一葉落ちて命一つ散る

最強の糸束

第1話

 世界樹....それは天界に在る巨大な樹木である。誰が植えたのか、いつから存在するのか、何のためにあるのか。多くは謎に包まれているが、一つだけわかることがあった。

 それは、生命が一人、一匹、一頭、一つ死んだら葉が一枚落ちる、また生命が一人、一匹、一頭、一つ生まれたら葉が一枚芽吹くことだ。その巨樹は命の表現するものなのか、それとも生命の管理機関なのか。少なくとも、この世の生命体に理解できるものではない。


 人類がうまれるよりも、地球が誕生するよりも、世界が形成されるよりも、はるか前。二人の神はこの大木を巡って争っていた。一人は大木を安全に保護し、自然のままに生命を育むことをよしとし、後の世で地母神と呼ばれた。一人は大木が世界を支配していると考え、その木を切り倒すべきだとし、後の世で魔神と呼ばれた。

 二人の争いは何世紀にも渡り、世界中を巻き込んだ。激戦の末、神は魔神に勝利し、魔人は天界を追放された。


 その後、時はヒトの世が栄えた22世紀。黒石和樹は2月6日の今日、16歳の誕生日を迎えていた。

「いい…?」

「いいよ」母が応える。

「フゥぅぅぅ」

蝋燭の火は5本中、3本だけ消えた。中途半端に残った火がおかしく思えたのか、弟の治樹は何故か笑っている。

「フゥ、フゥウーー」和樹は強く吹いた。


「なんで誕生日なのにジュース買い忘れているんだよ…」和樹は苛立っていた。

「てか、なんで俺がジュース買いに行ってんの!?オレ、今日の主役だよ!?」

「うるさいわよ、アンタ」

和樹は慌てて振り返った。和樹の幼馴染、白井希だ。

「なんでこんな夜更けにコンビニ来てんの?てか、今日誕生日じゃなかった?誕生日おめでとう」希は畳み掛けてきた。

「別に、ただ誕生日のパーティー用のジュースを当日に買いに行ってるだけだよ」

「…ふーん

 まあ、あんたは運動不足なんだし、それぐらいしなきゃね」

「はいはい。用事ないなら俺もういくぞ」

和樹はさっさと歩を進めた。そのとき、不意に後ろから引っ張られた。

「うお!?]

振り返ると、希が自分の袖を掴んでいた。

和樹は顔が赤くなるのを感じた。

「なんだよ?」

少し強い口調になってしまったのを後悔した。しかし今言い直すのは気恥ずかしいというもの。そんなことを考えていると…。

「ねえ、今日ちょっとうちに来てくれない?」

「……。」和樹は言葉が出なかった。今言われたことを頑張って理解しようとする。

「……。え!?」

希は下を俯いている。

「……いいよ。ちょっと待ってて。先ジュース買って、親に言うから。」

「…わかった。」

まだ肌寒い季節だったが、和樹は暖かく感じていた。

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