第10話 ギルドの状況
そして俺達はグリンダムの冒険者ギルドの近くへとやってきていた。
ナタリーが冒険者ギルドの建物を指さしながら言った。
「あそこが冒険者ギルドだよ。」
「うん?誰か倒れてるぞ。」
俺は誰かが倒れている事に気がついた。
冒険者ギルドに向かう路上に茶髪の少女が倒れていた。
俺は少女に声を掛けた。
「おい大丈夫か??」
俺はその少女を抱き起した。
するとその少女が俺に小さな声で言った。
「お腹空いてるんです。何か・・何か食べ物をください。」
「ルーデル焼きでいいか??」
「はい、ありがとうございます。」
その少女にルーデル焼きを渡すとすごい勢いで頬張り始めた。
「ハグハグ、もぐもぐ。」
俺はその少女の食欲を見て驚いていた。
「すごいな。」
「この子よっぽどおなかが空いてたんだね。」
少しして俺が渡したルーデル焼きをその少女はペロリと平らげてしまった。
「ありがとうございました。ルーデル焼きは大好物なんです。」
「そうかなら良かった。」
するとその子がお辞儀をしながら俺に言った。
「すいません、私はマリーヌと言います。今年で12になりました。」
マリーヌは鮮やかな赤い髪のロングヘアーだった。
体は華奢で胸は小さかったがとてもかわいらしい顔をしていた。
俺はマリーヌに尋ねた。
「どうしてこんな所で倒れてたんだ??まさか親に捨てられたのか???」
マリーヌは首を振ったのだった。
「いえそうじゃありません。お父さんもお母さんも故郷で元気に暮らしてます。決して捨てられた訳ではありません。両親とはいい関係なんです。」
「それならなんで??」
「お金がなかったんです。私は新米の冒険者なんですけど、まだEランクなので全然お金がないんです。なかなか冒険者だけで食べていくのは難しくて。」
「そうなの?」
「はい、今コボルト討伐の依頼はこなしても100ティルしか貰えないんです。生活を切り詰めてもやっていけなくて。」
「あれっ?でも冒険者ギルドには大金が支払われているはずだよね??なんでこの子は100ティルしかもらえてないのかな??」
「すいません、詳しい事は分かりません。」
「どういう事だろうね?ジャン??」
ナタリーが俺に尋ねてきたが、俺はナタリーに返事を返す事はできなかった。
物陰から俺達を見張っている気配に気がついたからだ。
俺は大きな声で言った。
「隠れてるのは分かってるぞ!そこのお前??出てきたらどうだ??」
俺がそう言うと建物の物陰から黒いフードで顔を隠した人物が出てきた。
フードの中から声が聞こえてきた。
「お気づきだったんですね?気配は消したつもりなんですが。」
「あれで気配消してたつもりだったのか?バレバレだぜ。」
「それであんた何者だ???ラズバーの回し者か?」
フードの中から声が聞こえてきた。
「いえ違います。私はラズバーの回し者ではありません。」
するとその人物が黒いフードを外したのだった。
驚いた事にその人物は女子だった。
緑色のロングヘアーで大きな胸の綺麗な女子だった。
「グリンダムの冒険者ギルドの職員をしているソフィアと申します。」
「ギルド職員??」
「あっいえ、本当に大丈夫です、確かに私は冒険者ギルドの職員をしていますが私はラズバーを支持していませんから。」
「それは本当か??」
「はい、本当です。」
どうやらソフィアは敵ではなさそうだ。
俺は警戒を解いた。
「どうやらみなさんもラズバーを支持してはいないようですね。でしたらグリンダムの冒険者ギルドの内情を知りたくはありませんか??良ければお教えしますよ。」
「ああ是非知りたい。ソフィア教えてくれ。なんでマリーヌは100ティルしかもらえないだ?」
「答えは簡単です、ラズバーがピンハネしてるんですよ。中抜きをしてラズバーが荒稼ぎしているです。各商会には大金を吹っかけて、冒険者達には少額しか渡していないんです。ラズバー一人が莫大な手数料を取って利益を独占しているという事なんです。」
「手数料を99.995%も取ってるとか許せねえな。とんでもない搾取じゃねえか。」
「今の冒険者ギルドは本当にひどい状況なんです。ギルドに所属する冒険者の人達は口を揃えて言っています。こなしたクエストの依頼料は実質的にラズバーにほぼすべてが上納されている状態なんですから。ほとんどの冒険者の人達は宿屋にすら泊れずろくに食料も買えない有様なんです。その上ラズバーはギルドに所属している冒険者の人達に絶対服従を強いています。冒険者の人達はみんなラズバーの奴隷となってしまっているんです。しかもラズバーは自分が欲しい冒険者の数が足りなくなってきたので、グリンダムの住民に冒険者になるように勧誘をし始めたんです。」
「勧誘って??」
「勧誘といえば聞こえはいいんですけど、実態はもっとひどいものなんです。ラズバーは民家に押し入って女の子達をさらっていくんです。」
「そんなのただの誘拐じゃないか?」
「私もそう思います。しかもさらった女の子達のご両親に対して冒険者としてのプロデュース料を請求してるんですよ。」
「本当に何を考えてやがるんだアイツは。」
「となるとマリーヌもラズバーの野郎に誘拐されてきたのか?」
「はいお父さんとお母さんと家で夕飯を食べてたら突然ラズバー様が家に押し入ってきて、さらわれてここに連れてこられました。それでラズバー様にお前は幸せ者だ。なにせこのラズバー様に尽くす事ができるんだからな。ありがたく思えって言われました。」
「ねえマリーヌちゃん。100ティルしか払われないんだったら、冒険者なんて辞めちゃえばいいんじゃない??」
「それはできないんです。冒険者になった以上はラズバー様に尽くさなければならないんです。勝手に辞めるなんてできません。」
「マリーヌ?ナタリーの言う通りだ。冒険者が好きなら続けてもいいが、とにかくあのラズバーの野郎から逃げなければダメだ。」
「でも私はまだ新人の冒険者なので来週からラズバー様の宮殿に行って添い寝のお役目をしなければならないんです。」
俺は嫌な予感がしてソフィアに尋ねた。
「ソフィア?添い寝のお役目ってまさか??」
「ええそのまさかなんです。ラズバーは誘拐してきたこの子を自分と同じベッドで一夜を過ごさせようとしています。」
「そんなことをマリーヌちゃんにさせようとしているの?」
「そうなんです。ラズバーはその為にたくさんの女の子達を誘拐しているのでしょうね。ラズバーの毒牙にかかった女の子達は少なくありません。かくゆう私もラズバーに関係を迫られて困っているんです。」
「ソフィアもラズバーの野郎に困らされてるのか?」
「はい、ラズバーの大宮殿に来るようにしつこくつきまとわれています。ラズバーがあまりにしつこいんで、この数日は仮病を使って冒険者ギルドを休んでいるんです。」
「それでラズバーに見つからないように顔を隠してたのか?」
「はい、そうです。ばったりラズバーにでも出くわしてしまったら、そのままラズバーの大宮殿に連れ込まれかねませんから。」
「ソフィア?俺に任せてくれないか?ラズバーの野郎は俺が何とかする。」
「えっ?」
「マリーヌも、絶対にラズバーからは逃げなきゃダメだ!!ラズバーの野郎は俺たちが倒す。」
「マリーヌちゃん私からもお願い、ラズバーから逃げて。」
マリーヌは困惑した顔をしていた。
「ええ??」
「まさかラズバーと戦うおつもりなんですか??」
「ああもちろんそのつもりだ。」
「正直無謀としか思えませんよ?ラズバーはたくさんの冒険者を従えていて、たくさんの魔物達の使役もしています。それにラズバーの大宮殿には幾重にも感知結界が張り巡らされています。まともに戦っても勝てる相手ではないと思います。」
「大丈夫だソフィア。それぐらいならやりようはある。」
するとソフィアが俺に顔を近づけてきた。
そして俺の顔をじっと見つめるのだった。
「うーん?」
「どうした?ソフィア??」
ソフィアは少し顔を離すと、俺に言った。
「あっすいません?私の最愛の人に似ていたもので。」
「最愛の人?」
「はい、最愛の人に似てるなーと思いまして。そうだ、お名前を教えてもらってもいいですか?」
「悪い、ソフィア、マリーヌ、名乗るのを忘れてたな。俺はジャンだ、ジャン・リヒター。ここに来る前はホルキスの竜騎士をしていた。」
するとソフィアが驚いて俺に尋ねてきた。
「ええっ??それじゃあホルキス竜騎士団のジャン様ですか?」
「ああ、そうだけど。そのジャン様って??」
するとソフィアが目を輝かせながら俺に言った。
「うあああ、ジャン様に会えるなんて光栄です!!」
「えっ?ジャン様ってどういう事だ?俺は追放された身だぞ?そんなに嬉しいか?」
「はい、とっても嬉しいです!!私にとっては追放されたとかそんなの関係ありません。みんな噂に流されて人を見る目がないんです。誰が何と言おうと私は絶対にジャン様推しですから!!」
ソフィアが目を輝かせながら言ったのだった。
「そうなんだな、ありがとう。」
「でもよく俺の変装が分かったな。結構入念に変装したつもりだったんだが?」
「私が愛しのジャン様の顔を見間違えるわけないじゃないですか?」
「そうなんだな。」
「それじゃあジャン様?ジャン様はラズバー打倒に向けて動いているという事ですか??」
「ああラズバーを打倒しようと考えてる所だ。ソフィア?もし良かったら俺に協力してくれないか?」
ソフィアが俺の右手を強く握りながら言った。
「はい、もちろんです!ジャン様の為ならなんでもさせてもらいます!!それにジャン様がラズバーの打倒に動いているのなら、これはラズバーを打倒できるかもしれませんし。私の方でジャン様に協力してくれる冒険者さん達を集めてみます。」
「ああ、ソフィア頼む。」
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