この場所について詳しく教えてくれる人いませんか?いませんかソウデスカ

しだゆき

第1話 なんだい?この状況は…

 目を覚ますと、そこは何処かの廃屋だった。

 

 辺りを見渡すと天井は無く、ひび割れた壁。

 何処かのビル?建物の一室に居るようだ。


 が、何故こんな所に居るのか理解できなかった。

 いや、自分が男である以外、どんな名前で何処に住んでいたのか思い出せなかった。

 いや、日常風景は思い出せる、言葉も分かる、見た映画も思い出せる、だが自身についての肝心な部分が何も思い出せない。


 一体なぜこんなところにいるのか。何があって、何が目的でここに居るのか思いつかない。


 廃屋で自殺でもしようとしたのだろうか?そんな事まで考える始末だ。


 起き上がり、壊れた窓から外の様子を伺う。


 建物、恐らくビルか何かの3階程度だろう。


 見渡す限り壊れた街並み、どう考えても廃街であった。


 身を乗り出すように、窓から辺りを見渡すがどうしてこんなところに居るのかやはり理解できない。


「危ないんよ!!」


「っ!?」


 いきなり後ろから首根っこを掴まれ、乗り出した窓から中へと引っ張られると、頭を押さえつけられる。


「ぐへ!?」


 男は思わず変な声が出してしまう。

 だが、次の瞬間壁に何かが当たる音とともに、その一角にえぐれるように穴が出来る。しばし後、どこからか音が響いてくる。


「く!窓から頭なんかだすからなんよ!随分目のいい狙撃手がいるんよ!」


「はあ!?狙撃だって!?」


 思わず顔を上げ、抑え込んでくる人物を問い詰めようとするも、背中の中心を押さえられ身動きが出来ない。

 声が比較的上から聞こえて来る、恐らく背中の中心を膝で押さえつけられているのだ。


「いいから!あんたは動かないんよ!頭を下げてんよ!反撃はアタシがするんよ!」


 捲し立てるように言ってくる人物は、声の高さから恐らく女性。

 動くも何も背中の中心を押され動けない男。


 反撃の言葉とは裏腹に、頭上ではどうやら相手の射撃が継続をしているようだ。


 彼女は膝で男を押さえつけたまま、顔を出したりたり隠したりを繰り返し、相手の場所を確認している。


 男の視界には汚れた床のみ。時折後頭部に柔らかな何かが乗って来る。

 

(いや、これ尻に敷かれてるわ~。しかも完全に下着越しですわ~…ありがとうございます)


 抑え込んできた人物は、男が動き回る事を嫌がった。

 膝は固定されたまま上下運動で射線から逃れる行動をとる。位置が良いのか悪いのか、結果何度もフニュッ、フニュッ、とで尻に敷かれる事となる。


(ゴワゴワとした感触ならばズボンだろう、だがフニフニだ!)


 状況的にはそんな事を考えている場合ではないのだが、先程の声の高さと、その尻の柔らかさから、ではなく女性確定で在る。

 下着越しの尻だと解ればこの感触に抗えない、男は本能でそう判断した。


「おい!どうなってるんだ!君の尻が柔らかくて気持ちいいのはいいんだが、尻に敷かれる趣味はない!出来れば手で触らせてくれ!」


「なっっ!!!!ふざけてる場合じゃないんよ!!」


「いや、どんな状況なのか理解すらできていないんだ!それで文句を言われt」


 ダァン、ダァン、ダァン!!!


 立て続けに3発、頭上で炸裂音がする。

 実際に見たことは無いが、良く映画などで見たり聞いたりした音。


 銃声である。


「な!?え、反撃って銃なの?銃撃ってるの?もしかして銃撃戦してるの!?」


「うっさいんよ、黙るんよ!」


「……」


(もうまったくもって訳が分からない。)

 

 自分は平和な世界に居たはずだ、多分。記憶にある世界はこんな殺伐としていない。

 頭上では彼女が器用に射撃を回避し、反撃している。


 男は昔見た映画やアニメでこんな世界もあったかなぁ。などと現実逃避している。


 頭上で銃声が響くたび、押さえつけられた頭にフニッ、フニッ、と気持ちの良い感触が伝わってるく為、余計に意味が解らない。


「もう!狙撃後の移動が早すぎるんよ!」


 どうやら、撃っては移動を繰り返しているらしい。

 壁や床に出来る弾痕から、自分たちが居る位置より高い所から狙われている事が解る。

 これでは頭を上げるのも危険すぎるのだが、彼女は器用に様子を伺い射線を予測。位置を特定し素早く反撃している。


 それなら自分達も高い所に移動すればいいのではないだろうか。安易な考えであったが提案だけはしてみる事にする男。


「次の狙撃の後にこの場を離れ、相手より高所へ移動してはどうでしょうか?」


 めっちゃ下手に出て聞いてみる。


「相手がだけとは限らないんよ?どこから狙われてるかわからないんよ?移動中狙われるんじゃないんよ?」


「いや、同じ場所にいれば格好の的ではないでしょうか…」


「それもそうなんよ…、ここからアイツだけでも殺れれば一番よかったんよ」


「はい、無理な様子でしたので提案いたしました…」


 辺りを警戒しながらも、男からの提案を思案する彼女。一発牽制するようにどこかに撃ち込むと、


「んじゃ移動するんよ!いい?アタシの後ろに付いて来るんよ!次の狙撃が来たら位置を予測して動くんよ!頭低くして付いて来るんよ!」


「サー!マム!」


 言葉通り次の射撃後行動を開始する。相手の視界に入らない様、低い姿勢のまま壁伝いに階段まで移動。数段降りた所で彼女は片手で止まれの合図。

 ゆっくりのぞき込んで状況を確認するのかと思いきや、何やらマントから棒を取り出し手元でクルクルと回している。


 先端に鏡のような物が付いているようだ。

 器用に角度を変えながら階下の状況確認をすると、足者と瓦礫を遠く投擲、音に対する反応が何かが無いか、慎重に状況を確認している。


(いや、どこの特殊部隊だよ…などと口には出さない。特殊部隊に詳しく無いから。)


 彼女の行動に心の中でツッコミを入れる男。だが一番ツッコミたいのは彼女の話し方。しかし現状命懸けなので今は気にしてはいけない。


 安全確認をしながら1階まで辿り着く。今の所、何者かがこの建物に接近して来る様子はない。

 先程の狙撃手が何処に居たのか男には分からないが、反撃がなければ移動したと考えるのが妥当だ。


(狙撃メインであれば追っては来ないだろう。1階まで辿り着けば外の状況も把握し易くなるかな。)


 などと男が思考していると、彼女は更に下へと指で指し示す。

 地下と進む階段が見える。そこに降りるよう誘導して来る彼女。


 だが、ここで男は拒否を示す。


「いや、地下はダメでしょ」


「何でなんよ?」


「どこに行こうとしてるか解らないけど、この下って地下通路なの?地下室なの?出口があるなら、その出口は安全確保できてるの?通路なら他の入口からガスを撒かれるかもしれない。どちらであっても頭上から爆破されれば生き埋めになるでしょ」


 そう言いながら男は改めて彼女を見つめる。その風貌はフード付きのマントを纏っている為うまく確認できない。

 靴はローファーで生足、とても戦場に慣れている様に見えない。


 そのフードの隙間からじっと見つめて来る瞳の色、黒くも見えるが赤くも見える。血のような色であった。


「……随分色々考えているんよ」


「そりゃ考えるでしょ、遮蔽物を利用して地上での移動一択ではないでしょうか。さっきは高所をと言ったが爆発物の事忘れてた。状況が確認できるまでは平地を推奨するよ」


「……そうするんよ」


 再び移動を開始する2人。予測された狙撃地点から離れる事を目的とした移動。


 それなら地下を行くのも手だが、先程の彼女の言葉を解釈すると相手は狙撃手だけとは限らない。狙撃を囮にしている敵が居る可能性もあるのだ。


(敵と言う存在がどれだけいるんだろう…。)


 彼女は本当に味方なのか、安全な場所はあるのか、男には判断が付かないままではある。


(何故彼女が自分を助けてくれたのかも不明だな~、もっとも今は大人しく彼女に付いて行くしかないようだし、安全圏についたらこの状況を聞いてみよう。)


 まず安全確保である。そうすれば落ち着いて話も出来るだろうと考える。


「安心するんよ、後30分で今日の活動は終わりなんよ」


 また意味の解らない事が増えた。


「活動時間なんて決まってるんだ…。それならその時間が過ぎれば元の場所に戻れるんでしょうか?」


「何言ってるのんよ、この場所での戦い事態は勝者が決まるまで終わらないんよ」


「……」


 (もうお家に帰りたい。)


 一体に何に巻き込まれたのか、この状況は何なのかさっぱり理解出来ない。

 ほとほと困り果てた男に対し彼女は言う。


「今一つだけ覚えておくんよ、アンタが狙われて死んだら終わりなんよ。で、アタシがアンタを護るんよ」


「いや、さっぱり解らんがな(笑)」


 







 



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