第27話 久芳
藤堂が
この両地域に、
それは天照大御神を祀る場所を求めての
ヒルコは
そして、この隠の地をかつて治めた
妻の、
藤堂の表情に、静かに影が差す。
――藤堂がかつて
否、それは、
言い分として正しくはないだろう。
命じられた通り、養子を迎えた。
否、自らがそれを是として受け入れたのだ。
子宝に恵まれなかった妻は、養子に迎えた高吉をよくかわいがっていた。まだ十にはなっていなかったはずだ。高吉も
今でも藤堂は、あれ程に美しい女はこの世に他にないと思っている。
――だというのに。
人であった頃の記憶が藤堂を黙り込ませる。
我知らずなのだろう、俯き加減になった鬼神に、静音が呆れ交じりの溜息を洩らした。
(悔悟で落ち込むのはお主の勝手だが、すまぬ、藤堂の地偉智よ、後にしてくれるか)
それでもなお黙ったままでいると、ついにしびれを切らした静音が藤堂の肩に一発の拳をくれた。
(おい、赤目の)
(話ぐらい聞け。
とたん藤堂の顔色が変わる。かつて一度だけ目にした事がある、黒い数珠の事を思い出したのだ。そうだあれは――
(そんな話、儂は知らんぞ)
(それはそうだろう。コダマノツラネはお主の妻の死後、それを貸与していたマダラが回収して――)
藤堂の形相が変わる。
(待て、赤目の。貴殿、今マダラと言ったか?)
静音の眼の色が、不快も
(ああ言った。先代マダラである
ゆっくりと微笑む久芳の顔が――苦渋の涙で歪む。
(――正室が死んだ時、側室と実子と共に江戸におったろう。看取っていないのだから、コダマノツラネの行方を知るはずもなかろうに。お主の代わりに
――ずるり。
藤堂の足元から、岩場から。
ずるりとしたあわいが――湧いた。
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