第14話 私はお前が欲しい
「僕は君と、戦いたい。いい、でしょ?」
エルエイスが私の用意した魔導人形を四体破壊して見せた。
しかもそれだけに飽き足らず、今度は私に対して戦いを挑んで来たのだ。
「あの人形、すごかった。なら、あれを造れる君は、もっとすごい、でしょ?」
「いやしかしな、あれを造ったのがミルカ殿という訳では――」
「いいですよ。その願い、受けましょう」
「なっ!?」
その類稀なる戦闘能力。
高位魔術をも扱える才能。
貪欲なまでの戦いへの渇望。
それはもはや、常人では理解出来ない領域。
「私ももう、うずいてしまいましたわ。なんだかわかりませんが、こう頬や胸が熱くなってぇ、今すぐすべてを晒け出してしまいたい――そう思えてしまうくらいに……ッ!」
「わかるよ、僕もそう。君と戦える事が、すごく興奮する。身体が、たかぶるんだ」
「ミ、ミルカ殿……!? エ、エルエイスまで!?」
最高だ。
完璧だ。
私はこの男が欲しい!
この男は私が心より求めていた存在だ。
魔導人形よりも、後見人よりも、後々の計画よりも。
後から補填の利く物などよりも何よりも、今すぐコイツがただ欲しい……ッ!
私に並ぶ強者を育てる――それが魔導王だった時の願望だったからこそ。
コイツの素質は本物だ。
まだまだ未熟で粗削りだが、
磨けばいくらでも輝き、その際限はもはや未知数!
ならば私自身が鍛えれば絶対に今の何倍も強くなれるだろう。
力も技術も精神も、知識も知恵も才能さえも限界を超えて。
果てには寿命さえ超越し、常識を打ち破る存在にさえなれる。
そう、この
そこに至ったならば、共に高め合うのだ。
その力が極限の更にその先へ到達し、また超えるまで。
終わりなき成長と、果ての真なる究極を探求し続けよう。
そして俺が、貴様を喰らってやろう……!
俺はずっと、そのような相手を求めてきた。
人を救い、世界を守り、最悪の破界神さえも討ち滅ぼしながら。
目的を果たす為に力を欲し、その際限ない能力の限界を求め続けたのだ。
だが気付けば、俺のように強い者は一人もいなくなった。
狩り尽くしたのもあるだろう。
しかしそれと同時に、強くなろうという者がいなくなってしまったのも大きい。
世界が「魔戦王に任せればどうにでもなる」と安心しきってしまったがゆえに。
俺はそうして自分のやり方が間違っていたのだと気付いた。
狩るだけでは駄目で、育てなければならないのだと。
だから俺は人生をやり直した際に決めたのだ。
逸材を見つけたならば育てると。
何が何でも鍛え上げ、俺の夢を成就させるのだと。
その機会がこうも早々とやって来るとは思ってもみなかった。
ならばやり合おうか。
その上で生かし、お前に心から思い知らせやろう。
その才能はまだまだずっと先へと伸ばし続けられるという事を……!
俺が!
この力で!
お前を!
徹底的にィ!
愛してやるぞおッッッ!!!!!
だが今、そのエルエイスはというと私に土下座してた。
なぜかはわからない。
おそらくラギュース達も。
ただエルエイスは全力で伏せきっていて。
「すんまっせェェェーーーん!!! イキっちゃってホントすんまっせェェェーーーん!!!!!」
この通り、もう完全に怯え尽くしていた。
しかもかなり震えてる。
座ってるのに膝がガクガクし過ぎて土面が削れているよ。
なんか額も打ち付け過ぎて、どんどん土の中に埋まっていってるんだけど。
「許して下さぁいホントマジで! 僕もう二度とイキりませんからァーーー!!!」
「「「エ、エルエェーイスッ!!!??」」」
このままだと地面に埋まって自ら埋葬されそうな雰囲気だ。
これには私もさすがに唖然とせざるを得ない。
でも、なんとなく原因はわかってしまった。
ふと自分の足元の変化に気付いた事で。
足元に生えていた草が炭化していたのだ。
おそらく、私の膨大な魔力を受けて生命力が蒸発したんだと思う。
それでようやく悟ってしまった。「ああ、そういう事ね……」って。
私はきっと、興奮のあまり潜在的な魔力波動を解き放ってしまっていたのだ。
叔母上を屈服させた時と同じ、いやそれ以上の魔力量で。
この手段は相手が魔力を使えないと効かない。
なのでラギュース達は気付いていないのだろう。
けどエルエイスは違う。
才能があるゆえに影響をダイレクトに受けてしまったのだ。
で、潜在能力が高過ぎるから効果もすさまじかったと。
「あのね、ちょっとだけでもいいの。あそぼ?」
「無ゥ理無理無理無理無理無理ィィィ~~~!!!」
「えぇ~~~……」
こうなっては時すでに遅し。
魂が委縮しきってしまって、才能さんが自ら蓋をしてしまった。
おめでとうエルエイス君。無事、凡人の仲間入りです。
不本意だけど、
えぇ、まぁた盛大にしくじりましたとも。
ひさしぶりに興奮し過ぎてやっちゃいました、テヘペロ☆
こうなったら何かきっかけが無い限り、元には戻らないだろう。
戻し方までは私もさすがにわからない。
詰みですね。新しい子を探した方が早そう。
なので現実に戻り、ひとまずラギュースに微笑んで頷いてみせる。
「……じゃあとりあえず全員クビって事で」
「そんな、あっさりし過ぎではないかい?」
「うんまぁ。でもちょっと拍子抜けだったので、もういっかなーって」
「投げやりにならんといて!」
「この失われた純情と情熱を返してくれるなら」
「なら今夜、どう?」
「「「閣下ァァァ~~~!!!!!」」」
でも結局これ以上の成果は得られそうになかったのでもう諦める事にした。
隊長五人は全員戦闘不能と、一応は私の勝利という事になったし。
この不完全燃焼感だけはどうにも納得いかないけどね。
――という訳で、私の提案が領主承諾の下で行われる事となった。
ただし総員クビとは言ったが解雇という訳では無い。
魔導人形の運用者としてこれからも働いてもらうつもりだ。
戦うのは壊れてもかまわない魔導人形だけでいいからな。
今はその魔導人形も少ないが、どんどんと量産して対応していく予定だ。
ゆくゆくは国を守れるくらいにまで戦力増強させたいものだ。
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