第6話 打倒依頼
その日の深夜、俺達はナタリーの案内によってグリンダムへの密入国を始めていた。
俺達は松明を片手に進んでいった。
「密入国っていうから何をするかと思ったんだが、ただ普通に平原を歩いてきただけだったな。」
「ホルキス王国とグリンダムの国境検問所を避けてグリンダムに入るとなるとここを抜けてこの先のグリーロ川を渡るルートが一番だと思うわ。」
「まあグリンダムの王国方面の国境線はほとんど警戒されておらんからのう。なにせグリンダムとホルキス王国は友好国じゃからのう。現にホルキス王国との境界線には柵すらなかったじゃろう。」
「そう言われてみれば、何もなかったです。」
俺達は平原を抜けてそれからしばらく歩くと川が見えてきたのだった。
俺が先に見える川を指さしながら尋ねた。
「あの川は?」
「グリーロ川だよ。」
「ジャン、川の水を凍らせてくれるか?」
「はい。」
俺はすぐに氷系魔法である凍結帯(フローズンエリア)の詠唱を始めた。
「凍てつく冷気よ、この地を全てを凍らせよ!!凍結帯(フローズンエリア)!!!」
俺の凍結帯(フローズンエリア)の魔法によって大きな氷の柱が川の河口にいくつも現れて川の水が全て凍りついた。
するとこの様子を見ていたナタリーが俺に言った。
「わあ、ジャンの氷魔法、相変わらずすごい威力だね。」
「そうか?」
「ナタリーに同感、だって川の水が全部凍りついてる。私もジャンの氷魔法はすごいと思うよ。」
「ジャン、よくやってくれた。」
「それじゃあ渡りましょうか。」
俺達は凍らした場所を通ってグリーロ川を越えたのだった。
それからしばらく山道を進んでいると周囲が明るくなってきた。
「まずいな、明るくなってきた。」
「あと少しでハミスブルク城じゃ。周囲が明るくなる前になんとか着けるじゃろう。」
俺達は目的地であるハミスブルク城へと急いだのだった。
そこからしばらく進むとそのハミスブルク城が見えてきた。
そして夜が明ける前に目的地であるハミスブルク城へと到着する事ができた。
俺はハミスブルク城を見渡してみた。
お城は山と山との間に隠れるように建てられおり、かなり大きな城だった。
さっそく俺達はハミスブルク城の中へと入っていった。
城の中は綺麗に整えられており、すぐにでも使える状態になっていた。
そしてナタリーに城の中を一通り案内してもらった。
「しばらくの間はここを拠点するといいとリール副市長が言ってました。」
「本当にこの城を自由に使ってしまっても良いのかナタリー??」
「はい、リール副市長からは自由に使っていいとの事でした。必要な物資の運び入れやお城の中の改修も終わっているとの事です。」
「リールはえらくワシらに気を使ってくれるのう。まあとりあえず今はお言葉に甘えて休むとするかのう。皆も移動や戦闘ばかりで疲れておるからのう。」
ナタリーの言う通り、城の中にはたくさんの物資が用意されており、当面は物資の心配は必要なさそうだった。
その日の夜ナタリーやミーシャが料理を準備してくれて、俺達は城の大広間で昼食をとっていた。
「助かりましたね団長?」
「ああ、そうじゃな。リールがワシらを招待してくれるのは本当にありがたいんじゃが。竜騎士団じゃぞ??これだけの城を修復するだけでもかなりの手間とお金がかかるはずじゃ。じゃから何かワシらを招いた理由があるはずじゃ。」
「理由は何となく察しはつきますけどね。」
「まあ多分あれじゃろうな。」
「ナタリー??リールは他に何と言っておった??」
「明日グリンダムの市庁舎までお忍びで来て欲しいとの事です。リール副市長がレティシア様にお話しがあるそうです。」
「明日か、分かった。ではジャンそしてナタリー、ワシとの同行の頼むぞ。」
「はい。」
「分かりました。」
「さてとそうと決まればしっかり腹ごしらえをしとかないとな。ナタリー??シチューのおかわりを頼む。」
「はーい。大丈夫だよジャン??ビーフシチューはいっぱい用意してあるから。」
次の日俺は団長のお供としてナタリーと一緒グリンダムへと向かうのだった。
俺達は崖の一番上の所からグリンダムの町を見渡していた。
「あれがグリンダムか??」
「うん、そうだよ。」
「確かグリンダムは海上交通の要衝で昔から交易で繁栄してきた町なんですよね?」
「そうじゃ、そして昔はホルキス王国の自治領だったが、ヤードス国王様によって独立が承認されて主権国家としてグリンダムが成立したんじゃよ。」
俺達は遠望に見える景色を一望していた。
そこには港町のグリンダムの全景が見る事ができた。
「いい眺めだな。」
「グリンダムにはきれいな場所がいっぱいあるよ?」
「ナタリーは元気がでてきたな??」
「ナタリーの出身地はここじゃからな。故郷に戻れてうれしいのじゃろう?」
「はい、こんなにはやくグリンダムに戻ってこられるとは思っていませんでした。」
「それじゃあナタリー??道案内任せたぜ。」
「ええ任せてジャン。」
俺達はナタリーの案内でグリンダム市街へとやってきたのだった。
グリンダムの中央大通りはメインストリートのようで大きな道にたくさんの店が立ち並んでいた。
だがそのほとんど店が閉まっている状態だった。
通行人すらほとんどいない状況だった。
俺は周囲を見渡した後でナタリーに言った。
「なんかあんまり活気がないな。商業都市ならもっと賑やかにやってるもんかと思ってたんだが。」
「おかしいな、私がいた時は毎日すごい人で賑わってたんだけど。」
「その辺も俺達を招待した事と関係あるんだろうな。今は市庁舎へと行こうぜ。」
「うん。」
そしてしばらく中央大通りを進んでいくとレンガ造りの大きな建物の前にやってきた。
「ここがグリンダム市庁舎か?」
「うん、リール副市長が待っているはずよ。」
俺達は受付に行くとすぐに市長室へと通されたのだった。
市長室には中年の男性が待っていた。
俺達が部屋に入るとナタリーがその男性に声を掛けた。
「リール叔父様、お久しぶりです。」
「ナタリーよく無事で戻ってきてくれた。」
「レティシア様、ナタリーの事ありがとうございました。」
「ナタリーも一緒に追放につき合わせてしまったから、ありがとうなどと言われる資格はワシにはないがのう。」
「何を仰います。レティシア様の非があった訳ではないのでしょう。」
するとその男性が俺に気がついて自己紹介をしてくれた。
「ああ申し訳ございません。グリンダムの副市長をしております。リールです。よろしくお願いします。」
「どうも、ジャン・リヒターです。よろしく。」
するとリール副市長がなぜか笑顔で俺に言ったのだった。
「おお君がジャン君か。君の話はよくナタリーから聞かせてもらっていたよ。ナタリーはいつも君の活躍の話ばかりしていたからね。」
ナタリーがなぜか顔を真っ赤にしてリール副市長にいった。
「リール叔父さん??その話はいいから。」
「そうか?」
ナタリーはなぜかすごく慌てた様子で会話を静止したのだった。
「リール副市長??この度はワシらを助けてもらい感謝にたえぬ。」
「いえ本来ならば正式な入国許可をお出しするべきなのですが、このような形でしかお助けできず申し訳ありません。」
「それについては別に気にはしておらぬ。」
「しかしホルキス竜騎士団の追放令が出たと聞いた時は本当に驚きました。」
「ワシも信じられんわ。まさか竜騎士団が解散させられて国外追放処分まで受けるとは。」
「ヤードス国王様の御不興を買ったわけではないのですよね?」
「ああそうではない。クレシーやラズバーが力づくで脅して竜騎士団を解散させて追放処分にするように国王様に迫ったのじゃ。今のホルキス王国は勇者クレシーが力づくで支配しておるようなものじゃ。」
「ヤードス国王様も勇者クレシーが怖かったのでしょう。なにせ魔王を倒してしまったのですからな。その実績は大きいですし、魔王を倒せるほどの実力を持っているとなれば、勇者の要求を無視するなどできようはずがありません。」
「そうは言ってもあ奴らは、たいして優秀ではないぞ。むしろ無能な連中と言った方がいい。物事の道理をまったく理解しておらんからのじゃからな。」
「それでリール副市長?なぜワシらの密入国を手伝ってくれたのだ?そろそろワシらを秘密裏に入国させた理由を教えてくれぬか?」
「はい、先ほど出てきた勇者クレシーにも関係してくるのですが、実は現在このグリンダムを牛耳っている大賢者ラズバーを打倒して頂きたいのです。」
俺はため息をついていった。
グリンダムで大問題になっているのがやはりあのラズバーだったからだ。
「やっぱりラズバーの野郎か。」
「ふむ、ホルキス王国の事ばかりに気を取られておったが、このグリンダムの状況もかなりひどいという事かのう?」
「はい、まさにその通りでしてこのグリンダムとて例外ではありません。勇者パーティの一人である大賢者ラズバーがこのグリンダムで幅を利かせており、やりたい放題しているのです。」
「そのやりたい放題ってのは具体的にラズバーの野郎は何をしやがったんだ?」
「そうですね。では順を追ってお話します。事の始まりはラズバーがグリンダムのギルドマスターになった事から始まりました。ラズバーはこのグリンダムの冒険者ギルドのギルドマスターに就任してからというもの色々と我々に要求するようになったのです。このグリンダムは帝国から目をつけられないために、基本的には武力を持っておりません。ですので揉め事の解決や魔物の討伐をしなければならない場合には冒険者ギルドに依頼を出して冒険者に解決してもらうというのが一般的な流れだったのですが?」
「そうだな、それがギルドへの依頼の流れだよな。」
「ですがラズバーは冒険者ギルドを仕切るようになってからまずギルドに自由に依頼を出す事ができなくなりました。ラズバーは自分が欲しいクエストの依頼だけを出すようにと要求してきたのです。」
「つまりゴブリンならゴブリンの討伐以外の依頼をギルドに依頼するんじゃねえってラズバーが要求してきたんだな?」
「はい、そうです。さらにラズバーはクエストの依頼料を吹っかけてもきました。」
「具体的にはどのくらい吹っかけられたんだ??」
「グリンダム周辺にはコボルトがよく出没するのですが、冒険者ギルドへの依頼は大半はこのコボルトを討伐してくれという依頼です。ラズバーが来る前はコボルト1体の討伐で大体1万ティルが相場だったのです。ラズバーがグリンダムの冒険者ギルドをしきるようになってからは、コボルト1体の討伐に対して30万ティルの依頼料を要求するようになったのです。」
「30倍も吹っかけてきやがったのか?」
30倍の値上げだと。とんでもない値上げの金額に俺は驚いた。
「そんな価格では誰もコボルトの討伐依頼など頼めないのではないか?」
「ええそのせいで依頼が激減したのです。するとラズーバはこう要求してきたのです。コボルト討伐の依頼を一人必ず1件は出すよう、グリンダムの人々に迫ってきたのです。」
「そんなのただの恐喝じゃねえか。」
冒険者ギルドへの依頼というのは自由に行われるものであって、決して強制されるものではないはずだ。
町の人達にお金を払わす為に依頼を強要する。
もうそんなのは恐喝以外の何物でもない。
「それで破産する人が続出しました。その為に我々は町の人々に矛先が向かないように商会が代表してラズバーにコボルトの討伐依頼を出すようにしたのです。それで破産する人を減らす事はできたのですが、今度は味をしめたラーズバがさらにクエストの依頼料を吊り上げてきたのです。コボルト1体に対して200万ティルの要求を出してきたのです。」
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