夢の旋律

天月 夜鷹

第1話 プロローグ

プロローグ 夢の世界

遠くから身体を芯から震わす咆哮が聞こえた。

 その後一瞬の静寂が訪れ、人々の悲鳴や叫び声で辺りは満ちた。北條すずは買い物の手をとめ周りの人と一緒にスーパーの外に出た。辺りでは車のクラクションがプーップーッと鳴り響き、人々は我先にと歩道や車道を駆け抜けて行く。信号は機能を失い、出鱈目に赤と青を交互に点滅させている。車内の人々も車での移動は困難だと考え車外に出て、逃げ惑う人々の群れにまた一人と加わっていく。盛大にクラクションを鳴らしながらこちらに近づいてくる車があった。他の車両に当たるのもお構いなしに走っている。停車中の車にぶつかり続け、車のフロント部はゴルフボールのように無数の凹みができている。人々は慌てて車の行く手から身を退ける。壊れた信号にセダンが差し掛かる。右からも高速でベンツが近づ、二つの車は衝突した。

ドンッという大きな衝撃音の直後に巨大な爆発が発生し火柱が上がり、二つの車両は炎に包まれた。各所で同様の火柱が上がる。

人々の悲鳴と爆発の轟音。

思わずすずも悲鳴を挙げていたが、必死だったため自分でもそのことに気づいていなかった。

北條すずは混乱しながらも他の人々に揉みくちゃにされながら前に進んでいた。

また咆哮が聞こえた。先ほどより近づいている、、、

怖い、、、一体なんなの?

ブーブー、、、、

街の防災無線からサイレンが鳴り響き始めた。

人の神経を逆撫でするような響きに人々の混乱は加速された。

突然地面が大きく揺れた。

今まで経験したことのないほど大きな揺れ。止まっていた車が少し浮き上がり、再び着地した。

すずは咄嗟に手すりを掴みなんとか倒れずに済んだ。何人かはバランスを崩して転んでしまった。


「ゔぉーおおおおおぉぉぉぉ」


先程まで鳴り響いていた悲鳴、喧騒、車のサイレン、防災無線は鳴りを沈め不思議と静寂が訪れている。

嵐の前の静けさだ。

ちょうど、舞台が始まる前に会場のざわめきが引き、演劇が始まるのを今か今かと待つ、あの静まり返った時に似ている。

何かの訪れを待つように。

ずしん、ずしんと重たい足音だけが鳴り響いていた。

ビルの裏から大きな影が現れ、すずの足元に伸びる。影はどんどん伸び向こうの山へと向かっていった。

すずは目をあげる。

そこには巨人がいた。

咄上げようとした悲鳴は喉の奥でつっかえて掠れた声が上がった。周りの人も動きを止めただ目を大きく見開いて一様に巨人を見つめた。

巨人はビル十数階分の高さはあり、五十メートルはある。手には大きな斧を持っており、その斧を肩に担いでいる。

全身は古代ローマの剣闘士のような鎧で覆われいる。痩身な体つきに見える。

巨人が斧を片手で振り上げる。細い腕からは考えられない膂力だ。

ビルに向かって振り下ろされた斧は、ビルをまるでバターの切るように一刀両断した。

両断されたビルの上半分は断面から綺麗にずれ落ちて落下した。

まるでマグロの解体ショーを見るように、すずの目はその斧裁きに釘付けになっていた。周りの人も同様に動きを止めビルが倒れる様に釘付けになっている。

ビルが崩れ落ちる轟音と共に、人々は我に返った。

その時間は数秒ほどであっただろう。

悲鳴と喧騒が甦り、我先にと巨人から逃げる。

すずも急いで逃げる。

巨人の一歩は途轍もなく大きい。巨人との距離はどんどん詰まっていく。

その大きな足裏は路上の車をまるで空き缶の如く簡単に潰しながら迫ってくる。

巨人は再びその巨大な斧を持ち上げた。斧の鋭い刃が陽光を反射して煌めく。

そして、空を斬る轟音と共に斧は振り下ろされた。

次の瞬間、すずの視界は暗転した。

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