第12話 あれれぇ、そんな条件で本当にいいんですかぁ?

「この自動戦闘型魔導人形は今、合計で十体あります。もし私の下した処遇が不服であるならば、この十体をすべて倒してみせてくださぁい。何人がかりでも構いませんのでぇ」


 遂に私自慢の魔導人形達のお披露目時がやってきた。

 さっそく一人の兵士を吹っ飛ばせたので、デモンストレーションとしては上々だ。


 あとはこの十体でどこまで戦えるか。

 目標はそうだな……最低でも殲滅、叶うなら泣き叫ぶ姿を晒させたい。

 自信過剰な者が地に堕ちる姿はいつ見ても面白いからな。


「なるほど、それで破れないのであれば貴殿の言いなりになれ、という事か」

「さようでございます。力を信奉する皆様にとってこれ以上無い決め方でしょう?」

「……いいだろう。だがそれで人形どもが負けたならどうする?」

「その時はわたくしめをお好きになさっていただいて構いませぇん。抱くなり遊ぶなり首を刎ねるなり、なんなりとぉ」


 だがやる気を出してもらわなければテストの意味は無い。

 なので私自身をも餌にして好条件を突き付ける。


 すると早速、一人の男が私の前へと歩み出た。

 今了承の声を上げていた隊長の一人である。


「面白い小娘だ、よほどの自信があるようだな。ただ、戦いの条件はこちらで決めさせてもらおう」

「では、いかように?」

「五体でいい。こちらも精鋭五人を出す。それで一対一サシの対決による勝ち抜き戦を所望する」

「フフッ、うけたまわりましたわ」


 この男もよほど実力に自信があるようだ。

 騎士道精神かは知らんが一対一を願い出るなどと。


 こちらとしてはむしろ好都合だがな。


 その方が詳細なデータを取りやすいので助かる。

 なら願い通り、一人一人順番にテストさせていただくとしよう。


「隊長~! やっちまってくださいよぉ!」

「今夜のオカズ、楽しみにしてますぜーッ!」


 そしてこう思惑を巡らせている間に選抜五人も決まったらしい。


 相手はいずれも武器の異なる騎士団の隊長達だ。

 大剣、双剣、大斧にメイス、そして槍。

 チラリと見せた武器さばきはどの者も一流である。


 なるほど、兵士達の信頼を受けているだけの事はあるな。


「では初手はこの剛傑のギャロンが相手しよう! 悪いが加減はせぬぞ!」


 それで早速と前に出たのは大剣の大柄男。

 身丈ほどもあるグレートソードを両手で構え、私の手の上の人形を睨みつける。


 なかなか滑稽な絵面だが、当人はいたって真剣だ。

 戦いに全力を尽くす――その戦士としての心構えは上等だと言えよう。


 でも実力の方はどうかな?


 私の意思に従い、魔導人形が飛び出す。

 しかもそのまま相手へと向けて拳を構えながら。


「ぬぅんッ!!」


 しかし人形の拳撃は大剣によって防がれる。

 あまりの威力に衝撃波をももたらしたが、それでも踏ん張ってみせていた。


「つぅおおッ!!」


 更にはその巨大な刀身を地面へと叩き伏せる。

 人形を巻き込んだまま、力の限りに。


 地面に叩き付けられる人形。

 また素早く持ち上げられる大剣。

 超重量の武器であろうと軽々扱い、更なる追撃をも見せつける。


「でぃやァァァ!!!」


 そして遂には人形の脳天に巨大な刃が真っ直ぐ打ち付けられる。

 地面をも斬り、刀身を半分も沈ませ、大地を「ズドン!」と揺らすまで。


 ならば小さな人形など地中深くへ隠れてもう見えはしない。


「クククッ、軽いな! もう少し楽しませてくれると思ったが――」

「では是非ともォ、ご堪能くださいませぇ~……!」

「――ッ!?」


 だが戦いが終わった訳では無かった。


 突如として大剣が激しく高く跳ね上げられる。

 男の腕と肩もが引っ張られるようにして。


 すると直後、地面から人形が飛び出した。それも無傷のままで。


 しかも跳ね上がった大剣へと取り付き、男を見下ろしていて。

 焦りを滲ませる男へと向け、刃の腹を駆け降りる。


 その腕で大剣をまっすぐ切り裂きながら。


「うおおお――おぐあッ!!?」


 そんな凶器的な腕が男の額を殴りつけ、地面へと叩き伏せさせる。

 それだけにはとどまらず、跳ね上がった男を蹴り付けた。


 するとたちまち巨体が敷地の端へと弾き飛ばされる。

 まるでボールのように転がり跳ねて、壁にまで激突して。

 これでもうあの男は戦えないだろう。


 ……まずは一人目。


「確か勝ち抜き、とおっしゃいましたよね? でしたら引き続きこの子と戦うのはどちらかしら?」


 その圧倒的な力を前に、さっきまで興奮していたはずの兵士達が静まり返る。

 期待を砕かれて絶望したのだろうな。


 他人の力で粋がる者が現実を思い知らされる――実に最高サイッコウの気分だ。


「ま、まさかあのギャロン殿がこうもたやすく……!?」

「なんなんだあの人形は!?」


 これから戦う隊長どもも動揺を隠せないらしい。

 私が手を差し伸べているにもかかわらず、名乗り出る者が来ないのだ。

 まったく、さきほどの威勢は一体どこへいったのやら。


 なら面倒だ、こちらから仕掛けてやろう


「名乗り出ないのであれば仕方ありません。ではお人形達、一人一人に相手してさしあげなさいッ!」

「「「なッ!?」」」


 私の意思を汲んだ人形がさらに三体、箱の中から飛び出す。

 それと同時に、さきほど戦っていた個体もが。


 そうして精鋭残り四人へと一斉に襲い掛かった。

 ルール無視だが関係無い、やる気を見せない奴等が悪いのだから。


 するとたちまち悲鳴が打ち上がる事に。

 一人、また一人と殴られ蹴られて蹂躙されて。


 速さが自慢の双剣使いは攻撃が一切当たらなかった。

 相手が小さすぎて狙いがさだまらないのだ。


 力自慢の斧使いなど論外。

 速攻で斧を砕かれた後、地面に沈められた。


 先ほど主導していたメイスの男は一撃当てたが無意味だった。

 人形に傷一つ付ける事も叶わず、打ち返されて顔が潰れた。


 実に拍子抜けだ。

 隊長と言うからにはもっと骨のある奴等かと思ったのだがな。

 これなら最初の宣言通り、全員と戦わせた方がずっと良かったか。


 いや、委縮しきった雑魚を蹂躙しても何も面白くないな。


 なので少し不機嫌になってしまった。

 見るに堪えない惨状なので、ため息交じりにそっぽを向く。

 思い知らされる奴等を見るのは好きだが、マンネリなのは好まないのだ。


「ミルカ殿、安心するのはまだお早いのではないかな?」

「……えっ?」


 けどそんな時、ふと領主が傍でこんな事をつぶやいていて。

 まるで釣られる様に視線を戻した時、思っても見なかった光景が目に映る。


 たった一人だけ、いたのだ。

 人形を前に動じる事無く立ち、睨み続けている者が。

 槍を携えた長身細身の若い男だ。


 その相手に、魔導人形が動かず構えたまま距離を保っているという。


「あれは……ッ!?」

「あの男の名はエルエイス。我が騎士団の中でも若輩でありながら隊長の座をもぎ取った野生児だ。私の最も信頼する一人だよ」


 実は魔導人形には簡単な本能プログラムを仕込んでいる。

 相手の実力に合わせて戦い方を変えられるようにと。

 例えば、相手が弱い場合なら自ら飛び込んで蹂躙するとかな。


 しかしあのエルエイスという男を前に、人形は一切飛び込もうとしない。


 つまり警戒しているのだ。

 人形が相手の実力を本能的に察知した事によって。

 己の性能でも一筋縄ではいかないと理解しているのである。




 ……面白い。

 どうやら思っても見なかった逸材が紛れ込んでいたようだ。


 ならばその秘めた実力、魔導人形相手に思う存分発揮してもらおうか……!

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