ウィルバーン帝国~悪役女帝と冷酷非道将軍の兄貴に転生しました。滅亡まっしぐらの帝国をどうにか建て直します

さすらい人は東を目指す

第1話 プロローグ~前世の記憶が蘇った

 庭で転んで頭を強打し、忘れていた記憶を取り戻した。


 その上、ベッドの上で死にかけている。

 脳みそだけは冴えているが、身体は感覚さえない。指一つ動かせない状態だ。

 ただ、心臓が鼓動するたびに怪我した額が疼く。


 負傷した箇所が痛むたびに、少しずつ記憶が蘇ってくる。自分がただの冴えないサラリーマンで、交通事故であっけなく死んでしまったことも。

(あのとき、死にたくないと必死に願ったけれど、神さまもホントにいたんだな……)

 だけど再び今、こうして死にかけている。運命というのはホントままならないものがある。


 前世の記憶がある。そんな人間も稀にいるらしい。以前テレビで放送していた。番組のネタだろうと当時は聞き流していたが、実際に前世の記憶を取り戻してみると違和感が半端ない。

 更に、思い出した記憶を辿ると、とんでもない人物に転生してしまった。

 なんと皇子様なのだ。

 本当ならば、贅沢三昧できる身分だ、と神さまに大感謝するのだけれど、どうも現状は浮かれる場合ではない。

 病気をしがちで、大抵ベッドで寝たきり。いわゆる病弱キャラ。美人のメイドさんに奉仕されても、寝たきりでは嬉しくない。しかも嬉しいと感じる生活をしていなかった。

 病床時代が長くて、少しすれ気味の可愛げのない少年。客観的に見ると、手を煩わせないが、皮肉屋の可愛げのない少年だったと思う。

 だが、記憶を取り戻してみると……。前世の、ごく普通で、模範的で、しがないサラリーマン時代も思い出して、どうもふんぞり返る気になれない。全く笑えない悪い冗談みたいで、居心地が悪い。


(その居心地の悪さだけが原因じゃないんだよな……)


 記憶を取り戻してみると、どうもゲームと同じ世界みたいなのだ。

 いや、頭を打って少しおかしくなったのか、と考える自分もいる。

 確かにそんな馬鹿げた世界にいるとは思えない。だけど、妙に一致することが多すぎるのも事実なのだ。


 王道ヒロインであるシャルロッテ。魔法の才能を見いだされて魔法学園に入学。その後イケメン王子と仲間たちと友情を育み、聖女の力に覚醒。

 聖女となったシャルロッテが、大陸統一を目指す帝国を打倒する物語。


 その帝国の名前が問題なのだ。

聖女と敵対する帝国の名はウィルバーン帝国。魔族の力を借りて、世界を征服しようと企む悪逆非道な女帝ディアナ。

 彼女の弟で殲滅将軍の異名を持つアルヴィン。

 そして女帝ディアナの夫である皇帝イグナート。どいつもこいつも碌でなしであり、生涯関わり合いにはなりたくない連中である。


 そして、僕には問題がある。

 そんな碌でなしが親族にいるのだ。


 妹の名前はディアナ・アールスティン。

 弟の名前はアルヴィン・アールスティン。

 城に暮らしている年下の叔父の名前はイグナート・アールスティン。

 僕が住む帝国の名前はウィルバーン帝国。

 そして、僕の名前はユーシス・アールスティン。

 

 国の名前、人物の名前、世界観、どれもが怖いくらい一致するのだ。

 それも、学生時代に遊んだ乙女ゲーの世界に。

(何故乙女ゲーの世界に転生? 何故なんだ……)

 全く訳が分からない。正に神さまの気まぐれと言うわけだ。

(分からん。謎としか言い様がない)


 思い悩むと、また頭が痛くなってきた。だけど、記憶を整理するためにもっと思い返す必要がある。このゲームを知った学生時代を思い出そうか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る