第2話 私が知っているとでも?
「残り7分!逃げ切るんよ!」
「いやいや、逃げるも何も動けないんだが!!」
狙撃からまんまと逃げ押せた2人が移動した路地裏、当然のように待ち伏せされていた。
彼女曰く、先程の襲撃者とは別である。
出会い頭、反射的に彼女は男を蹴り飛ばす。
いきなり蹴り飛ばされた男は、壊れた扉から建物の中へと転がり込んだ。
そこに機関銃なのかマシンガンなのか、銃弾が雨の様に降り注ぐ。少しでも遅れていれば今頃ハチの巣であっただろう。
だが、問題はそこからであった。
銃撃が始まってから体感10分は経過しているのたが、一向に止みそうにない。このままでは盾にしている壁が先に壊れそうである。
狭い路地裏、相手にとっては有利な戦場である。
救いは手榴弾やロケットランチャーのような爆破攻撃が無い事であった。
どう考えても弾が切れるか、銃身が焼き切れているはずであるのだが、そんな様子も見えない。一体どれ程の数、銃と銃弾を持ち込んだのだろう。
この世界の事が全く分からない男にとっては、そのすべてが脅威であった。
「これ本当に後6分で終わるのか!?」
「えっ!?なんよ!?聞き取れんよ!」
響き渡る銃声がうるさい。
彼女はその相手の間隙をぬって撃ち返しているのだ。
彼女が使っている銃はショートライフルのような銃だ。連射も可能ではあるが敢えて使っていない。あくまで牽制で使っているためこちらの反撃は弱い。
好き放題乱射して来る相手に集中しているため、男に向ける意識の余力は皆無。当然何を言っているのかうまく聞き取れていない。
仕方ないかな。そう考えながら男は自分の考えを行動に移す。
ゆっくりと彼女に近づき、纏っているマントをめくる。
「ちょっ!?何するんよ!」
いきなりの行動で一瞬面食らうが、銃撃が続いているため目線をこちらに向けることは無い。中々の気構えだ。
「いや、別にマントの下に興味がある訳じゃ無いんだ。ただ他にも武器の一つも持っているんじゃないかと思ってね。あ、持ってるじゃないか」
そう言いながら、男は彼女の腰のホルスターからハンドガンを取り出す。
「ちょちょちょ!?それで何する気なんよ!?」
「もちろん、反撃する」
彼女はマガジンの交換をするため一瞬壁を背に座ると、素早く目線だけで訴えかけて来る。
余計なことはするな。そんな視線であったが男は無視を決め込んだ。
マガジンの交換を終えた彼女は、反撃の銃声で声を掻き消すように言葉を発する。
「一応さっきも言ったんよ、アタシはアンタを護るんが役目なんよ」
「うん聞いた。残り時間の話も聞いたけど信用できない」
真剣な男の表情、彼女はこちらに言葉の続きを促しながら銃撃を続ける。
「だから考えた。もし本当に制限時間が存在するなら、正面の相手はこのまま時間一杯まで撃ち込んで終わりだ。そこに油断が出来る。そう考えるとここが勝負所でしょ?何が起こってるか解らないけど、今後を考えるとこの厄介な相手は此処で倒しておいた方が良い」
「正論だけど理想論なんよ、無理してまで倒す必要はないんよ!」
「それも分かる、だけど何度もこの乱射は受けたくない!」
男の本音はとしては、こんな攻撃を何度も受けたくはないし、相手にしたくないのだ。
他にも考えがあった。この殺し合い今日が初日であれば相手も初心者だ、倒せない事は無いだろう。
「相手だってマガジン交換する。2分に1回7秒だ!その間隙を縫って斜め前の建物に突っ込む!砂煙が丁度いいね~30秒くらいで乱射が止まる、後はよろしく!」
「な!?」
男はそれだけを言うと手元の銃を両手で持つ。
(銃の扱い方は知らない、だって初めて持ったのだから。)
そんな事を考えながら、知識にある安全レバーを下げる、もちろんテレビで見た知識だ。
(ホルスターに入っていたんだ、外せば使える筈。)
そんな浅はかな知識しかない。
(いや、これでどうすんだっけ…引き金引けば勝手に撃ってくれんだっけ?まあ、撃つつもりは無いけど)
「ちょっと、聞いてるんよ!?突っ込むって正気なんよ!?」
銃を両手で持ち銃口を下に、腰を低くし飛び出す準備を始める男。
先程からの銃撃は間も無く一瞬だけ止まる。次の乱射まではおよそ7秒。先程から何度も計算していた間隙。
「よろしく頼む!」
そう言いながら飛び出していく男。目指すは斜め前の建物。
「っっっ!!」
正面から何か慌てている気配を感じる、標的が飛び出してくるとは思っていなかったようだ。
腰から別の銃を取り出し銃口を向けて来る。
(あぁ~他にも持ってたか~…死んだかも)
武器が一つとは限らない、先程の自分の考えが蘇る。
ダァン!
音と共にその場に崩れ落ちたのは相手。腰の銃を構える際、僅かに頭が出たのであろう、その一瞬を逃さず彼女は相手の頭を撃ち抜いたのだ。
銃声の音と、頭が吹き飛ぶ様子は同時であった。
自分たちと同じチーム構成であったのだろう、慌てたもう一人が倒れた人物に近寄る様子が男の瞳に写る。
次の瞬間先程と同じ光景を再現するかのように、その人物は音が響き渡ると頭を吹き飛ばされ倒れていた。
一瞬の出来事。そして初めて見る人が死ぬ瞬間。
男は思わず足を止め、その場に立ち尽くしてしまう。
まだ敵が居れば格好の的であっただろう。だが何処からも撃ってくる様子は無かった。
間接的にとはいえ人を殺した。そんな複雑な思いが男の中に膨れ上がる。
(気持ち悪い……。)
男はそう感じていた。倒すと決めて飛び出した。
それが相手を殺す事とイコールになるとは思っていなかったのだ。
イメージは相手の無力化。実際無力化には成功していても結果は殺人。自分の中から何かが抜け落ちていくような気分になる。
今にも吐きそうな程蒼白な顔をし、呆然と立ち尽くす男の耳にアナウンスが届く。
『今回のゲームは終了しました。お疲れさまでした。次回の開催は5日後の13時からの2時間となります』
何処か機械音声のように淡々とそれだけを告げると、声は聞こえなくなった。
(何だ今のは…ゲームだって?一体俺は何に巻き込まれたんだ。)
ゲーム終了の合図はあった。だが目の前の死体は消えていない。
(これは一体どんなゲームなんだ、小説でよく聞くフルダイブゲームなのか?いや…ゲームではないだろうリアルすぎる。)
男の頭はうまく働いていなかった。そこへ彼女が声を掛けて来る。
「お疲れ様なんよ、でも最後の行動は正直どうなんよ?」
「……」
人を殺してるにも関わらず、彼女の態度は普通だった。いや普通過ぎた。
(気持ち悪い…)
男の正直な感想だった。
ついさっきまでは心強い味方であったが、今はその存在が不気味で気持ち悪い。
「ちょっと、大丈夫なんよ?」
「……ぁぁ」
力なく返事を返す男。先程迄の高揚感は無い。彼女を非難している自分が居るが、自身もまたその行動で殺人に加担したのだ。
(大丈夫、落ち着け。殺さなければこちらが殺されたいた。大丈夫)
自分にそう言い聞かせ、何とか彼女に向き直る。
「…なんて顔してんよ」
男は自分が今どんな顔をしているか判らなかった。その顔を鏡で見たいとも思わない。
情けない顔をしている、何となくそんな想像が出来たからである。
「すまないな…何分こういった経験は初めてなんだ」
「…まあいいんよ、そろそろゲートが開くから一旦ホームに戻って休むんよ。そこで詳しく話をするんよ」
「いろいろ詳しいんだな…教えて欲しい、これは一体何なんだ?」
「そんな事アタシも知らないんよ」
彼女の返事に男は間の抜けた顔になる。
「(知らない?どうして?)いや、さっきから色々詳しいじゃないか!」
「でも知らないんよ、アタシの記憶に在るのはアンタを護る事と武器の扱い方、それとここでの暮らし方だけなんよ」
「えっ!?マジで言っている!?」
「大マジなんよ?」
彼女の台詞に男は盛大に途方に暮れたのだった。
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