第18話 違う世界
携帯が鳴った、カズオーナーからだった。
「今日一緒に飲みに行かんか?」 と言うので居酒屋へ行った。酒を飲みながらオーナーが、
「今度麻雀大会があるんだ、半年ぶりに」
というので、 「どこの店でやるんですか」 とユウキが聞くと、
「うちのチェーン店ではしない、額が少しばかり大きいのでな」中華料理店ヘ麻雀卓を運び入れそこでやると言った。
「ちょっと変わってるんですね」
「人数も20名限定だ」
「5卓ですね」
「財界や政界の大物ばかりだ、今回はアウトローの人間は入れない」
「普通の麻雀ですか?」
「いやちょっと違う、ポンリーと呼ばれる特殊な麻雀だ」 ユウキは“はっ“と思った。浅田氏が以前言っていた麻雀だ。おじさんが主催者だったのかと驚いた。中には100億円もの資産があり、それを残したままあの世へ逝くのを惜しんでいる老人も、何人かいるとの事だった。
「1億、2億負けた位ではなんとも思わない人ばかりさ、お前もそこへ来るんだ、皆んなに紹介する、言わば顔つなぎだ」 政界財界と言っても実際は老人。数時間前に来ては中華料理を楽しみ、身内や友人の事を話したり、中には結構シークレットな話題も出たりする。老人達の話の内容は興味深いものもあった。どこのルートに新幹線が通るとか、法律の改正の話など初めて耳にする事ばかりだった。中にはテレビで見た事のある人物もいた。400万円の打ち込みをしても笑っている。ここでは⑤⑩⑳のほかに百と印字された特別チップも用意されていた。それをやり取りしているんだ、老人と言えど全ての人物が身なりも良く顔も引き締まっていた。こんな世界も在るんだとユウキは初めて知った。
6時間が経過しゲームが終了した。 1800万円と封のされていない1万円札が一人の老人のカバンに入れられようとしていた時、
「今日初めて勝たせてもらったよ、君が福の神だったかな」 と言ってユウキにそのばら札を貰ってくれと言い出した。ユウキはどうしたもんかと迷っていると、
「貰っておきなさい、しっかりお礼を言って」 とカズオーナーが言うもんだからユウキはそれに従った。手の切れそうな札を纏(まと)めて二つ折りにし、左胸のポケットに仕舞い込んだ。いつもやっている行動だがこれは全て1万円札だった。左胸のポケットがパンパンになっていたから50万円、いやそれ以上をあっただろう。老人達にしてみれば、お金なんて、もうどうでも良かった。欲しい物は全て満ちている。若い頃のお金持ちになって行く過程が嬉しかったのだ。今となっては虚しささえ滲む。起きて半畳寝て一畳、その言葉が身に沁みて毎日を過ごしていた。
「彼等は一度出したお金は二度と引っ込めないんだ、縁起が悪いと言ってな」とカズオーナーが教えてくれた。半年から1年に一度開かれると言うこの麻雀はもう、10年程続いてると云う事だった。彼等はたまにこういう事をしないと呆けるんだとも言っていた。
「街のレートじゃなんの刺激にもならんからな」 とオーナーはいう。今まで縁の無かった世界が急に開かれて行くようで、わくわくしてお落ち着かなかった。中華料理店の店主に100万円を払い、スタッフの手当て、飲食、その他の雑費を払って、半端な札をそこに従事している従業員に分け与え、2000万円をゲーム代として残した。カズオーナーは、仕事初めの記念といってユウキに1000万円を渡す約束をしたのだった。
「あの製薬会社の株にこの2000万円を、投資するんだ」 とオーナーが言ってきた。1か月前に証券会社の口座を開いておくようにユウキは言われていた。一人の老人が、ある製薬会社の新薬の事を話しており、もうすぐ承認されるらしい。その製薬会社の株は間もなく承認され、株価は1か月後には2倍になり、3か月後には、4倍になった。あの夜の出来事でユウキには4000万円という大金が手元に転がり込んだ。株を全て売り払い、次の投資の機会を待っていた。
「世の中には色んな所にお金が落ちているモンだな」 とユウキは思うのだった。そのチャンスを自分の物にするか、しないかで人生は大きく変わる。そのチャンスを活かし役立てるのも努力なのだと思った。今まで生きて来た人生に中で、あの時、こうしていればよかった、なんて事はしばしばあった。そのワンチャンスの連続をモノにして渡り歩いてきた人が、成功者と世の中で認められる人達なんだと、ユウキは改めて確信した。
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