第5話 4日間で出来る事

 先程まで、驚愕のイメチェンを果たした自分を唖然と眺めていたのだが、今は落ち着きを取り戻していた。


 自分用にコーヒーを、メイ用に紅茶とクッキーを用意する、グンはコーヒーの香り楽しむ事で気を紛らした。

 落ち着くために自然と取った、故に深く考える事はしなかった。


(本当にここは現実なのか…。いやこの考えはダメだ、思考がループしてる。)


 再びそんな考えに陥るが、昨日の出来事が夢で無い事も何となく理解していた。


(そうさ、今出来る事からやって行こうと決めたんだ。)


 何となくではあるが、何かしらのデスゲームにでも巻き込まれている。グンはそう感じているのだ。


 全貌がまるで掴めていない今は、とにかく生きる努力をするしかない。


 グンの立ち位置はメイに守られる役目らしいのだが、果たしてそれだけで何とか成るものだろうか。


 グンの答えは ”否” であった。


 グンは自分の考えをメイに告げる。


「メイ」


 小気味良く、リズミカルにクッキーを齧り幸せそうな顔をしていたメイは、口に含んだクッキーを紅茶で流し込むと不満そうな顔をしながらグンを見る。


「なんよ?今クッキー堪能してるんよ、幸せの味を噛み締めてるんよ」


「たった今、朝食を食べばかりなんだが」


「食後のデザートみたいな物なんよ」


「それなら仕方ないな」


「仕方ないんよ」


 再びカリカリとクッキーを齧り出したメイ。グンは呆れながらも、言葉を続ける。


「まあいいや、食べながら聞いて欲しい」


 カリカリしながら、目線だけグンに向けて来るメイ。


「メイの話では、俺が守られてメイが守るって事だが、それって絶対にそうしないといけない事なのか?俺は前回の戦いで囮をしたんだが、その行動はこの場所での戦闘では違反行為になるのか?」


 カリカリを止めるこそなく首を傾けるメイ、その表情が訴えかけている、こいつは何を言ってるんだと。

 どうやら彼女もここでのルールを理解していない様子だ。


「……うん、わかった。メイも理解していないんだな」


「ゴックン、ルールなんてないんよ、とにかく生き残るんよ、有るとすればそれがルールなんよ」


「なるほど、デスゲームではなくサバイバルゲームみたいなものか…、メイが守ってくれる、それは理解してるんだが、やっぱり自衛手段は必要だろう」


「……」


 グンがそう言うとメイは不満顔、表情だけで考えが筒抜けである。


「そんな不満そうにしないでくれ、万が一あの戦場でメイと分断されれば俺は簡単に殺される自身があるぞ?」


「そんな事態には絶対にしないんよ!」


 力強くそう答えるメイの瞳、決意の籠った瞳だった。

 彼女が何故ここまで自分に拘るのか、生き残った先に何があるのか、恐らく聞いたところで返事は同じであろう。


 この場所で決められた何かに則り従っている、ただそれだけで在ろう。


「メイの言い分は解った、でも俺は戦いたい。メイ一人に負担を掛けたくないし、何より俺もメイを守りたい、それは間違っているのかな?」


「む~ぅ」


 グンの言葉はメイにとっては嬉しい言葉ではあった、それでも心が何かを拒否している。グンに生き残って欲しい、グンを守る、グンを……。

 赤くなって照れたり、困惑したり、悩んだりと表情がコロコロと変化している。


「メイ的には黙って守られて欲しいんよ、でもグンの言い分も理解できるんよ、。戦場で生き残る、とっても大事な事なんよ」


「うん、ありがとう。そこで聞きたいんだけど、ここには訓練できるような場所が見当たらないんだ、何か手段が無いか聞きたくて」


「それなら付いて来るんよ」


 残っていたクッキーを全部口に放り込み、紅茶を一気飲みすると銘は立ち上がり玄関へと向かう。

 黙ってその後を付いて行くグン。


 入ってきたはずの玄関に扉は無かった、真っ白な壁だけが目に入る。


(今更扉が消えたくらいで驚きはしないな。)


 メイは白壁となった玄関横に軽く手で触れる。するとそこにパネルが現れたのだ。

 タッチパネル式なのか軽く指で何か操作している。


 するとどうだろう、正面の白壁は何かの扉へと変化したのだ、これにはグンも驚きを隠せない。


 扉が横に開く、メイに手招きされグンはそのまま中へと入る。

 見た感じエレベーターの様だが、昨日テラスから見た様子では下階は存在していなかった。

 一体どこへ?そんな考えを浮かべメイの様子を見る。


 扉横のパネルを操作し、終わると再び扉が開く。特にどこかに移動した感じはしなかったのだが、そこには先程まで一緒に過ごしていた部屋は無い。


「ここは?」


「総合訓練場なんよ、色々な武器も用意されてるんよ、射撃練習も格闘練習もお手の物なんよ」


 円形の広い空間、複数の扉があり、その扉の上には案内板が存在していた。

 

 扉の先が何処に繋がっているのか、一目で分る仕組みだ。


「扉を抜けるとその先に色々な施設があるんよ、何でもできるんよ」


「ははは…ここはSFなんだな」


「わからない事はその画面にで聞くんよ、管理コンピューター?が答えてくれんよ、何でも問い合わせに答えるんよ」


「なんだそりゃ、メイも理解してないのか?」


「使い方は解るんよ、でも詳しくないんよ、説明も面倒なんよ」


 一番最後が本音だな。などと苦笑しながら画面前にに出る。が、何をどうすれば起動するのか、まだメイに聞いていなかった。


「ようこそ当施設へ、私は当施設の管理AI。何か質問があればお答えしております」


「おいおい、今度は人工知能かよ。統一感が無さ過ぎて困惑するわ!」


「それは失礼いたしました。私は管理AI。それ以外の何者でもありません」


「随分流暢にしゃべるんよ、中の人でもいるんよ?」


「中の人はおりません、あなた方を監視もしておりません。私の存在はこの場所で完結しております」


 そんな事をいわれると返って疑わしいくなる、昨日の出来事も見られていたのではないか、そんな疑問も浮かび上がるが怪しい行動は取っていない。


 もちろん如何いかがわしい事もしていない、はずである。


「何だか勿体ないな」


「勿体ない、ですか?」


「うん、そこまで人に近いのならアバターでも作って表示すれば良いんじゃないかな?」


「それ名案なんよ!画面だけだと味気ないんよ!早速作るんよ!」


 メイはグンの提案にノリノリである。


「アバター、何を参考に作成すれば良いのでしょうか?」


「そんなの簡単なんよ、メイとグンを元に作り出せばいいんよ」


「なるほど、では何点か候補を上げていきます」


 メイの一人称、グンが名付けてからはアタシからメイ呼びに変わっていた。

 今更そんな考えをグンが浮かべたのは、二人の特徴から作り出されたアバターのせいである。


(もうそれって俺たちの子供なんだよな~。)


「いい感じなんよ!もう少し幼い感じで!そうそうそんな感じ!」


 どうやらメイは、自分好みの『娘』を作っているようだ、とても楽しそうに話し掛けている。


「これでいかがでしょう?」


「可愛いんよ、とても素敵なんよ」


 出来上がったアバター、それはメイをベースにしてグンの顔パーツで似合う部分を抽出した少し幼い感じの女の子。

 二人の特徴を上手に捉えていた。


「グン!見るんよ!メイ達の子供なんよ!」


「お、おう。随分と可愛いく出来たな」


「後は髪の色だけなんよ、白は味気ないんよ」


 うれしそうな表情を浮かべグンに問いかけるメイ、アバター作成からすでに2時間は経過していた。

 やれやれやっと出来たのか、そんな事は口には出せない、メイに殺される。


 メイの横で完成までを眺めていたグン、白髪も悪くないのだがやはり物足りない。出来上がりまでの行程で、ずっと思っていたことを口にする。


「う~ん、それなら安直だけど少し紫がかった濃い青でどうかな?俺とメイの色を全部合わせるとそんな色に成るんじゃないかな、なん「それがいいんよ!」…て」


 グンが全部言い終わる前にメイは賛同し、画面の娘に提案していた。


「これでいかがでしょうか?」


「うん、正しくメイ達の子供なんよ。頭をなでなでしたいんよ」


 うっとりと画面を見つめるメイ、グンもその出来上がりに満足していた。


「うん、可愛いね。それじゃあ俺から最後の提案だ」


「「なんよ」でしょう?」


「うん、君の名前だよ。俺の世界では紫がかった濃い青は瑠璃色って言われてるんだ、そこから君の名前を考えた。ルリ、君にピッタリだと思うんだけどどうかな?」


 目に喜びを湛えたメイは体いっぱいで嬉しさを表現し、彼女、ルリに問いかける。


「とってもいい名前なんよ!ルリ、可愛い名前なんよ!」


「いい名前だろ?それじゃ改めて自己紹介だな、俺はグン。で彼女がメイだ」


「メイなんよ、お母さんでもいいんよ?」


「ルリと申します。以後よろしくお願い申し上げます。グン様、メイ様」


「硬いな」 「硬いんよ」


「では……修正完了…なの。何でも聞いて欲しいなの、父様、母様」


 画面の中、可愛らしいく微笑みながら少しだけ首を傾けて答えるメイ。グンの横でメイが悶絶しているが放置する。


「おう、思い切り砕けたな~」


 いきなりのキャラチェンで、思わず突っ込んでしまうグン。もっともイメージ的にはぴったりの話し方だ。


 AIであるはずのルリが、画面の中で感情を持った人の様に微笑んでいる。


 グンにはそう感じられた。


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