第6話
秋月の目の下には濃い隈がある。妻のすずさんが慢性的不起症になってからあまり寝れてないのだろう。先程の演奏が少しでも心の癒しとなってくれれば…
何か私の力になることはないだろうか?
葛城は考えて、ある人物の顔が浮かんだがすぐにそのイメージを消し去った。
あれを紹介することは医師としてどうなんだろうか…しかし、今私にこれ以上できることはない。ただ毎日、北條すずさんの脈拍数と心電図を記録するだけ…
機会を与えるだけならば、いいのではないのか?判断は北條秋月さんにお任せしよう。
葛城真堂は覚悟を決めたように丸椅子に腰を下ろして秋月と向かい合った。
「脈拍数、心電図から北條すずさんの体には特に異常は見られませんでした。脳波からは夢を見ているだろうことが分かります」
そうですか。いつも通り特に異常はないと言うことですね…いつこの原因は解明されるんでしょうか?」
北條秋月は肩をガックリと落とし、目は葛城膝頭辺りを彷徨っている。
「我々も原因究明に尽力しているのですが、未だ解決の糸口は掴めずという状態です」
葛城は申し訳なさそうに伝える。
「すいません、先生がご尽力されていることは重々承知しているのですが…すいません、いつもの私っぽくないですね。いつもだったら淡々と返答ができるのですが、今日はちょっとおかしいですね…」
秋月は自身自分の反応に驚いて、タジタジとしていた。世界的ヴァイオリニストである北條秋月とヒットソングを出し続けているシンガソングライターの北條すずが共演した初めての曲、「夢の旋律」。その曲を演奏したことが秋月の感情のタガが決壊させるトリガーになったのだろう。1ヶ月も妻が覚醒しない状態とは夫としてどんな気持ちなのだろうか?
自らのことと考えるとまるで半身をもがれるようなそんな気持ちなんだろうか…
葛城は覚悟を決めた。
「北條さん、今から話すことは私自身の独り言です。医者としての発言ではありませんので、どうかお気になさらず…」
そう前置きして、葛城は独り言にしては少し大きい声で呟き始めた。
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