第32話 閑話
きぃ、きぃとぶらんこが揺れ
晩秋の公園。この季節の冷えは、日暮れと共に深さを増す。
また、その性質は、冬のそれとは少し違う。
それは、人間の皮膚の薄皮一枚の下へ図々しく、そして
はらり、もみじが
ああ、寒い。そして、明るいのか、
つかみどころがない――おうまがどき、か。
はらり、はらはら、もみじが、
息苦しくなる程折り重なって。
赤に茶に、枯れて割れて、壊れて消えて。
風風吹くなと願っても、命は、死ぬ。
――何から?
赤いのは紅葉だけではない。
赤い赤い夕焼けは、
やがてその背に、
ああ、色が、混じる。
ふ、とどこかで音がしたような。
「――……。」
無言のまま、少女は泣きぬれた
整った
からん。からん。
音がする。
ああ、母だ。母がくる。
少女は涙を袖口で拭いながら、ゆっくりと立ち上がる。
そろそろ母が来る刻限だ。母が仲間達を引き連れてリンドウを迎えにくるのだ。ここより先、リンドウはあの仲間達の領域へ入る。人になずむ事は難しくとも、あの母の仲間達といれば大きく息が吸える。ありのままの己でいられる。
嬉しくなって振り向いた。
のに、
「――あなた、誰」
そこに
一人の男だった。
白磁のような肌に、すらりとした高長身。黒髪は短く刈り上げている。鋭い
(――こんなところに隠されていたのか)
その声は、何故だろうか。
とても懐かしくて、苦しくて、哀しくて。
ほろり、少女の頬に降りた涙がひとつ。
その顔を、暖かい腕が覆った。
少女の視界が覆われる。抱き締められている。
ああ、と安心した。
背後から、怒りに満ちた声が響いた。
「まだ貴方は、リンの前に姿を現していいとはなっていないはずですよ、
「おにいちゃん……」
腕の中から、かすかに見返って兄の顔を見上げると、兄は苦し気に笑って見せた。
と、視界から外れた先で、くくく、と嗤いが響いた。それに合わせて、兄はその方へ険しい視線を投げつける。
(
兄の頬に、歪んだ笑みが浮かんだ。
「――母上を見捨てた貴様にだけは、絶対にリンを渡さんと前世で決めたからな、俺は。そのために、こうして傍に生まれ落ちたんだ」
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