ぽっちゃり系アイドルの幼馴染みが俺をダシにしてダイエットする話
伊藤 猫
1. お前のせいで知り合いからの連絡が絶えないんだけど
「片想いの相手役に付き合えだぁ?」
目の前で両手を合わせてお願いのポーズをする幼馴染みに俺は隠す気のない呆れた顔をした。
「マジで一生のお願い!!この仕事成功しないと次の仕事無くなっちゃう!!」
その一生のお願い何回目だよとその彼女に対して冷めた目を向けた。
彼女はいわゆる地下アイドル出身の現役女子大生タレントである。
特筆すべきこととすれば、彼女はいわゆるぽっちゃり系。最初はぽっちゃりをコンセプトにしたアイドルグループを組んでいたが、偶然とある大手の女性向けのファッション雑誌のぽっちゃり特集で彼女のオンとオフの写真が載ってから、それをきっかけにテレビに出るようになったらしい。
グループ自体は解散したものの、それからは彼女はソロでアイドルを続けながらタレントとしてそこそこ仕事をもらい、いつの間にかテレビではアイドル兼お笑いタレントのような立ち位置になってしまっていた。
だが最初は彼女のような存在が珍しいからテレビに出られただけで、飽きられたのだろう。
ドッキリとか水着とか身体を張った仕事もしていたのにもかかわらず、いつの日かその仕事は徐々に少なくなった。
彼女からの頼みというのは、バラエティー番組の企画で彼女が長年片思いをしている異性がいることを告白。
これまでぽっちゃりのキャラクターで通していた自分の殻を破ってダイエットやイメチェンをし、徐々に綺麗になっていく彼女が先輩芸能人という先人たちのアドバイスを受けながら、アプローチをして最終的には告白するという企画だ。
だが彼女自身に想い人はいない。だから一番身近な俺をいわゆるサクラにして相手役を演じてもらおうというわけ。
俺はぶっちゃけバラエティーのこういう企画は嫌いだ。
理由は自分に好きな人がいることを暴露するし、普通に相手にも自分が好いているということがテレビを通じてバレる。しかも場合によっては自分と相手のチャットのやり取りが生放送で公開される。
その企画を受ける芸能人は兎も角、その相手が一般人である場合共通の友人や知り合いにもばれる可能性が高い。
そもそも自分と相手のチャットのやり取りが全国に放送されるなんてマジで嫌だ。それがたとえ友人だろうが知り合いだろうが家族だろうが、陰キャな俺にとってはとにかく嫌なのだ。
もしそのチャットや情報がセンテンススプリング的な何かに対して高額で売れるって分かっても俺は断固拒否する。それくらいネットの炎上は怖い。
「……最終的にはどんなオチでお前は満足なの」
馬鹿野郎。何で俺は自ら被爆しようとするんだ。自殺志願者か?世間に燃やされたのを口実に死ぬのか?
それに一番被害が被るのは目の前の彼女だ。「デブが調子乗りやがって」とか言われたら、いくらメンタルがそのお肉で覆われていたとしても、誹謗中傷で俺を追うように死にかねない。
話を戻し、なぜそんな依頼を了承したかのような返答をしたのか。
実を言うと俺は彼女に恋をしている。
そんなことを言えば「お前デブ専なのか」と引かれるであろう(誰にも言ったことないけど。)、だがコイツとはなんやかんや幼稚園の頃からの付き合い。
最初こそ親同士の付き合いで一緒に居ることが多かったのだが、彼女は幼い頃からデブではなかった。むしろ普通に可愛かったと思う。
だが元々食べることが好きな彼女は時が流れるにつれて食事量が増え肉付きが良くなり、それが徐々に誰からもフォローができないくらいに成長してしまった。横に。
だがそんなデブであることを顧みない彼女は、中学の時に地下アイドルとして活動することを決断するくらいのポジティブシンキング。
ナルシストかと思えば「顔のパーツは整ってるでしょ」なんてことを言う。腹立つ発言だが事実そうなのだ。
痩せれば美人なのにもったいない彼女の周囲の女子や俺の親も含めた大人たちがよく言っていたし、昔から見ていた俺も事実そうなんだろうなと思った。
だがそんな彼女も晴れてアイドルになってからは驕ることなくひたむきに努力をし、レッスンも欠かさず行っていた。
いつも俺とやっているRTAや某大乱闘などの格闘ゲームの時の顔とは違うその表情がなんだか楽しそうで、そんな輝いている彼女に俺は悔しながらも惚れてしまっていたのだ。
「あー、最終的には振っちゃっていいよ」
「それでいいのか」
「だって元々そういうの嫌でしょ。そんでこれからも友達でーってな感じで。私はフラれたのを乗り越える的な。もちろん事務所と裏合わせしたうえでやる」
「色々都合が良いかもしれないけど、俺が嫌なの分かってるなら頼むなよ……」
大体コイツは一切脈無しでもその程度の演技に付き合ってくれる男友達なんてそこそこいるだろうに。最悪女友達に名前変えてもらって一時だけ演技してもらうとか。なぜ俺に頼むのか。
もしかしてコイツ友達いないのか?いや、まさかな。一応中学の時の友達と会ってると聞いているし、昔から溌剌とした性格だから、やっていけてるよな……?普通に心配になってきた。
「だって、もし私が今つるんでる誰かと付き合うなら恭輔かなって」
「……おっえ」
あぶねえ俺で妥協したのかと思ったら違う返事が来たからキュンとして吐き気がした。ガチでマーライオンするところだった。
だが俺が気持ち悪がったと思ったのかバシンと背中を叩かれた。
「いってーな!?ぜってー骨折れた!」
「折れるか!か弱い乙女の力で骨が折れるアンタの方がが貧弱なんだよ!大体なんで昔から恭輔の体は骨なの!?同じもの食べて育ったんじゃないの!?」
「違うわ!何で俺がお前と同じもの食って育ったと思った!?」
それにお前がか弱いとか嘘だろ。なんていつものように言い返してやろうとしたら彼女の曇った表情に息がつまった。
彼女はいつも笑顔を絶やさなかった彼女が俯いている。
「でも、イメチェンしたいのは本当だよ。キラキラした世界に飛び込めたのに、誰にも認められない。私昔から自分が大好きだったからさ、自分が嫌いになりそうで……」
確かに彼女はいつもなら真っ先に手を出すはずの置いてあるポテチとコーラに手を付けていない。
俺はそんな彼女が好きになったわけじゃない。自分の見た目を顧みず、だからといって自虐もせず驕ることもせず生き生きと輝いていた彼女が大好きなんだ。
「テレビには絶対出ねえからな」
「ありがとう!!今度おごる!!」
「……リバウンドすんなよ」
「うっさいわ!」
マジで叩かれた。コイツ痩せたら今度はゴリラになってるんじゃねえの。
―――
そんなやり取りを交わしてから数日。長期間に及ぶこの企画が着々と準備している水面下で、俺らの関係が変わるなんてことは無かった。
そもそも別々の高校に上がってから会う頻度は格段に減っていたし。
そして番組の企画の第一弾としてまずは現在脈アリなのか探るため、チャット画面が大画面に堂々と曝け出られていた。
マジで俺とアイツのトーク履歴が移っており、ヤラセじゃねえのかよ、いやアイツに頼まれてる時点でヤラセだったわなんて遠い目をした。
この時点で俺はトークでただの友達であるという認識であるという素振りを見せている。
そんな予定もなかったのに突然告白して来た時は流石にビビったがどうにか平常心を保ち、『ピザでも食い過ぎたのか?』なんて返したら後日普通にキレられた。
収録だったので後日編集されて出された放送を見ていたのだが、当の本人はめちゃくちゃ悲鳴を上げていてガチ恋を演じていた。ここまで演技上手いならドラマ出られるんじゃないの。
ちなみに会話を始める前にした最後のトークは『ごめん遅れる。先に始めてて』『もう何回もぶっ殺してるわ』『うわ』なんてオンラインゲームのトークだったので、物騒なやり取りだなと軽くつっこまれた。トークあらかじめ消しとけよ。
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