農家と聖女は世界を救わない。

綿木絹

第1話 職業決め

「おい。ツッチー。俺たちも行こうぜ。」

「ついに私たちも一攫千金、ゴールドラッシュに乗るんだからね!」


 この二人は子供のころからの腐れ縁、ガチロとマイネ。

 近所に住んでる今年十七歳になる幼馴染、因みに俺も同い年だ。


「俺達無課金勢だろ?そうそうレア職業は当たんねぇよ。」

「そんなの、引いてみないと分からないでしょ?デズモンド君、一等当たったみたいよ?」

「そうそう。盾使いらしいぜ!」

「いや、それのどこが。一等って英雄とか魔法剣士とか賢者じゃん。」


 いや、彼女達の言っている方が正しい。


「バーカ。それは課金勢の当たりだろうが。ツッチーはそんなことも知らないんですかー?お、噂をすればモンドだぜー。」

「あんだよ、ガチモン!お前ら、俺の一個下だろー。職業も決まってねぇくせに偉そうにあだ名で呼ぶなよ。……まぁ、いい。君らも冒険者ギルドに入るんだったよな?適当に余ってるやつを見つけてやってもいいぞ?」

「おい!モンド!お前の盾を見に行くんだろう、何をやってるんだ。」

「そよー、アメリア様が買ってくださるんだから、さっさと行きなさい!」


 デズモンドは先を歩く旅の同行者二人に怒られて、六人一組のパーティに戻っていった。


「あんだよ、あいつ。鼻の下伸ばしやがって。」

「そういうガチロンも鼻の下伸びてなーい?アメリアさんってすっごい美人だからしかたないけど。ツッチーも……って、あんたはあんたでなんで青い顔しているのよ。」


 そう、俺はここで痛感していた。

 アメリア隊、噂には聞いていたが、めちゃくちゃ良い装備をしているし、めちゃくちゃ強そうだった。

 課金勢との差を見せつけられた。

 いや、そんなことよりもそこにデズモンドが入っていることに愕然としていたのだ。


「い、いや。何でもない。朝、あんまり食べてないかも」

「そっか。それってもしかして願掛け?」

「……うん。願掛け。」

「大丈夫だって!なるようになるって。モンドだって無課金勢だぜ?」

「う、うん。そう……だよな。俺たちも……頑張れば」


 ただ、俺はその時、嫌な予感がしてならなかったんだ。



 教会で洗礼を受け、その隣に併設されている職業能力開発所へ全員で移動する。

 課金勢、つまりお金持ちたちは別会場にいるらしい。


「おっしゃ、モンド!見たか、俺の豪運を!盾使い、ゲットだぜ!」

「モンドはいないでしょ。っていうか、同じじゃん。豪運っていうのはちょっと言い過ぎ」

「あんだよ。それじゃマイネは何だったんだよ。」

「あたしはねぇ。じゃっじゃーん。歌い手!」

「なんだよそれ、聞いたこともねぇし。」

「それはあんたが勉強不足なだけ。あたしの歌は癒しの魔法なのよ。それに仲間を守ったりもできるの。」

「じゃあ、僧侶って言えばいいじゃん。」


 俺には二人の会話を聞いている余裕はなかった。


「僧侶よりちょっと弱いのよ。それに……、歌わないといけないって恥ずかしくない?」

「ぶは!お前、歌嫌いだもんな。ま、いいじゃねぇか。冒険者には必須だろ?」

「職業はその時考えていたことが反映されるとも言われているわよね。神様が見ているんだし。あたし、歌だけは!って思ったらこの通りよ。ガチロもモンドのことばっか考えててんでしょ。」


 そう、無課金ガチャでも神様は見てくれている。

 そして課金ガチャは実はそうではない。

 血統が全て、つまり勇者の子孫は勇者が出やすいし、聖女の子孫は聖女が出やすい。

 それぞれの先祖が色濃く反映されているし、その誰もが歴史本に乗っている由緒正しい家柄。


 寄付金もそれなりにしてるから、課金ガチャと呼ばれる。


「んなこと考えてねぇし!あのパーティに入りてぇなって思ってただけだし。」

「んで、ツッチーは?ちゃんとお祈りしながらガチャを回していたわよね?」


 確かに歌うのは嫌だ。

 でも俺はそんな話も聞いていなかった。

 取扱説明書を隅から隅、なんならページがくっついていて、そこに重要な説明があるかもと必死だったからだ。


 だが、俺の為の本はあっさりとガチロに奪われる。


「恥ずかしがんなって。俺、お前のが星2つって知ってんだからな。あんだよー、ここに真の豪運の持ち主がいたのかよぉ。……って、なんだこれ?」

「えー!星2つなんだ!あたしにも見せて!」

「あ、ちょっと待って——」


『職業:小作農』


 レベルアップにより農家へ転職可能。

 畑を耕せられる。

 畑に田んぼ、なんでもござれ。

 それ以外のスキルもレベルアップにより取得可能。

 但し、魔物や人に対してはあまり効果を発揮できない。

 剣や盾?持つ必要なくなーい?

 魔法も要らないよねぇ?

 君は畑を耕すだけで良いのだから、これってラッキーだよねぇ?

 運は悪くないよねぇ?


「運、悪くはないらしいけど。俺、農家じゃないし……」

「確かに。運は悪くねぇ。それに農家だったら当たり……だな。」

「ツッチー。これ引くとき、何を考えてたの?」


 結局、神様は忙しいらしい。

 俺が考えていたことは。


「俺を拾ってくれた爺さんと婆さんに食わしてやりたいって思いながら……引いた。」


           ◇


「まぁ、気にすんな。農家だって力仕事だろ?剣は持てなくても鍬だってフォークだって持てるだろ?」

「そうね。勿論、ツッチーが冒険者になりたいってのが前提だけど。あたし達って漁村出身だから、地元に帰ってもやることないだろうしね。」

「うん。それに俺、爺ちゃんと婆ちゃんに立派な冒険者になるって家を出てきた。……あんまりガッカリされたくない。」


 同い年の二人。

 ガチロは俺より背の高い赤毛の大男。

 マイラは金髪の可愛らしい女の子。

 二人はとても良い奴なので、小作人の俺を励ましてくれた。

 勿論、別の街に行って、そこで就職活動をするという手もある。

 だけど、俺は今話題の冒険者にどうしてもなりたかったんだ。


「それにあたしは歌わないといけないけど、ヒーラーでしょ?で、モンドの影響を受けたガチロはディフェンダーもしくはタンカー。あたし達、バランスは取れてると思うの。ほら、フォークとかえいや!ってやられたらあたしだって怖いし」

「だな。でも、冒険者パーティって4人から6人じゃないとクエスト受けられないんだよな。」


 つまり、俺はアタッカー役をすればいい。

 あまり効果がなかったら、ガッチーがアタッカーをすればいい。

 簡単な話だった。


「うん。それじゃあ俺たちも、仲間を探そう。」


 すると癖の着いた金髪の少女がさっそく走り出した。


「はーい!受付のお姉さん!ここに一人から三人でそれなりに冒険をこなしてる人はいますかー?」

「ゴメンねぇ、マイネちゃん。ここはクエストを受注するところなの。普通は自分たちから声を掛けるものよ?……それに、その条件じゃちょっと厳しいかな?君たちはレベル1。行ってみればド素人。好んで育ててくれるパーティは少ないんじゃないかしら。それに三人いっぺんに、でしょ?」

「ネネさん。すんません。こいつ、安直だから。おい、マイネ。ネネさんが困ってるだろー」


 短くカットされた赤毛の大男がマイネの腕を引っ張った。

 そして、俺が立っているクエスト掲示板の前に連れて帰ってきた。

 手取り足取りは教えてくれないらしい。

 大人なのだから仕方がない。

 だから、俺はクエスト内容を熟読していた。

 自分にできる仕事を探していた時に、閃いた方法がある。


「マイネ。低レベルのクエストだったら、ご一緒様出来るんじゃないかな。ほら、報酬が少ないから、俺達と同じようなレベルの奴がここで——」

「ねぇ!君たち!今のやり取り、聞かせてもらったんだけど!」


 そこで食い気味にやや薄い茶髪の青年が話しかけてきた。

 知らない顔に半眼を向けていると。


「ネネさん‼彼ら新人でしょ?」

「あら、ミケール君。今日も勧誘?」

「はい。それが僕たちの仕事みたいなもんですから!」


 ぱっと見はいけ好かない男。

 それはガッチーもマイネも同じだったと思う。


「はわわ。やっぱそう?僕、怪しいよね。でもでもぉ、君!君、掲示板見てたよね?ランクFってどんな依頼だった?その報酬は?」


 その言葉の俺は目を泳がせた。


「ごみの回収とか、害虫駆除、あと街道の掃除。それぞれ500Aアスタリスク1000A、1500A。」


 自分で言っていて恥ずかしくなるクエスト。

 それに三つくらい掛け持ちしても、割に合うとは思えない


「でしょでしょ?そんなの自分でやれよって奴ばっかでしょ?……って僕、まだ名乗ってなかったね。君たちの名前は知ってるよ!新人の情報はあっちの掲示板に出てるからさ。ほら、ユニークスキル持ちの獲得とかあるからさ。僕の仲間はそっち担当でねぇー。……じゃなかった、えっと僕の自己紹介だったね。僕の名前はジャック。鷹の希望団の勧誘担当だよ!」


 鷹の希望団のジャック、彼は身分証を見せながらそう言った。

 ついでに団員バッジも。

 そしてその言葉に反応したのはマイネ。

 彼女は目を剥いて、俺達の共通の人物の名前を叫んだ。


「モンドじゃん!デズモンド!鷹の希望団に入ったとか自慢してなかったっけ?」

「あ、それでか!俺が聞いたことあったのって。あいつ、すげぇ団とか言ってなかったか?こんな俺達みたいな初心者が——」


 ガッチーが言った。

 そしてその時ジャックが笑った気がしたんだ。

 でも、その笑いの意味を俺は理解していなかった。

 知人が言っていた団の名前に全員が安堵を覚えてしまった。


「じゃ、ネネさん!彼ら、俺達が連れて行きます。うーん……、ついでにこのクエスト受注しときますね!」

「はーい。よろしくねー。」


 職業能力開発所の職員とも顔なじみな青年はニコニコしながら、俺達を手招きした。


「おいで。こっちだ。」

「え?え?そうなの?それでいいの?」

「えっとジャックさんだっけ。いきなり来いって言われても」

「怖いところに連れて行かないって。だって、君たちは無課金でしかも大人になりたてでしょ?襲ったところで意味ないじゃん。そもそも、職所って基本的に放り投げでしょ。だから、僕たちが代わりに新人研修をしているんだよ。因みにお金も出るからね!」


 この言葉が決め手だった。

 受付の人に聞いても自分たちでどうにかしろと言った。

 そも、仲間の見つけ方なんて分からない。

 だから、俺達三人は本当に渋々だが、彼について行ったんだ。

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