第11話 斑と蛇
*
ある日の事。
緑色のコートを
私に気付いた彼女がふいと会釈をする。よくよく見れば額が
「こんにちは」
落ち着いた、やや低い、そして
「
「わかりました。こちらでしばらくお持ちください」
「ありがとうございます」
奥へ呼びに行くと、伯王は黙って
――ここへきてからどれ程の時がたったかもう記憶も定かではないが、彼がこんな風に女性を扱うのをはじめてみた。
わずかに、ちり、と胸が不快になった。
客人がある時は、私は家内にいないようにしていた。取り立ててそうしろと言われた訳ではないのだけれど、何となくそうした。恐らく、
門を出た先に、小さなお地蔵様らしきものがある。
小さな
振袖が地面を
どういう不可思議なのか、やはりいくら地面を
そうやって時間を潰していると、ふと蛇が道を横切っているのが見えた。――いや、横切ってはいないか。動いてはいない。単純に、道幅いっぱいに寝そべっているのだ。
「そんなところでそんなふうにしていると、車に
声を掛けてからおかしくなった。こちらに車は走らない。よくて人力があるくらいだ。それも引くのはやはり人ではない。大抵
蛇は、静かにこちらを見ると、またぷいと真っ直ぐに横たわった。
「人の癖が根深い」
思ったよりも高い声がゆったりと、ねっとりとそう言う。
「癖、ですか」
「これは洗うのに時間が掛かる」
そういうと、蛇はぬめるようにその身をくねらせて、今度こそ本当に道を横切り、
褒められてはいないことだけは理解できた。
竜胆という女性の滞在時間は半刻程だった。
後味の残らない、不思議な印象の女性だった。
蛇ののたくった様の方が、余程記憶に染みた。
「何処に行っていた」
ふと、頭上から声が降る。伯王がいつの間にか隣に並んでいた。見上げる。視線は竜胆が消えた辺りに向けられたままだ。それが、やはり少し肌をひりつかせた。
心地よくは、なかった。
「そこのお地蔵様を見ていました。それから蛇を」
「蛇」
「文句らしきことを言われました。私は蛇の眼から見ても駄目なのでしょう」
ほう、と薄い溜息が頭上から降り注ぐ。
「貴女は、いつまで――」
伯王が小さく
「私は、何か
「貴女が自身で見出さねば、意味がない」
叱っている風でも、怒っている風でもない。ただ
これは洗うのに時間が掛かる。
掛かっているのかも知れない。洗われつつあるのかも知れない。
私は、人であった私は、少しずつ溶け出している。
そんな心持ちになって、
突然――米俵をぶちまけてその中に全身で
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