第32話
兄上の立太子の義まであと3日まできた。
王城内では皆が忙しく動き回っている。
そんな時、アトラス帝国代表で来られた第二皇子が挨拶の為、国王と謁見をする事になった。
初めて会うアトラス帝国のアルベルト皇子はティアと同じ色を纏っていた。
銀色の髪に、紫の瞳。
誰もが見惚れる芸術品のような美貌。
堂々とした佇まい、圧倒される存在感、何もかもが完璧だった。
一瞬目が合った気がした。
挨拶が終わったあとは来賓用の部屋へ案内されるため謁見の間を後にした。
凄く緊張した。こんなのは、はじめてだった。
あれが帝国の皇子。
あの方がレオンとティアの従兄なのか・・・
ティアは帝国の王族の血を引いているんだ。
知っていた。
分かっていたことなのに皇子を見るまで頭から抜けていた。
呆然として暫く動けなかった。
一息つくため私室に戻ろうと長い廊下を歩いていた時、視界に銀色が入ってきた。
何となく見るとティアだった。
余所見もせず、真っ直ぐ走っていた。
ティアの目線の先にはアルベルト皇子が手を広げて待っていた。
お互いが抱きしめ合うと、ティアの額にアルベルト皇子がキスを送った。
しばらく見つめ合ったあと、アルベルト皇子が跪いた。
もう何が起こってるのか声が聞こえなくてもわかった。
ティアの綺麗な瞳から涙がポロポロ溢れている。
何度も頷くティアを抱きしめるアルベルト皇子。
2人が並んだ姿は大袈裟でもなく絵画のようだった。
俺が失恋した瞬間だった。
呆然としていた俺に「2人はずっと何年も思い合っていたんだ」と声を掛けてきたのはレオンだった。
「長い間、アルベルト皇子はティアを本当に大切にしていたんだ。
ティアが1歳の頃からだ。
帝国で傷つき過ぎて顔から表情が消えたアルベルト皇子は療養のため、我が邸で預かっている時期があったんだ。」
「そんな彼を1歳のティアが癒していったんだ。2人はずっとお互いの側にいた。7年間帝国に帰るまでずっとだ。」
「帰る時に必ず迎えに来ると両親に約束したんだ」
「それからは1年に1ヶ月だけ領地で会っていたんだ。まだ子供のティアを大人になるまで大事に大事に見守っていたんだ」
「噂があっただろ?公爵家の令嬢は病弱で、我儘、傲慢あれは父上がアルベルト皇子のために流した噂だ。余計な虫が付かないようにな」
「1度だけティアが王城に来たことがあるんだ。その時に【ワガママで傲慢な女なんかたとえ婚約者になったとしても大事にすることもないし、いつか婚約破棄してやるよ!】って聞いてしまったティアは物凄く傷ついたんだ。だってそうだろ?会ったこともないのに悪意を向けられたんだ。その時もアルベルト皇子が側にいて癒したんだ。」
「思い出したか?」
目の前が真っ暗になった。
俺は俺は、なんて酷いことを・・・
ティアに聞かれてたなんて!
謝らないと!謝らないと!
俺は最低だ!
失恋のショックよりも、ティアを傷つけていたことの方が痛い、苦しい、息ができない。
俺がティアを傷つけたんだ、足元が揺らぐ
この1年間ティアは態度にも顔にも出すことはなかった。
そんな優しティアを傷つけたんだ・・・
ごめん・・・ごめんティア
俺はどうすれば許される?
「ティアが帝国に嫁ぐまでに話せる時間を作ってやる。だからもう泣くな」
レオンに言われるまで泣いていることにも気づかなかった。
「しっかりしろ!ティーチの邪魔をするな!お前はこの国の第2王子だ!」
そうだ!
泣くのも反省するのも今じゃない!
兄上は次期国王らしく立派に式典を終わらせた。
あれから1週間、先触れを出して公爵家を訪れた。
笑顔のティアとアルベルト皇子に迎えられた。
ティアは来月16歳になる。
同時にアルベルト皇子と結婚すると美しい笑顔で報告をしてくれた。
並んで座る2人には長い時間をかけて作り上げた絆が目に見えるようだった。
アルベルト皇子にお願いして、ティアと2人にしてもらった。
ティアが案内してくれる庭園を歩きながら
ティアを傷つけていたことを謝った。
あの時はお互い子供だったと笑って許してくれた。
「ティア、幸せかい?」
「ええ、アル兄様がこれからはずっと側にいてくれるから」
ほんのり頬を染めて幸せそうに笑う。
今までで1番の、最高の笑顔を見せてくれた。
明日にはアルベルト皇子と一緒にアトラス帝国に向かうと教えてくれた。
よかった。
最後に笑顔でお別れができた。
どうか、幸せになって欲しい。
ああ大丈夫だな。
彼なら間違いなくティアを幸せにするだろう。
次に会うことがあれば、成長した俺を見てほしい。
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レオン視点
ティアとアルベルト皇子の結婚式は粛々と行われた。
継承権を放棄出来たのも、皇太子にはもう2人の皇子がいるからだ。
父上は母上にいい加減にしろと怒られる程泣いていた。
ウエディング姿のティアは本当に綺麗だった。
あの日、無表情でティアを抱きしめて泣いていたアルベルト皇子が今は幸せいっぱいの顔でティアを抱きしめている。
常に寄り添っていた2人を思い出す。
私にとっても大切な妹だ。
アル兄上、ティアをお願いします。
さて、帰ったらルイと悪ガキ2人を鍛え治さないとな。
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