お年玉に期待大!

「はいこれ、お年玉」


 中学生の甥っ子が、目を輝かせながら両手を器の形にしてこっちを見てくれば、「今年は持ってきてないぞ」とは、冗談でも言えなかった。

 あらかじめ用意していたから、嫌々渡したわけでもないのだが……。

 口にこそ出さないが、これはこれで痛い出費だった……。


「ありがとう、叔父さん!」


「うむ。好きなように使いなよ。一瞬で消えていく『課金』をしようが、配信者への投げ銭にしようが、別にいいから。

 極端なことを言えば、いま目の前で破ってもいいぞ。

 まあ、それは犯罪になっちゃうからダメだけどな」


 紙幣や硬貨を破壊するのはダメだったはず……、そりゃダメだよな、常識的に考えれば。


「そんなことに使わないよ。

 欲しいものがたくさんあるから……それの足しにする!」


「それがいい。ゲームでも服でもブランド物でも好きなようにな。

 ……さすがに高級品が買える金額は入っていないから、ガッカリするかもしれないが――」


 一万円じゃ足りなかったかもしれない……でも多い方だよな?

 俺が甥っ子と同じ年だった頃は、一万円があれば嬉しかったものだ。五千円でも充分……、ただ当時と違い、物の値段も上がっているから、お年玉も値上げした方が良いのかもしれないけど……。


 物の値段が上がっているということは、大人が子供に与える金額は減るわけでもある。身を削っている側からすれば、一万円は激痛だった。


 それでも渡したい欲がある……、そう、渡すことで俺の目的は完結しており、だから渡したお年玉を、甥っ子がどう使おうがもう関係ないのだ。


 渡したお金の所有権は甥っ子のもの。


 既に俺のものではないから……使い方に文句は言えない。


 お年玉をあげるから、こう使いなよ、とは、指示できないし、してはいけない。


 それをするなら、最初から買った物をあげればいいだけの話である。



「良かったね」


 甥っ子の母親が(俺の姉だ)、俺のお年玉をすっと抜き取り、


「じゃあ、これはお母さんが預かっておくね」

「え? 姉さん? ……それは――」


 甥っ子にあげたものであって、姉さんの生活費の足しにしてくれってことじゃないんだけど……、去年まではこうじゃなかったはずだ。

 お年玉は親が管理する家庭ではなかったはずだが……、そうせざるを得ないほど、甥っ子の金遣いの荒さが今年は目立ったのか?


「生活費の足しにはしないわよ。この子が欲しい物を買う時にはちゃんと渡すし」


「そうか……ならいいけど……」


「まあ、このお金はこのまま私の手元に入ることは確実ね」


「いやなんでだよ!!」



「叔父さん、いいんだよ……。

 だってもう、そのお年玉は去年の内に使っちゃってるから……」


 ……は?


 だってさっき、欲しい物がたくさんあるから、それの足しにするって――……あぁ、そういうことか……。


 確かに、足しにしているのだろう……、不足分をこれで帳消しにした。


 恐らく、甥っ子は去年の内に、母親から前借をしていて――それを今、返したのだ。


 借金、かあ……。


 母親に奪われたようにも見えるけど、俺の知らない内に――年を越す前に、こいつは美味しい思いをしていたのだ。

 なら、醸し出されたその落ち込みに、同情する気はねえな。


「お母さん!! やっぱり、また前借できる!?」


「おいやめろ、そうやって借金が膨らんでいくんだ――、

 再来年のお年玉を期待するようになったら止まらなくなるぞ!?!?」


 やっぱりこいつも、俺の血が流れてやがる。




 ―― 完 ――

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