫茶店、占い師や霊能者たちが日替わりでリーディングしている。中でも里美先生は、人気の占い師。実は私も占い師見習い中。まだ見習いなので無料で希望者にリーディングして、勉強させてもらってるんだ。今日も里美先生目当てに、開始前からもう十人のお客様が待機中。早い人は一時間前から来ている。

「なんか、待ちきれなくて。落ち着かないから来ちゃった」

といって珈琲とケーキを嗜みながら待っている。

 その後ろで、一人常連の中年男性がしっぽりと珈琲を飲んでいる。この店の珈琲は本当はとっても美味しいんだけど、正直な話この店に珈琲を目当てに来るのは、この男だけなのだ。

 「こんにちは」

 里美先生登場。透き通るような知的な声。喫茶店にはいろんな人が来るからいろんな念が残ってて、良くないものもあるのだけど、この声が店の中の邪気を浄化してくれる気がする。

 最後のお客様に里美先生がアドバイス。

「完璧主義者の六白金星さんは、今週は今までの心の垢を落とすことが必要です。ゆっくりとと温泉に入ったり、自然に触れたりすると吉です」


 「そのくらいのアドバイスなら僕でもできます」

 珈琲を飲み終えて席を立った男が、里美先生の席の横を通りながら言った。

 はっ、なんだ、この男。正直今のアドバイスは、誰にでも当てはまるような誰にでも出来るアドバイスかもしれない。でも、それが必要だから、それを求めて来ている人がいるんだ。なのにそこに水を差して誰になんの得があんの?

 「なんですか、あなた?」

 私は食いぎみに彼に向かっていった。

 「僕は、占いや霊視で人からお金をもらう人はみんな詐欺師だと思っています。それにお金を払う人もみんな馬鹿です」

 !?!?!?!?!?こいつ!?!?!?

「あのね、占いで大切なのは当てることじゃないの。悩んでる人の心を軽くしてあげることや癒してあげること。幸せになるお手伝いをしているの。そんなに占い嫌いならなんでこの店にいつも来てるの?」

「えっ、珈琲飲むためですけど。ここ喫茶店ですよね」

 うっ、正論。この店が喫茶店だって忘れてた。


 「まあ、まあ、ここはジャッジしない場所です。信じる人も信じない人も一緒に同じ時間を楽しみましょう」

「わあ!、サリーさん、いつ来たんですか」

 のけぞって、後ろにこけそうになる私。

「さっきからずっと、あなたの後ろにいましたよ」

 腹立つくらい冷静な珈琲男が言った。

「サリーさん、気配消して来るのやめてもらえます?」

 彼は気を操れる人、気功師のサリーさん。彼のそばにいるだけで、なんか心と体が癒されていく実感がある。里美先生も癒し系だけど、里美先生は清流のような清らかさ、サリーさんは森の木のようなやさしさ。

 ちなみに、店の2階にサロンがあり、予約制で彼の気功マッサージが受けられて、大人気。


 「じゃあ、僕はこれで」

 えっ、なんなの? 言わなくてもいいことをわざわざ言って人を不快にさせたと思ったら、悪びれず去るっていうの?

 「また、どうぞ」

 店長のでかい声と共に、男は店を去った。私はまだモヤモヤしていたけど、大人な皆さんは何ごともなかったようにしている。

 後で聞いたんだけど、彼は有名なカウンセラーだそうで、新興宗教などで詐欺にあった人の相談にも乗っているんだとか。


 その後、なんか撮影終わりの業界人って感じの人が数人入ってきた。普段はほとんど常連さんばっかりなんで、こういうの新鮮でワクワクする。よく見たら真ん中のタレントらしい女性見たことある。背が高くて彫りが深くて、姿勢がよくて、めっちゃおしゃれ。そうだ、元パリコレモデルのあの人だ。

 カウンターにある占い師や霊能者たちのスケジュールを見て、なんか興奮してる彼女。

「なになに、ここ占いとかやるん? うち大好きやねん」

 わっ、こてこての関西弁。

「よかったら、守護霊様とお話も出来ますよ」

 出た!店長のミーハー病。芸能人とか、メディアとか、大好きなんだよねえ。

「えー、ほんま。うちそういうのめっちゃ興味あるねん。やるやる」

 うーん、日本人にはなかなかいないテンションのお二人。なんか気が合いそう。

 とかやっていたら、なんかいかついスーツ姿の男性が入ってきた。

「私、こういうものです」

 彼が差し出す名刺を見て、大阪弁の元モデルが立ち上がって叫んだ。

「ひゃっ、新門社長」

「新しい門と書いて、に・い・とと読みます。よろくどうぞ」

 3年前までニートだった新門です。といういらないギャグとともに名刺をくれた。ニューゲートという芸能プロダクションの社長で、異例の若さとスピードで起業して成功した業界の風雲児という、どうやら業界では相当有名人だと、彼が帰った後、元モデルが説明してくれた。

「こちらの評判を聞いてきました。面白い霊能者の方がたくさんいらっしゃるとか」

「そうなんですよ。めっちゃ面白い人たちなんです」

 と元モデル。いや、あなた初めて来たんでしょ。なんか、もうここの一員みたいになってる。

「今度うちの会社に、スピリチュアル部門を設けようと思ってるんです」

 はあ、芸能事務所にスピリチュアル部門? 確かに芸人さんでも占いやってる人とか、霊が見える人いるし、美人の占い師さんがテレビで活躍してるし、あってもいいよね。

「ここに、美人ですごくあたる霊能者の方がいると聞きましてね」

 レイコさんのこと?

「はいはい、いますよー。レイコちゃん、ちょっとー」

 小さな店には必要ない大きな声で店長が叫んだ。

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